コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.28 )
- 日時: 2019/08/15 22:01
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
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ルヒカラ王国は気候に異常がある。
それは昔から多くの国の間で知られてきた。
北の都は年中寒く、南の都は年中暑い。
この気候のせいで、昔からルヒカラ王国は作物の栽培に苦労してきた。
しかし、くっきりと別れたその二つの都の境界線上だけは暑くも寒くもない、不思議な空気が広がっていた。
そこに、ルヒカラ王国たった一つの外交門、つまり王国から外に出られる唯一の通路が設置されていた。
それをゲスト門と呼ぶ。
2126年7月。3日ぶりにその門はゆっくりと開く。
周りには国民ほぼ全員が集まり、渦のような人集りが出来ていた。
皆ゆっくりと開いた門を見上げると、パチパチと手を叩き始める。
音は風となりルヒカラ王国全土を揺らしていった。
少しして、審査所付近に置かれていた高台に人が上がった。
観衆の熱気はさらに高まり、それがフロッド=ルーベンである事を確信する。
「英雄だ!!」「ヒーローだ!!」「頼むぞー!!」
声があちらこちらから上がる。
フロッド=ルーベンは歓声に包まれながら観衆を見回す。
一点の迷いもないその瞳には最期になるかも知れない恐怖は滲んでおらず、ただいつもの通り、優しい眼差しで一点を見つめていた。
彼は茶色のローブをまとい、腰に短剣、無線機、背中に槍が入った鞘をかけている。
腰に短剣、背中に槍というのは昔からのルヒカラ王国の武装であり、どの兵士もその武装を強いられていた。
フロッド=ルーベンは側近に何かを囁かれると、一つ、拳を天に突き刺すようにあげた。そしてローブのフードを被り、そのまま地上に降りていき、門の外に立つ。
そこで初めてフロッド=ルーベンも一人の人間である事を感じたのか、観衆の人間が涙ぐみ始めた。
門が全開になり、いよいよ偵察者が生み出される。
歩み始めたフロッド=ルーベンはふと足を止め、フード越しに半分しか見えないルヒカラ王国を振り返る。
(見つけられなかったか。)
自然と苦笑する。
捨てたはずなのに、やはり込み上げてくる寂しさと悔いを感じる。
最期まで自分の情けなさは捨てられないのだ。
だが、これは自分で受けた最期の任務なのだ。
死ぬことになっても…そうだ、悔いはない。悔いは…。
ルヒカラ王国の偵察者はまた進行方向に向き直り、歩みを進めて行った。
後ろで、静かに門が閉まる音が聞こえた。
「行っちゃった。」
アクトがポツリと言う。
周りの観衆は皆互いに話し合いながら次々に解散して行く。
「お父さんの事、こんな形で初めて見たくなかった。」
アクトが今度ははっきりと聞こえる声で言う。
「…ごめんなさい。母さん。私達にはどうしても止められなかった。」
ミアの横でアマリアはただ黙りこくっていた。
「私が家でお昼の休憩を呑気にとっていた時、まさかあなた達がルヒカラ軍によって連行されているなんて考えても見なかったわ。」
「…ごめんなさい。」
「だけど、軍も何考えてるか分からないわね。牢屋じゃなく、何事もなかったかのように侵入者を家に返すなんて。……反省しなさい。子供だからって、今回みたいな事が許される筈が無いんですからね。」
「お父さんは帰って来るよね?」
アマリアは目を見開く。
不意をつかれたのと、出来事の直後なのが重なって、今まで作らないようにしてきた間を作ってしまう。
「帰ってくる。大丈夫。絶対に帰ってくるわ。あの人なら…。」
アマリアはミアとアクトの肩を持ち、誤魔化すように帰路の方向に向ける。
日が落ちてきて、雲の絶え間から日差しが見え隠れし始め、どこかで寂しげに虫が鳴き始めた。
ミアはどんどん寒くなってくるのを隠すようにコートに身を縮めた。
[ルヒカラ王国新聞 vol.794 9月14日]
◯7月上旬マストレードへ向かった偵察者フロッド=ルーベンは未だ帰ってこず。無線機の反応も無し。
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ルヒカラ王国からマストレードへは馬車で約1日半かけての道のりである。
それを一般的な軍人が歩くと約6日〜8日がかかる。
つまり往復12日〜16日。
それに偵察を含めても一ヶ月で帰って来られるであろう。
だが二ヶ月以上経った現在でも消息が耐えている現在、フロッド=ルーベンの生死は危うくなっていると言ってもいい。
ルヒカラ王国軍最高指導官ロト氏は、マストレード王国からの奇襲に備えて、軍兵に指揮をとっている最中だと言う。
一方で、偵察者の安否確認を行うとの噂も立っている。つまり偵察者の偵察者を裏で放とうとしていると言う事なのだろうか?
今後の展開一つ一つがルヒカラ王国の命運を分けることになりそうだ……。