コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.31 )
- 日時: 2019/10/05 16:09
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
ただレンガの道を何となく歩いていく。
何か大事なことが自分を呼び寄せている様な気がして。
ただただ歩いていく。
自分でも分からないのに分かる。
どこに向かっているのかが。
何故なんだろう?
分かるのはずっと先なんだろう。ずっとずっと先。
でも、忘れてしまいそうな気がする。
思い出したら、そのままどこかに溶けて消えて行ってしまう気がする。
それでもどんどん歩く。歩き続けて、そうだ、あそこの角を曲がって……
「……あ。」
そこでミアは目を覚ました。
いつのまにかぐっしょり汗をかいている。
着替えないと風邪を引いてしまう。
ため息をついてベッドから起き上がる。下を覗くとまだアクトがスヤスヤと寝息を立てている。
よくあんな事を伝えられた直後にこうもぐっすり眠れるモノだなぁ。
心の中で仕方がなくふふっと笑う。
上の段からそろそろとハシゴを降りて着替えがしまってある棚へと移動する。
地面に敷いてある毛糸のラグが昼間とは違ってヒンヤリとしている。
今日の昼、2時ごろだったっけな。
家のチャイムが鳴った。
父さんがいなくなってから、1日に何回も何回も新聞やら何やらの取材陣が押し掛けてきていた。
そんなにパシャパシャ写真撮って何が楽しいんだかね。
今日も取材陣だと思っていつも通り居留守を使った。
でもチャイムは鳴り止まなかった。
母さんは父さんが行ってから意気消沈してたし、私が一発今日は「もう来ないで。」って言ってやるつもりで玄関のドアの覗き穴を覗いてみた。
見たく無い顔があった。
あの日から1日もそいつを思い出さなかったことはない。
きっとアイツが居なければ上手くいってたあの作戦。
全部を台無しにした男。
ロトだ。
ロトは一人で来ていた。
全くの丸腰だった。
しかし、そこに隙はない様に思えた。
だから皮肉を込めてドア越しに「最高指導官さんなんかが丸腰で一体全体どうしたんですか?お引き取りください。」
そう言い捨てて部屋に戻った。
少しの沈黙の後、もう一回、チャイムが鳴った。
乱暴にドアを開けると、冷静な顔持ちで一礼した後、名刺なんかを渡してきた。
勿論目の前でビリビリに破って捨ててやったけど。
名刺が地面の水溜りに沈んでいくのを見てから、ロトはこう言った。
「約束の物を持って来た。」と。
約束なんてしたつもりも無いし、記憶にも無かった。
第一、ロトは本当に何も持っていない状態でここに来た。
「はい?何も持っていないじゃ無いですか?お引き取りください。」
ドアを閉めようとしたその時、
「お父さんを探さないか?」
体が止まった。
背中から冷気が体中に這い回る。
「…今、なんて?」
「だから君の、いや、君達の父親を2人で探しに行って欲しい。」
唐突だった。
取り敢えず、話を聞く気にはなったので、家の中に入れた。
アクトは最初敵意丸出しだったが、すぐに自分と同じ様にロトの言葉を聞くと、大人しく席に着いた。
アマリアを含めて4人で丸テーブルを囲む。
「フロッド=ルーベンさんの件についてお伺いしました。
ご存知の通り、まだ彼は帰ってきておりません。
普通なら、マストレードに囚われたと考えられるでしょう。
…しかし、私はそうは思いません。
彼ほど軍の中で優秀な人物はいない程、私も目を置いていた群を抜く実力の持ち主です。
そう簡単に囚われはしません。
実際、彼の所持品である無線機はまだ反応があります。
どこかで動けない状態、連絡をすることが出来ない状態にあると考えるのが妥当です。
どうです。偶然だ、と思ったことでもそれが二回続いて起こった時、それは確かなことに変わります。
ミアさん、アクトさん、フロッドを探しに、君達もマストレード王国へ偵察者となって行ってくれないか?」
ミアは驚く程すんなり頷いた。無意識だった。
しかしそこで金切り声がミアの耳を貫通した。
「ふざけないで下さいっっ!!夫の次は子供達ですって?!?!何があっても子供達は渡しませんッッッ!!!」
顔を真っ赤にして怒りを剥き出しにしたアマリアが叫ぶ。
アマリアが勢いよく立ち上がった拍子に椅子が後ろに大きな音を立てながら倒れる。
ミアとアクトはこんなに取り乱した母を見たことが無かったため、一抹の恐怖を感じた。
「ミアッ!絶対に行っちゃダメですからね?!
アクトもよ!!もうこれ以上私を困らせないで頂戴!
こんな男を家にあげたのが間違いだったんだわ、この悪魔っ!!出て行って!!」
しかしロトはそんな様子を見ながら、冷ややかな目でアマリアを見ていた。
「奥さん。今後のルヒカラ王国の命運はこの子達にかかっているといっても過言ではないでしょう。
今行かねばどっちにしろ近い未来にルヒカラ王国は滅び、貴方達はバラバラになります。
そんな運命を待つより、目の前のチャンスに手を伸ばす方が効率的でしょう。
この子達も、やる気が目に滲んでいます。
流石はフロッド=ルーベンの子供達といったところ…。
その意思は誰よりも強いでしょう。だから私は君達を選んだ。」
沈黙の後、ロトが言い放った。
「私情は、捨てて下さい。」
「…!!!」
また長い沈黙が流れる。
「私は誰一人死なせはしません。
フロッドも生きています。
もし、彼と、そしてこの子達が居なくなったのなら、私は速やかに今の地位を降り、貴方に私の首を捧げましょう。」
「ちょっ、何言って…。」
ミアが焦ったように声を挙げる。
「アマリアさん。私は、それほどの覚悟を持ってこの場所に来ている。
これでも、軍の最高指導官。人の命を束ねるプロですよ。」
そこでミアはロトの目がグルっと渦巻き始めるのを見た。
アマリアは恐怖を覚えたのか、自分たちを庇うようにして動かない。
「行きます。」
ロトが待っていたかのように笑みを浮かべる。
「ミア…!あなた…。」
声を挙げたミアは母の制止を振り切る。
「僕も行く。」
アクトも意を決したように言う。
「お父さんが助かるなら、ルヒカラ王国を救えるなら、私はどんな危険にだって立ち向かえる。もしかしたら、私はこの話が振られるのを待っていたのかも知れない。
アンタは嫌いだけど、この話には乗るつもり。」
ミアはきっぱりと言い張った。
「お母さん。大丈夫。行かせて。
きっとここで行かなかったら後悔するから。
あの人が言った通り、きっと家族がバラバラになる日が来ちゃうから。
だから、お願い。行かせて。
行かせて、ください。」
アクトが震える声を絞りだす。
アマリアは固まったまま動かなかった。
静かに自分がすべき選択を探しているようだった。
過去と、未来を自分の中で行き来しているようだった。
ほぅ、と一つのため息が部屋の空気を変える。
「私が見ていないところで、そんなに大きくなっていたのね。」
遠い目でアマリアがつぶやく。
「あの人が旅立つとアナウンスが入った日、私の中で何かが欠けたの。
ずっしり痛いくらいに心が重くなって、悪い妄想と過去の思い出が心を埋め尽くした。
でもあなた達を守る為、頑張って笑った。
自然とあの心は見えない毛布で包み込まれた。
毛布は暖かくて、柔らかくて、私を笑顔にしてくれた。
…でも、もう離さなきゃなのね。
行かせなければならないのね。」
アマリアは目を瞑り、もう一度息をはいた。
「分かったわ。
行きなさい。
好きなように生きなさい。
だけど、どうか自分を大切にね…。」
アマリアは二人の頭を優しくポンポン叩き、寂しげに笑った。
「ありがとう。」
気づけば、3人とも、泣いていた。
着替え終わったミアは布団の中へと潜り込んだ。
あの後ロトから伝えられたのは、フロッド=ルーベンの時とは違い、外部に自分たちが偵察者となって外に出ることを漏らさないこと。
本番は、ミアとアクトの他に、一人ロトの優秀な部下がつくこと。
今回は極秘の計画の為、本当に重要な人物にしかこの計画を伝えていないと言う。
ああ。まさか自分までが偵察者となってマストレード王国に行くなんて、考えても見なかった。
やはり不安はあるものの、同時に高揚している。
引き受けたからには、やろう。
やり遂げて、ルヒカラ王国を救ってみせる。
やってやる!!
(お父さんも、こんな気持ちだったのかな…?)
ミアはそんなことを思いながら、眠りについた。