コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.34 )
- 日時: 2019/10/25 23:47
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
「うぅ…。さっむい…。」
白い息を吐きながら、ミアとアクト、そしてアマリアは早朝に家を出てゲスト門へ向かっていた。
太陽が光を見せ始めたくらいの早朝となると、北の都ほど寒い場所はないだろう。
今が夏だった為良かったが、冬となればマイナス35度以下は避けられない。
道にうっすらと霜が降りている為、歩くたびにサリサリと音が鳴る。
ロトにマストレード王国への偵察者を依頼されてから約一週間。
いよいよ今日が出発の日であった。
前々に配布された偵察用のローブと、ルヒカラ王国の伝統的なマフラーを身につけて準備万端の状態だ。
まだミアとアクトは子供なので人間と戦うことは出来ないが、野生動物に襲われる可能性は十分にあるということで、ミアはロトから槍と短剣を、アクトは弓と短剣を手渡されていた。
「お母さんはルヒカラ王国の外に出たことある?」
アクトが何となく聞く。
「あるわよ。むかーしフロッドと一緒にマストレード王国へ行ったわ。
それからブンジル王国、ナイビア王国、サド王国…数えきれない。」
「へぇ!凄い!やっぱりルヒカラ王国の雰囲気とは違うんだ?」
「そうねぇ、どこの国にも個性、ってモノがあってね。
人が着てる物だとか、家の造りとか、道の開き方に違和感を覚えたわよ。
私達は旅が好きだったの。」
「へえ…。」
「その中でも一番いい国だったのが…マストレードだったのだけれどね…。」
「……。」
「そっ、そんな暗くならないでよ?あなた達、今からその美しいマストレード王国に行くんですから!偵察と一緒に楽しんできなさいよ?」
暗くなってしまった空気を散らそうとアマリアが口調を変える。
「…マストレード王国が何を持って国交断絶しているのか分からないけれど、理由さえ分かれば少しは皆気が楽になるはずよ。
何故私達が避けられているのか理由を知ることなく命を落とすなんて、そんな未来にしてはならないわ。」
「宣戦布告の花火…。あの日から音信が途絶えた。一体なんで何だろうね。
一見王宮の人物が何か仕出かしたように見えるけど、偵察者を使ってまで原因を探っているって事はきっと心当たりが無いからなんだ…。国でさえも分からないんだ…。」
アクトは言いながら、ルヒカラ王国国民全員の、いや、それよかもっと古く大きいプレッシャーが自分にのししかかるのを感じた。
(これは僕たちの手に負える問題なのかな…?)
アクトはチラっとミアを見る。
ミアはぼーーっとして今にも目を閉じそうにぐらぐら不安定に歩いている。
(…あっ、姉ちゃん、朝に弱いんだった……。)
ゲスト門に着くと、既にロト、そして3人の兵士が到着していた。
「朝早く申し訳ない。少しでも市民の目に止まらぬ様にと時間を調整したんだ。
これは本当に極秘計画だ。
今この場にいる人物と、ルヒカラ王国国王アルベルト=フローマー様しかご存知でない。
市民にこの計画を公開すると、前の偵察者が死んだと勘違いする人や、国が捨てたと誤解する者が出るはずだ。そして同時にマストレード王国との関係をハッキリせぬまま誤解してしまうだろう。
君達の任務は国民に気付かれず、偵察者であるフロッドの安否を確認し、状況を我々に報告する事。
他に無駄な事はするな。
そして、最後に一つ。」
ロトがミアとアクトを交互に行ってから、呟いた。
「君達に、ルヒカラ王国の命運がかかっている事を、一時足りとも忘れるな。」
ミアとアクトは無言で深く頷いた。
「…あ。」
アクトがふとロトの隣にいる二人の兵士を見る。
「…どっかで、会いました?」
「会うも何も、ここに立っているのは君のお陰だよ。ルーベン君。」
ニコッと一人の兵士が笑う。
そして身を屈めて続けた。
「改めてこんにちは。アクト=ルーベン君とミア=ルーベン君。
第二兵団団長のルセル=ローベだ。よろしく。
そしてこっちが……。」
「あ、っ、ハイ!!!カ、カ、カール=ファイネンといいいまます。
よろしくお願いしますす。あっ、第四兵団しょ、所属です。」
くせっ毛の前髪が特徴の挙動不審な兵士が頭を下げる。
緊張しているのか呂律が回っていない。
「思い出した!兵士さん達、あの時の…!」
「この二人の兵士達は君達の無線機応答係、兼、誘導係だ。」
ロトが紹介を始める。
「二人は君達が何か聞きたい疑問を持ったり、道に迷った時に応答する。
無線機はGPSも兼ねているから、絶対に無くさない様に。」
「思い出したか?」
ルセル、と名乗った兵士がニヤニヤと尋ねる。
「あの、僕たちが正面門を突破した時犠牲に、いや、警備していた兵士さん達…ですよね?」
アクトが気まずそうにしながら答えた。
「ああ。そうだ。
あの場に居合わせた、つまり君達の顔を見て、実際に被害を受けた数少ない人間の内の一人だから、この任務がくだされた。
あの日に関係した人間以外、極力関係者を少なくする為に。」
「あぁ…それであの日正面門の警備に当たっていた人が選ばれたと…。」
ミアが納得した様に頷く。
「何かあった時のために、二人の無線機を担当する。
私がミア君の応答係で、こっちのキョドキョドした奴がアクト君の応答係だ。
何かあったときは、0756、と押すんだ。我々に繋がる。
まぁあいつが居るから大丈夫だとは思うが、気を抜くなよ。」
「あいつ…?」
「ガーダ。来い。」
ルセルが遠くでこちらを見ていたもう一人の兵士の名を呼んだ。
「子供だけじゃ危ない。君達の護衛だ。
なるべく人数が少ない方がいいのだが、偵察者の偵察だから3人まで定数が増えた。」
紹介された兵士は軍服ではなく、黒いマントをはおい、口元をスカーフで隠していた。
全身黒色で高身長。年齢は…十八くらいだろうか。随分と若い。
「ガーダです。」
そう言いガーダはペコリとお辞儀をした。
スカーフのせいもあり、何となく表情が読み取れなかったので、最初の印象はあまり良くなかった。一言で言えば、ミステリアス、って感じだった。
「よろしくお願いします。ガーダさん。」
もしもの時は、この人が私達を守ってくれるのか…。
何だか不思議な気分。
ミアとアクトは門の前に立った。
出発の時間が迫って来ていた。
「行ってらっしゃい。
どうか体には気をつけて。」
アマリアがミアとアクトをギュッと抱きしめた。
懐かしい何かがミアの鼻をくすぐった。
お母さんと長い間ハグしてなかったな。
「…帰ってきたら、家族全員でスープ食べようね。お母さん。」
アクトが泣きそうになりながら言う。
「当たり前よ。もう準備始めましょうかしら。」
アマリアは抱き合ったまま顔を見せずに言った。
「健闘を祈るよ。」
アマリアと離れたミアとアクトの肩をぽん、とルセルが叩く。
そしてこっそり耳打ちをした。
「本当はダメなんだが、暇になったら無線機使って俺たちを雑談係として使ってくれてもいいぞ。」
お偉いさんを雑談係として?
クスッと二人の顔が綻んだのを見て、ルセルが満足そうに微笑む。
「あ、アクトくん!ぼ、ぼくのことも使ってね!!!!」
カールが叫んだ。
二人はたまらず爆笑してしまった。
「急に話を振ってしまってすまなかった。」
カールとルセルの間からロトが出て来た。
ルセルは一歩下がり、カールもまた礼をしながら下がった。
「どうか。ルヒカラ王国を救ってくれ。
ルヒカラ王国の命運は君達の手の中にある。」
真剣な面持ちでロトが礼をする。
礼をしたところを見た事が無かったのか、無表情のルセルが少し動揺したのが見えた。
「君たちの父親は死んでなんかいない。
必ずどこかで生きている。
フロッドはそう言う男だ。
君達も自分の父親を疑ってはいけない。
君達なら出来るはずだ。」
門が、ゆっくりと開いた。
ガーダとミアとアクトは一歩外に踏み出る。
土の感触がした。
違和感は無いが、そこは確実に未知の場であった。
父と同じ一歩。
一歩を噛み締めて。
「行って来ます。」
後ろで、静かに門の閉まる音がした。