コメディ・ライト小説(新)
- Re: 雪融けに君を乞えば。 ( No.3 )
- 日時: 2019/10/30 22:21
- 名前: 朱代 玄々 (ID: s/G6V5Ad)
もうすぐ冬になる。あの日に、あの頃に戻れる季節がまた来る。
___君にもっと、好きになる。君にまた好きと云える日々が。君は何時も何時も俺に云うだろうな。
【私を早く忘れて】と、忘れる筈もない。忘れられる訳がない。君以外、俺は愛せない。君が俺を捉えたから。雅かこんなに一人を愛せるなんて、好きになるなんて俺ですら予想してなかった。だから、君から見たら物凄く予想外なんだろう。
白い花弁。天から舞い落ちる。数多の目に見えない結晶は、地を濡らし白に染めていく。柔らかで熱に弱いそれは雪。初雪が、街灯に当てられ反射し暗闇を照らす。
暗闇を一人歩く青年が居た。その青年は、街灯がある方へは行かず遠くに見える一際暗い、一寸先は闇かと云う程の暗闇を目指して歩いていく。青年の目的は愛した。否、今も愛している人に会う為だ。
まるで、闇に誘われるように。ふらりふらり、心此処に在らずな覚束ない足取りでぽっかり空いた穴。宛らブラックホールが其処に出来たような常闇。
常闇両隣には、雑鬼達が手招きしている。
「おいでおいで」
まるでそう言っているように、口を動かして青年が来るのをまだかまだかと心待ちにしているように青年が此方に近付く度に嬉しいのか笑みが絶えないでいる。
しかし、青年には見えていない。青年の目に見えるのは、常闇の中にある一筋の光。
その光の中に居る女性しか映っていない。他のものは眼中になく視界に入っていたとしても、青年にとっては気にならない。青年の心はもう人の領域を踏み越えたところにある。
数年前。否、十数年前から青年は徐々に心を明け渡すようになってしまっていた。初めは女性から仕向けたことだった。心、魂を生気を糧にしている女性にとってはそうしなければならなかった。
ただ、そう。人から化け物と呼ばれてしまうことを甚く悲しんだ女性は、自分がそう呼ばれても仕方ない存在だと分かっていても傷付く自分の心。
あまりにも脆い。例えこの身が人よりも長かろうが、人よりも幾分か丈夫だろうが心に傷を負えば弱る。
蝕んでいく。抉りとられる心、全ては。そう人のせい。そう人のせいなのだ。食事になる時だけ人から生気を少しばかり頂いているだけに過ぎず自分は決して人を殺めること等してないというのに。
だから、人が云う化け物。否、自分が思う化け物になろうじゃないかと、人の魂ごと喰らって体は永久に閉まって置こうではないか。わざわざ返したり、躊躇うことはもうしない。
しかし、自分の正体を知らぬ人が当然糧になってしまう。それは、此方としても罪の意識は少なからずある。だから、せめて一時の夢を見させようではないか。
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__________例えば、恋とか。
妖艶に。それでいて儚く微笑する。長い艶やかな黒髪、色白な肌、紫色の瞳と白を基調とした菫の模様が控えめに施されている着物を着ている女性は、人に。人間に失望し恨むようになってから数十年経った。
数十年経った頃に女性は本当の恋を知ることになるとも知らず、数十年前。女性は自分が考える化け物になり、人々の畏怖をも糧としてそして本来糧になる生気。否、魂ごと喰らい続け気に入った者を氷漬けにし部屋の奥へ飾る。
人はその女性を雪女と呼んだ。冬の季節にだけその男性が理想とする女の姿で現れる。世の男性を虜にするような笑みは魔性そのもの。
恐ろしい。しかし、そう自分の理想としている女の容貌をしているのだ。死ぬのは御免だが、逢いまみえたい。と当時のものはそう思っていた。噂は一人でに歩き忽ちに広まることになる。
丑三つ時。午前2時から2時半の間に雪女は、人の世。所謂現世に現れて糧となる男性を見定め、逢魔ヶ時に浚う。
否、迷い混ませるのだ。境界を越え常世へと続く狭間に。もう二度と常世の住人が帰り道を示さない限り帰れないようにして、そうして自分より恐ろしいものに会って心身共に疲労させて散々困っている様を見てから手を差し伸べて、喰う。
神隠しに会ったものは、其処で人ならざる者が見えるようになる。境界を越えた先は所謂死後の世界でもあり妖の住む世界でもあるのだから。一度境界を越えたら見えてしまうのだ。そうして憑かれやすくなる。