コメディ・ライト小説(新)

Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.6 )
日時: 2020/04/18 22:23
名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)




「藍ちゃんさ、俺のこと調べたでしょ」

 それは、さりげなく。軽い口調で、香坂飛鷹との初デートの初っ端。態度がぎこちなかったのだろうか。ぷすり、と命中した飛鷹さんの矢には少しだけ毒があって、私はその影響か表情が固まってしまった。

「……えっと、」
「でさ、それよりその腕の包帯は俺の知らないうちにリスカでもしたのかな」
「……えっと、」

 うまく誤魔化す方法はいくらでもあったのに、いざ口を動かそうとすると全然頭が回らない。

「飛鷹さんは、優しいのか怖いのか、わからないです」
「藍ちゃんはが俺のことを怖いって思うのは、俺が君のことにずかずか突っ込んでいくから?」
「そういうんじゃなくて、うまく言えないんですけど、今まで私の関わってきた人とは飛鷹さんってなんか違う気がするんです」

 飛鷹さんは私の話を遮るように「今日は映画でも行こう」と声を張り上げた。じゃあ、と言って差し出した掌の大きさは大人の男の人って感じがして、私はその手をつかむのに少しだけ躊躇ってしまった。その躊躇した手を引っ張るように飛鷹さんは私の手を優しく包み込む。ごつごつした飛鷹さんの掌はあったかくて、私は手汗が出てないかちょっと心配になった。

「飛鷹さんって私に興味とかないんだと思ってました」
「こんなに強引に君のことを口説いているのに? 藍ちゃん、ほんと男に免疫なさすぎじゃない。お兄さん心配だよ」
「なんか、レンタル彼氏って感じ」

 それは失礼だよ、と少し怒ったような低い声で飛鷹さんは私の手を強く握った。
 表情はあまり見えなかったけれど、私の右手はほんのちょっとだけヒリヒリした。

「藍ちゃんはどの映画みたい?」
「私は別になんでもいいですけど」
「うーん、女の子はこういうのが好き?」

 映画館の上映中の作品の掲示欄から、飛鷹さんはわかりやすいラブストーリーを指さした。少女漫画原作の、今人気の若手俳優と女優を使った作品。なんでもかんでも人気の役者を使えばいいと思ってる、原作無視の大バッシング実写。

「飛鷹さんって、安直ですね」
「え、俺なんか間違った?」
「ダメですよ、女の子だからとりあえずラブがあればいいだろって感じ。どうせならホラー見ましょう。これ、これとか面白そう」
「待ってそれ惨殺ものじゃん。出会って数秒で爆死とか普通のやつじゃん。俺こわいよ」
「え、飛鷹さんホラー駄目ですか?」

 飛鷹さんの表情はわかりやすく曇っていたけれど、年下の女の子の前でそんなことは言えないと見栄を張っているのだけはよくわかる上ずった声で「じゃ、じゃあそれにしよう」とチケットを二枚買った。
 二時間後、飛鷹さんは喫茶店で死んだのかなってくらい潰れてしまったけれど、とても楽しかったので今日の初デートは成功だと思いながら私はパンケーキを二回おかわりした。