コメディ・ライト小説(新)
- Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.12 )
- 日時: 2020/04/18 22:18
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)
mellow002「 優しく騙して、甘い嘘で 」
可愛い顔をして性格めっちゃ悪いんだね。仲の良かった友達にそんな絶交宣言を受けたのは中学二年の春のことだった。桜がぽつぽつと咲き始めた四月の頭。彼女は私を睨みつけて吐き捨てるようにそう言った。日頃の鬱憤も全部吐き出して満足したかのように私の頬を勢いよくビンタした。
「ていうか、わたしがこういう人間って気づかなったの。それで友達って笑えるよね」
馬鹿みたい。言葉は発さなかったけれど、正直私にとってはどうでもいいことだった。
勝手に信じて勝手に裏切られて、ああ面倒くさい。私の感想はそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。私に怒りの感情をぶつけてもこの子は無駄だとわかっていないんだ。
「うわっ、どうしたの藍。ほっぺた真っ赤じゃん」
階段をおりていると偶然むかし近所に住んでいた幼馴染に会った。名前は三原あんず。おせっかいな世話焼きで、いつも私に構ってきて鬱陶しかった。引っ越していったからもう会わないと思っていたのに、中学でまさかの再会を果たしてしまった。三年ぶりの彼女はやっぱりむかしと変わらず鬱陶しくてうざかった。
「別に。あんずには関係ないじゃん」
「ああ、どうせまた友達怒らせたんでしょう。藍はすぐに面倒くさくなって適当に話切っちゃうから」
「なにそれ私が悪いの? 私がそういう人間って分かって付き合ってない向こうが悪いんじゃん」
「どうしてそんな冷たいこと言うかなあ。こんな可愛い顔して」
あんずは私の頬を優しく撫でて心配そうに私の顔を覗き込んだ。慈愛に満ちたその瞳に胸の奥がぞわっと騒めく。私にとってあんずの優しさは毒だった。こんな風に誰かに大事にされたことがないから。だから、気持ち悪い。あんずの言葉一つ一つが肌に合わずにしみになって広がっていく。
「どうせ好きだった人が藍のこと好きになったって言ってたーむかつくーみたいな恒例のやつでしょ」
「まあ。いつものだけど」
「藍は自信もっていいんだよお。性格は悪いけど、本当に美少女なんだから」
なんのフォローにもなっていないということはきっと彼女自身一生気づかないんだろうな。
下駄箱で靴を履き替えて外に出る。あんずが一緒に帰ろうとついてきて離れなくてやっぱり鬱陶しかった。
「ていうかさ、私は今日は咲良に会いに行く日なんだけど」
「ああ、いいな。わたしもついていっていい?」
「は。絶対に嫌なんだけど」
「私も会いたいなあ」
「死んでも嫌。ついてこないで」
私の後ろを追っかけてきてひっつくように彼女は私の隣を歩く。当然のように。いつものように。
どれだけ私が嫌悪感をいっぱい表情に態度に表しても彼女は全く気にせずに私に構ってくれる。そういうところはやっぱりうざいと思うけれど嫌いじゃなかった。
私のそばにくる人間は私の表面しか見ないから。だから私の中身をしって落胆する。そりゃ当たり前だ。天使だと思って近づいたら悪魔なんだから。でも、それを知らないのが悪い。気づかないのが悪い。私が自分の性格を変えることなんてできないんだから。一回全部記憶が吹っ飛んだら、優し心まで優しい天使が完成するかもしれないけれど、そんなの夢物語だから。
「会うの久しぶりだなあ咲良くん。楽しみ」
あんずがうきうきして私の隣を歩く。スキップでもしてるかのような軽い足取り。私は軽くため息をついて足を進めた。
今日は半年ぶりに咲良に会う。弟の咲良との久しぶりの面会日だった。