コメディ・ライト小説(新)
- Re: ヒロイン(笑)になりまして ( No.1 )
- 日時: 2019/09/08 12:55
- 名前: RINO (ID: MK64GlZa)
100円ショップで買ったのだろうノートに書かれた姉の文字。
丸みを帯びた女子のよく書く形のそれだが、姉の文字はやや大きめで、主張が激しい。そして、その内容はーーまさに、乙女チックな恋愛小説だった。
時間設定はおそらく現代。
舞台は、『月城学園』という架空の学園だ。
ジャンルはゴリゴリの女性向け恋愛小説だが、ファンタジー要素も詰め込まれており、姉の恋愛脳に慣れているトオルならば難なく読むことができた。
「どうだった? 面白かった?」
引きこもり気味なせいか、肌の白さが目立つ姉の顔を見ながら、トオルは素直に感想を述べる。
「逆ハーレム……っていうのかな。出てくる男のほとんどが主人公に惚れてたけど、そこに違和感があったよ」
ネットで覚えたばかりの単語を使い、自分の知識力をそれとなく披露するも、常にスマホを側に置く姉にとっては慣れ親しんだ言葉なのか、完璧にスルーされた。
「まぁ、主人公が平凡設定なのにひとめぼれはおかしいかなー?」
「一人くらいならあるかもしれないけど、二人や三人虜にするのに平凡な容姿じゃ説得力がないかもね」
どこかで、男は女よりもひとめぼれをしやすいと読んだことがある。
別に平凡な容姿だからって、ひとめびれをされない理由にはならない。
……ただ、そう何人もイケメンを虜にするっていうのは違和感があるだけで。
「うーん……やっぱり捻りが必要かな」
そう言う間にも、早速ペンを取る姉に嘆息する。
友達から羨ましがられるほど綺麗なのに、現実の恋愛に見向きもしない。
彼女が欲しいと思っているのにできないトオルには理解不能だった。
「アドバイスありがとう」
部屋に引っ込んだ姉を置いて、トオルは家から出る。
「あら、カナちゃん、どこ行くの?」
散歩中の近所のおばさんに話しかけられ、顔をしかめそうになる。
このように、姉と間違えられることが多々あるのだ。これも、姉によく似た女顔のせいなのだが、声も低いし、手も女のように柔らかくはない。
「こんにちは。姉は家にいますよ」
「あら、トオルくんだったの……ごめんなさいね、よく似てるから」
いえ、と言って、その場を離れようとする。
よく間違えてくるこのおばさんが苦手だった。
ーーだけど。
「!」
その場から離れるより先に、トオルの姿はかき消えていた。
唐突にトオルが目の前から姿を消したことに驚くおばさんだけが、しばらく立ち尽くしていた。