コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.100 )
- 日時: 2022/10/16 21:54
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: qd1P8yNT)
「……おまじない、って‥」
何を言っているんだ、と言葉が出るよりも声をだして笑ってしまった。
胸の奥からこみ上げるこの気持ち。どうしようもなく泣きたくて、むずがゆくて。
初めての感情に疑問を浮かべるばかりだった。
そんな中、彼は私の顔をまじまじと見つめているのに気づく。昔から人にじろじろ見られるのはあまり得意な方ではない。
「……なによ。そんなに見てもいいことなんてないわよ」
少しむっとした声で返せば「悪い悪い」とまったく悪びれている様子なんてない声色が返ってきた。
「俺は龍司っていうんだ。お前は?」
「……千代」
「千代……千代か。良い名だな」
――まただ。
彼に会ってから私の心臓がなんだかおかしい。
そういって優しく微笑む姿をみて、心臓がきゅっとなってしまう。
「なぁ、俺、お前に一目ぼれしたかも」
「はぁっ……!?」
何を言い出すのかと思えば突拍子もないことを言い出した。
「なあ、また会いに行っていいか‥?もちろん、お前が嫌ならもう会わない!……けど‥俺はまたお前に会いたい」
元気が良いと思ったら今度は急にしおらしくなりながらこちらを伺うように見つめてくる。
……調子が狂う。
「……別に嫌じゃないわよ」
「本当か!!!」
途端にパッと花が咲いたように周りが明るくなったような笑顔を向けられて思わず顔をそむけてしまった。
この人といると、なんだかおかしい。むずがゆくて、まるで私が私じゃないみたい。
……でも、不思議とそんな自分が嫌ではない。
こうして私と龍司君はよく会うようになった。
龍司君と会っていろいろ分かったことがある。
弟がいること、魔物で魔法が使えるということ、住んでいる村では魔王と呼ばれていること。
それはまるでプレゼントの紐をゆっくりとほどいていくようなワクワク感と、秘密を少しずつ共有していくようなドキドキ感。
気が付けば龍司君といるのが楽しくて、楽しくて。会える日を心待ちにしている自分がいた。
龍司君と会って話すたびにむずがゆくて、少し泣きそうな気持になって、この感情が分からないまま月日は経っていく。
時折私を見て嬉しそうに見つめてくる視線に少し‥いやかなりくすぐったい気持ちにはなるけれど。
いつまでもずっと続きますように、と願わずにはいられなかった。
ある日、いつものように龍司君と話をした帰り道
ふと、いつもの帰る道が妙に違うと感じた。
いつもと同じ道を帰っているはずなのに、何だろうこの違和感。
まるで道が荒らされているよう、な―――、
急激に嫌な予感が走った。
心の中で何度もお願い、と誰に伝えるわけでもなくただ自分の勘が間違っていますようにと強く叫んだ。
村が近づく度、所々に血のような跡があった。
そんなはずない、きっと動物たちが道を踏み荒らしただけ。
家に帰ればすぐお母さんやお父さんが迎えてくれるはず。
そうして私の顔をみて少し驚いたあとに笑って、「大丈夫」と声を掛けてくれる。
そう、いつも通りよ。何も怖くないわ。
相反して早くなる鼓動を必死で沈めながら気づけば転がるようにして家に戻っていた。
「お父さんっ!お母さんっ!!!」
いつもなら周りの目を気にして大きな声なんて出したことなかったのに、それすらも気にする余裕なんてなかった。
「―――、」
声を出して気づく。
――――村が静かだ。
静かすぎるくらいで、まるで――
そこまで考えて首を振り、ゆっくりと家の中に入る。
頭の中で警告音が鳴り響く。
血のにおいがする。おそらく気のせいだろう。そうだ。そうであってほしい。
「お母さん……?お父さん……?」
いつもなら聞こえるはずの「おかえり」が聞こえない。
「……………おかあ、さ、」
声が震えてうまく音にならない。
「……あ、…」
呼吸が上手くできない。頭が上手く働かない。
目の前で血まみれになって倒れている二人の男女は、誰だ
「あ、……あぁ…………」
手足の感覚がない。床に座り込んでいる。誰が? 私が。 何故?
「――――――――!!!」
誰かが泣き叫んでいる声がする。まるで鬼の咆哮のようだ。
「ア、‥‥‥あぁあ、…‥あああぁァぁあアぁぁアァア!!!!!!!!!!!!」
なんてことはない。それは自分が泣き叫んでいる声だった。