コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.104 )
日時: 2022/10/16 22:07
名前: 猫まんまステーキ (ID: qd1P8yNT)





 なんて言っていたのか、覚えていない。きっとただひたすらお父さん、お母さんと呼んでいたのだろう。


 周りには荒らされた跡。それに気づくのは時間の問題だった。





 「………お前、生きていたのか」
 声がして反射的に振り返るとこの村の人間で。
 少しおびえたような、けれど怒りのこもった目をしていた。


 「この村に盗賊が入ったんだ」

 その村人は静かに話してくれた。


 数時間前にこの村に盗賊が押し寄せてきたこと。
 次々と家に入り込み、金目の物を奪ってはそこにいた住民を次々と殺していったこと。
 私の家も入り、運悪くそこにいたお母さんとお父さんも殺されてしまったこと。


 「……わしの家族も殺された」
 「……」
 「悪いのはここにいない盗賊だとわかっていても、どうしても、やりきれない気持ちはある」
 「……」
 「忌み子よ。鬼でも人でもない子よ。お前がこの村に来なければ、こんなことにはならなかったんじゃないかと、ずっと考えてしまう」
 それは静かな怒りだった。



 「やはりお前は、この村に災いをもたらす」
 静かに、けれど研ぎ澄まされた怒りが無数に突き刺さる。




 「頼む。出ていってくれ、この村から」
 声は震え涙が出たのはどちらだったか。




 「……出ていってくれ!!早く!」

 怒声が聞こえたと同時に走り出した。



 全身に鳥肌が立つ。誰に対してかわからない「ごめんなさい」をただひたすらに言い続けた。




 ああそうか。やっぱり私がみんなを不幸にしてるんだ。

 私と一緒にいたから、私があの村にいたから、お父さんやお母さん、村の皆が殺されたんだ。

 走って、逃げて、彷徨って、どうしようもない吐き気に襲われて思わずその場で吐き出した。




 こんな半端者、消えてなくなりたい。




 気づいたら私が私自身を生かすのを拒絶しているかのように、食べ物や水を飲んでもすぐに吐き戻していた。

 


 どれだけの時間が経ったか、村からどれくらい離れたところにいるのかわからなくなってきた頃。もうきっと自分がダメになるのも時間の問題だと視線を下にさげたとき、


     リボンが視界に入った。

 「―――、」


―――「お前が、お前のその綺麗な角が、少しでも好きになれるようなおまじない」


 懐かしい、記憶だった。今でも彼は、私に会っても同じことを言ってくれるのだろうか。

‥そこまで考えてやめる。もうきめたのに。彼と会うと今度は彼を不幸にしてしまう。


「(……それでも、彼に会いたいだなんて――、)」


 



 「――やっと見つけた」


 息が、止まる。



 聞き間違えるはずがない。だって、今私が最も会いたいと思っていた人で、




 「やっぱりお前の角はきれいだな。遠くからでもすぐにわかった」



 最も会いたくなかった人。





 「……少し‥いや、かなり痩せたな。でも千代が無事でよかった」



 一歩、近づく。 やめて。


 「……あちこち傷もできている。このままだと悪化しちまう」



 今まで我慢していたものがあふれてしまう。 壊れてしまう。


 「千代、」

 来ないで。



 見ないで。こんな私を。
 



 


気づいたら思い切り龍司君を押していた。

 「……もう、会えない、」
 「‥‥?……会えない?どういうことだ?」


 「私といたら‥っ、龍司君まで不幸になっちゃう‥!」


 幸せだった。こんな私が、誰かと一緒にいられたことが。
 幸せだった。こんな私でも、誰かと同じ時間を過ごせたことが。


 だから。


 この幸せで愛おしかった時間をどうかそのままで思い出として大切にしまいたかった。



 「アッハハハハ!!」

 そう思っていたのに。突然響いたのは笑い声だった。

 「なんでだ?なんでお前といると不幸になるんだ?」
 その答えは予想外で。思わずたじろいでしまう。

 「わっ、私が忌み子で……半端者だから……周りにいる人たちを不幸にさせちゃう‥」
 どんどん言葉がしぼんでいく。

 「だから――、うわっ!?」
 言い終わる前に遮られる。視界一杯に龍司君が映っていて自分は龍司君に抱きしめられているんだと遅れて気付いた。


 「えっ、ちょっと龍司く――」
 「ほら。現にこんなに近くにいるのに不幸にならない。それどころか俺は幸せだ!」
  



 世界が 変わる。



 「お前の村にも行った」
 「……っ、」
 「村の奴らから聞いた……お前の両親はきちんと埋葬した。だから安心しろ」
 「‥え、」
 「つらかったよなぁ……よく頑張ったな」

 龍司君が言葉を紡ぐたび、涙があふれてくる。


 「――それにそんなので、俺は不幸になんてならない!」
 「うわっ!?」
 抱きしめていた手を緩め今度は体がふわりと浮いた。足を抱えられバランスを崩しそうになり思わず肩に手をやる。それを龍司君は確認しそのまま数回回転した。

 いつだって龍司君は唐突だ。


 「お前とずっと会えなくなることの方がよっぽど俺は不幸だ」

 唐突で、


 「一緒に不幸になるならお前とが良い!!!」


 

 いつも私を幸せにしてくれる。





 「そりゃあ生きていればずっといいことばかりではない。つらいことや不幸なことだって起こるだろう。だけどな、俺はそんな時もお前と一緒にいたいんだ」

 いろんな感情を知る。



 「だから俺と一緒に来てくれ!千代!!!」

 


 この愛おしい気持ちも。



 ああ、世界が 彩っていく。






 「―――うん。行きたい」




 こんな私が誰かと一緒に幸せになる未来を作ってもいいのなら、
 それは間違いなく今目の前にいる龍司君とがいいと思わずにはいられなかった。