コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.105 )
日時: 2023/01/02 00:28
名前: 猫まんまステーキ (ID: gb3QXpQ1)




 「……、」

 懐かしい記憶だったな。 なんで思い出したんだっけ。
 ああそうだ、この子が龍司君たちに危害を加えようとしたから、それで。



 「――、」
 今頃龍司君も頑張っているんだろうな。
 魔王――なんて名乗っているけど、彼はとてもやさしいから。


 だから――、


 「戦闘中に他の事を考えているなんて、随分と余裕なのね」
 「っ!?」


 突然光の矢のようなものがふりかかる。
 
 「あなたからは魔力を感じないけれど、それでもここにいるってことはリリィ達の敵であることに変わりないわ」
 薙刀で払うのに精いっぱいだ。


 「早く、シュナには目を覚ましてほしいの」
 

 ガキン―――――!!

 鈍い音がした。 次に重い衝撃。 ツノが欠ける。


 「――――、」

――「お前のその角が、すごくきれいだと思って」
――「やっぱりお前の角はきれいだな。遠くからでもすぐにわかった」


 ああ、 ツノが


 「――……待っ、」


 魔法使いの少女が次々と呪文を唱えるたび光の矢が降り注ぐ。


 「リリィ達の平穏を壊さないで」


 ツノに付けていたリボンがちぎれる。待って。


――「そうだ。俺がおまじないを掛けてやろう」
――「お前が、お前のその綺麗な角が、少しでも好きになれるようなおまじない」


 そのリボンは、



 「ダメっ―――!」



 なくさないようにと必死で手を伸ばして体勢が崩れる。 それだけは、



 「ッ……うっ、」
 光の矢がおなかをかすめる。意識が遠のいていく、気がする。


 「……」
 私が攻撃できないとわかるとゆっくりと腕を下ろし静かに近づいてきた。


――私、なんの役にも立てなかったなぁ・・

 「……あなた、なんでリリィに攻撃しなかったの?」

 上から声が聞こえる。



――そんなの、もう私の中ではとっくの昔に答えは出ていた。

 「……私はもう、勇者ちゃんのことが大好きなの。そんな彼女の大切な人たちを、やっぱり私は傷つけたくないのよ」
 至極単純な答えだった。もう彼女のことが好きだったのだ。
 まっすぐで、太陽のように明るくて、気づいたら私たちの中心にいる。そんな勇者ちゃんの事がみんな大好きなのだ。

 だから彼女が傷つくようなことはしたくない。彼女が私達に対してそうしようとしてくれたように。

 そうつたえたとき、彼女の顔が歪む。「うそだ、」と小さく聞こえた気がするのは気のせいだろうか。

 「リリィは……リリィ、は‥」
 「―――‥」
 

 苦しい。 当たり所が悪かったのか呼吸を整えるのもやっとだ。






 ねえ、見ているかしら。想像しているかしら。

 かつて鬼も人間も、そして自分自身も。すべて嫌いだった1人の少女に教えてあげたい。


 いつか、またすべてを好きになる。 自分自身を愛せる日がくることを。

 そして一人の人間の女の子が、壁を壊して飛び越えて、『わからない』ともがきながらも、それでも歩み寄ろうとしてくれたことを。


 だから


 「わからないから、きっとお互い歩み寄ることが必要なのね」
 
 

 ゆっくりと“彼女”に手を伸ばした。
 「私は、あなたと仲良くなりたい」



 だから―――、








 ◇◇◇






 「…………で、話とは?」

 眼鏡の男――ノアは訝しむように俺を見ている。
 
 「お、一応聞いてくれるんだな」
 「……本来であれば問答無用で戦闘に入ろうかと思ったんですが――俺の中ではシュナの言葉がどうしても引っかかる」

 戦闘態勢は緩んでいないが一応話を聞く姿勢にはなってくれるようだ。


 「あの人はたまに心配になるくらいお人よしでそれ故、騙されやすいですが信頼はできる人です。あの時の言葉と表情に洗脳や俺たちをだまそうというそぶりは一切見られなかった。だから少なくとも俺はあなたたちのことも聞こうと思った……信用、してもいいのかとすら」


 相変わらず疑いの目は向けられたままだ。だがきっと、こいつはこいつなりに歩み寄ろうとしている。


 「……ノア。俺はお前が――お前たちがこちらを傷つけない限りは、戦わない姿勢でいようと思っている」

 俺もその姿勢には向き合いたいと思った。


 「――俺は、真実を知りたいと思っています」
 「‥ああ」
 「だから事の顛末をこの目で確かめたい」
 


 この戦いの終わりが果たしてどこにあるのか、それはきっとまだわからないが



 「……おう」

 
 ここでかわした約束や向き合った事実はどちらも嘘ではないと思いたかった。