コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.14 )
日時: 2019/10/14 22:30
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)

 雨が、ひどく振っていた。


「ここ数日ずっと雨。これじゃあ満足に洗濯物を干すこともできない」

ルカが窓の外を眺めてそんなことをこぼしていた。


ここ数日、日に日に雨や風が強くなっていった。

相変わらず宮司はあたしを避けるように生活しているし、それに反して龍司はあたしにうるさい。

 「なんかなぁ」

あたしはあたしで千代さんが作ったというクッキーを頬張りながらサクラを眺めていた。

ここでの生活を気に入っているわけではない。だがあいつらに絆されているのは事実だ。認めたくないけど。
情が移っているわけでもないがこのままだと本来の目的を忘れてしまいそうになる。

そして今のままでは龍司に勝てないことも、心のどこかで分かっていた。
 

ここにきてちょっと経った。あいつにちょっかいを掛けられすぎて思わず剣で降りかかろうとした時もあった。
しかし奴はそれをいとも簡単によけたのだった。

 「はんげーき!」

そういってあいつは簡単な魔法を繰り出した。


結論から言うと、太刀打ちできなかった。

 「なんだ勇者!俺はまだ3分の1も力を出してないぞ!」

なんて言って笑っていた顔が恨めしい。

 「なにか勝算は‥」


そういいながら最後のクッキーを食べ終えた時だった。



――ドゴッッ!!!!



 「えっ!?」


雷鳴が轟いた。


思わず窓の外をみる。


幸いここには落ちていない―――が、サクラが今にも折れそうなほど風に煽られていた。


「―――――――‥」



―――――『この時期になると毎日宮司様は見て嬉しそうにするの!』


まただ。


あぁ、なんで。


なんでこういう時に。


―――――『みんなの大好きな場所なの!』



なんで!!!


 「―――なんでちらつくんだ‥!!」



思い出すのは、まるで人間のように笑って話すルカの事。

そして―――――、




 「―――――――くそっ!!!!」



気付いたら外へ向かっていた。



まだあいつらの事はよくわからない。わからないけれど。




 「あぁああぁぁああああああ!!!!」





サクラを見る宮司の穏やかな顔は、嫌いではなかった。






 「クッソ!!あぁもうどうしてこんなにも広いんだ!!あそこへ行く道はどこへいけば―――!!」


 「‥‥さわがしい。一体どうしたって――」


騒ぎを聞きつけて様子を見に来た宮司と窓を開けてサクラのもとへ降りたあたしはほぼ同時だった。



 「‥勇‥‥‥!!!!」
 「うおりゃあああぁああぁあっぁあああ!!!!」



ここにきて自分の体を鍛えて正解だったなと無事に着地できたときにぼんやりと考えていた。


 「なにやってるんですか!!馬鹿なんですかあなたは!!」
 
 「だって‥だってしょうがないだろ!!体が勝手に動いたんだ!!ルカ達や、お前が‥‥‥宮司が大事だって!!!聞いちゃったから!こんな折れそうなサクラ、放っておけないだろ!!!」

 「だからって‥‥‥どうやって守るんですかその状態で!あなたもうずぶ濡れじゃないですか!」

 「っ、わかんない!!!わかんないけどっ!あたしもかじった程度の魔法なら使えるからっ!それなら―――!!」


防御魔法の応用を使ってサクラ全体を覆う。

 「(っていってもあたしはそっちのほう専門じゃないからいつまで持つか―――)」


それにずっとこのままというわけにもいかなかった。


 
 「おいおいおい!なにやってんだよ勇者!お前思い切ったことやってんなぁ!」

 「龍司!?‥‥うわっ!」

 「ありがとな勇者!」

そういって手をくいっと動かすと突然あたしの体が浮いた。そしてそのまま屋敷の中へ戻される。


 「こうすれば、一発だ」


反対の手でまた何か動かすとあたしが作ったものよりもさらに大きくて立派な膜となってサクラ全体を覆った。


 「―――これで大丈夫だ」

 「‥‥は、」


思わず息が零れる。雨風が相変わらず激しい。全身が濡れてびしょ濡れだ。でもなぜだか、寒さは感じない。



 「まったく。急に奇声が聞こえると思ったらそんなことのために窓から降りて守ったって言うんですか?」

 「うっ‥でも、しょうがない‥だろ‥あたしだって不本意だ。でも、気づいたら‥お前らに絆されちゃってたんだよ!!‥あたしも不本意だけど‥」

そう、言葉を紡ぐ口はかすかに震えていた。魔物にあたしは何を、



 「お前らが大切にしているって思ったらつい‥」


目を見開いて驚く宮司。

千代さんが嬉しそうに微笑んでいる。後から駆け付けたルカとミラがタオルを持ってきてくれている。龍司があたしと宮司をみてにやにやと笑っている。ああもう、だからそんな人間みたいなことをしないでくれったら。



 「勇者は本当に俺の事を倒しに来たのか?」

 「うううるさい!!」

 「本当に、馬鹿で呆れる。考えなしに動くからあなたもこの廊下もずぶ濡れだ―――――しかし、」


宮司が突然あたしの前に跪き、手の甲にキスをした。


 「えっ、えぇぇえ!?はっ!?宮司!?」

 「サクラを守ってくれたことには感謝します。今までの無礼をお許しください、改めて俺からも歓迎します。勇者」

 「―――――、」


 これは、宮司と少しは仲良くなれた‥のか?

 ◇◇◇

 「いやぁでもあれは見ものだった。傑作だったなぁ。なぁ?宮司」

 「‥なんのことでしょう」

 「とぼけんなよ。まさか宮司が跪いてキスまでするとは。あれは俺らが結婚の儀でやってもらった以来だよなぁ?‥‥‥手の甲へのキスはすなわち『敬愛』『尊敬』『信頼の証』――――。勇者は俺たちに絆された、なんて言ってたけど‥案外絆されたのはお前の方だったりしてな?」

 「―――別に。ただ彼女がサクラを守ってくれたことに対しての感謝を伝えたまでです」

 「へぇ―――‥感謝、ねぇ?」


 ◇◇◇



 なんて会話が裏でされていたのはつゆ知らず。かくして、サクラを雷雨から守ろうとしたあたしと、ちょっぴり態度が柔らかくなった宮司と、相変わらずうるさいメンツを加えながら今日も城の中の生活は続いていくのだった。