コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.15 )
日時: 2019/10/16 19:07
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)


 あたしがこの城にきて1カ月が経とうとしていた。慣れというものは怖いものだが事実、この城の生活に慣れてしまっている自分がいる。


 Episode5『忘れられた神』

あのサクラの一件以来少しだけ宮司はあたしに優しい。

相変わらず嫌味を言われることも多々あるが最低限の会話はしてくれるようになった。――いや別に、それが嬉しいというわけではないけど。

始めはただただ広くて歩くたびに迷子になっていたこの城も1カ月も過ごせばどこに何があるのかも把握できるようになる。

「(これは戦うときに有利になるぞ‥!)」

そう意気込んだが数分後に『そもそもあいつらはここに住んでいるのだからたかだかあたしが1カ月で場所を覚えたところで有利・不利は関係ない』という事実に気づき落胆するのだった。


「‥‥ん?」


一人でうなだれていると気になるものを見つけた。

「‥‥‥ほこら?」

それは確かに祠だった。魔王やらなんやらがいる悪の組織が神や他のものをたたえ崇め祀るのかといささか疑問を感じたがそれ以外にも何か引っかかるものを感じた。



「‥‥なんでこんなところに‥‥?」


そう、場所が明らかに変なのだ。変だと感じてしまう。一度感じたらもうそれは違和感でしかなくて。
確かにこの1カ月城の部屋という部屋、場所という場所を歩いて調べまくったが一度も祠を認識したことがない。

絢爛豪華な絨毯や装飾品が並ぶ中一つだけある古びた祠。

完璧なまでに統一されていたはずの場所がこの祠のせいで不完全となり、一際祠が目立っている。

「これも宮司の趣味‥?でもこんなところに―――‥」







「そこで何をやっている、人間」








「うわっ!?」

突然後ろから声が聞こえた。聞いたことがないはっきりとした通る声。

「それは俺の祠だ。家だ。人の家に触ろうなんて随分不躾な人間なのだな」

「うち‥‥‥?」

「そうだ、これは俺の家だ。お前は今触ろうとしただろう」

そういってずんずんとあたしに近づき、そして軽々と祠の屋根部分にのっかった。というより、祠が家だなんてまるで―――――‥



「俺は神だ。魔族でもなんでもない人間がどうしてこんなところに」

「え、あ、えっと‥神?」



ますますわけがわからない。そもそも魔族と神って共存できるのか。家まで建てて。


「そうだ。昔は土地の神だとか子宝の神だとか豊作の神だとかいろいろ言われていた――今は違うけどな」

そういって少し寂しそうに目を伏せたのは気のせいだったか。


「‥‥ところで人間。先ほどの質問に答えてないぞ。どうしてこんなところにいるんだ?」

「―――私は勇者だ。ここに住んで悪さをするといわれている魔王を倒しにきた」

「勇者‥あぁ、貴様が龍司たちが言っていた――――」


少し考えるそぶりをしたあと、納得した顔をした。


「ま、せいぜい頑張りな」

そういいながら彼はけらけらと笑った。