コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.16 )
日時: 2019/10/16 21:36
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)


 「―――――‥そういえばまだ名乗っていなかったな。改めて初めまして。俺は穂積という。かつては土地の神だとか子宝の神だとか豊作の神だとかいろいろいわれていたが今は名もない忘れられた神だ」

彼はそういうと自虐的に笑った。

 「‥‥‥‥‥シュナだ。勇者をやっている。魔王を倒しに来た」

 「シュナ‥あぁ、シュナ、か。うん、いい名だ。かつて幸福の神と呼ばれていた俺がそういうのだから間違いない」

 「あんたいろいろ言われてたんだな」

 「あぁ、人間は心のよりどころを求める生き物だ。人がいればどこかしらで信仰心は生まれ神は生まれる。そして名前がないもには名前を付けて安心したがる‥かつて祠がここではないところにあったとき、それはそれは人間は俺にいろいろな名前を付けて信仰していたさ」

 「ここではないところ‥‥って穂積はやっぱり昔は違うところにいたのか?」

 「まぁ、そうなる」

 「じゃあどうして今はここにいるんだ?それに‥ここに祠をおくのも不自然すぎている」

 「まぁ、俺も始めはごめんだと思ったんだが‥‥」


そういうとゆっくりと窓の方を指さした。

 「‥‥‥サクラ?」


相変わらず風でひらひらときれいに舞うサクラが見えた。

 「そう、サクラ――――ここだと一番あの木が綺麗にみえるんだ」


そういう穂積の顔は優しそうで。


 「お前もあのサクラが好きなのか」

 「あぁ、好きさ。大好きさ。俺のかつての友も、このサクラが大好きだった」

 「友‥‥‥?」

 「あぁ、友だ」


それ以上は何も言わなかった。


 「でもこの間の雨風でほとんど花がなくなってしまった‥時期に枯れてしまう」

 「サクラはな」


気付いたら穂積と一緒に窓からサクラを眺めていた。



 「サクラの最期は“枯れる”ではなく“散る”というらしい‥―――そんなところも含めて、美しいと思った」



最初から最期まで、あの花は美しい。



 「――なんて、これもかつての友が教えてくれたのだ」



そういって笑う姿はまるで少年のようだった。



 「‥‥その友達は、」


 「あーーーーっ!!穂積!こんなところにいた!龍司様が探していたのにどこにいたのよ!!‥勇者?」

 「あれ、ルカ」

 「あぁ、うるさいのがきてしまった」

どうやら穂積を探していたらしいルカが廊下で大声をあげた。
 
 「うるっ‥うるさいって何よ!といより穂積!あなた勇者に変なことしてないでしょうね!?」

 「はぁ、小さいとキャンキャン喚くのがうるさくてかなわん」

 「はぁ!?馬鹿にしてるんですか!!はぁーー!!!馬鹿にしてるそれ!!」

 「はっはっは」


そう笑ってまたふわりと舞うように飛ぶと祠の屋根の上に乗った。



 「では勇者よ。これから短い間、宜しくな」

 「え?」

 
そして気づいたら穂積は目の前から消えていた。一瞬目を離した瞬間の出来事だった。



 「もう本当、逃げ足は速い‥」


となりで不満をこぼしているルカのとなりで時折見せる穂積の悲しそうな顔がどうにも頭から離れなかった。