コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.2 )
日時: 2019/10/13 17:42
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)

むかし、むかし。

これはむかしのおはなし。


あるところに悪い魔法を使って人々を苦しめている魔物がすんでいました。


Episode1 『勇者と魔物とそれから、』


「‥‥ここか」

いくつもの山を越え川を越え森を越え、疲れて一歩も動かない足をこれでもかと前へ進ませやっとたどりついたのは立派な屋敷。

「ここが王宮だったらどんなにいいことか‥」

なんて独り言をこぼしながらため息をつく。だが残念ながら今から向かうところは王宮ではなく魔王が住んでいるといわれている城だった。

かつてここ一帯に呪いをかけ、今でも人々を苦しめていると言われている言い伝えを元に古い書物や人からの言葉を頼りについにここまで来た。

「―――よし」

自分の強さがどこまで通用するのかという単なる好奇心というのもあったけれど、

「いっちょいくかー」

私を育ててくれたおばあちゃんやおじいちゃん、村の皆の悲しむ顔をもう見たくなかった。

私が村を出る瞬間まで私を心配していた二人のためにも魔王を倒して早く喜ぶ顔が見たかった。

「んふふ‥」

魔王を倒し、首を持って帰る自分の姿を想像する。

なるほど、なかなかいい。

村中大喜び。そして涙を流して喜ぶ二人の顔。

「(待っててね皆!あたし、絶対魔王を倒して帰ってくるから!!!)」



だがその強い意志は数分後に音を立てて崩れていくのである。


◇◇◇

 
ダンッッッッッ!!!!!!


勢いよくあけた扉は案外あっさり開いてしまって。
なんだかちょっと拍子抜けだなぁと思いながらいつでも剣を抜けるように体制を整える。

「―――、」

自分以外の気配がないか全神経を研ぎ澄ませるが誰もいない。


「‥‥ここは‥?」

あまりの静けさにここは魔王の住んでいる城かと疑いそうになる。
だが最初から人がいないと考えるには不自然すぎるくらいきれいに磨かれた床や階段、そして手入れされた調度品を見る限りそれはあり得ないと考えを打ち消した。

「――誰?」

「っ!?」

誰かがこちらに近づいてくる音、そしてそれに合わせてなる鈴の音。声の高さからして女か。


「‥だっ、誰だ‥!」

自分の中の警戒レベルを最大限まで上げ、ゆっくりと女の声がする所から距離をとる。

そしてその女はこう言った。

「私はね、千代。ここに住んでるの~」

・・・・・。


・・・・・は?


なんでそんなのんきそうな声を出すんだ仮にも刺客がきてるんだぞ。

そう思い声の主を見るとそこにはゆっくりと階段を下りてくる美人がいた。

「‥‥え」

自分の想像していた城の住人とあまりにもかけ離れすぎていた容姿に戸惑う。

透き通るような白い肌に白みがかったクリーム色の髪。優しそうにこちらを見つめる眼差しと相反して左にだけある角が禍々しい。

「‥‥私は勇者だ。ここに住んでいると言われている魔王を倒し―」
「まぁ!お客さん?」
「え?」
「わぁ、いつぶりかしら!最後に来たのはいつだったかしら?」
「えっ、あぁ、えと、」
「歓迎するわ。勇者。きっと長旅でおなかもすいたでしょう。おいしいごはん、たくさんあるからぜひ食べていって」
「‥‥はい?」

――どうしてこうなった?

「えっ、ちょっと!!」

千代という女に手を引かれてつれられた広間には豪華な食事が並べられていた。
部屋全体に広がるにおい、そしてそこにいる――


「――誰だ?そいつ」
「―――っ!!?」

ひときわ異彩を放つ存在が一人。

「(多分、こいつが魔王‥)」

誰、と聞かなくてもすぐわかった。わかってしまった。

何も考えなくても自然と剣の方に手が伸びてしまう。
それと同時に背筋に汗が流れているのをどこか他人事のように感じた。


「あのね龍司、この子勇者。お客さん」

「えっ、は、ちょっと!!?」

「勇者‥‥‥?」

ギロリと魔王‥だと思われる人物はあたしを見つめる。そして―――


「そうか!客か!!よく来たな!!まぁ疲れてるだろ!座って飯でも食え!」

「えぇ‥?」

なんでこんなに歓迎されてるんだ‥!?