コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.20 )
日時: 2019/10/31 23:01
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)




 「勇者はどこの村から来たんだ?龍司様達は遠くからきたといっていたけど‥」

 「‥‥‥翠楼村、というところからきた」

 「すい、ろう‥むら‥かぁ、へぇ!どんな村だったの?」

 「‥‥特に何の変哲もない村だとは思う。あまり外と交流をするような村でもなかった‥あぁ、でも、水はきれいだ。それで作る酒はうまいかった。水がきれいだからそこで作られる食べ物もおいしい。贔屓目で見てもとても素敵なところだったと思う」

 少しずつだけれど、勇者が自分のことを話してくれているようで嬉しかった。

 「――――だからこそ、そんな素敵な村を、あたしが生まれ育った村を、なにより周りに危害を加えると言われている魔王を余計野放しにすることはできない」



 あぁ、分かり合えないのかな。と思った。同時に悲しくなってしまった。


 「‥‥勇者は、龍司様がそんなひどいことをする方だと思う?」

 「それはっ‥、」


 思わず言葉に詰まる勇者を見てあぁ、やっぱりと思わず笑ってしまう。


 「‥‥‥今は何もしてこなくても、そのうち何かするかもしれないだろう」

 一瞬迷いの目をした勇者を、やっぱり私は否定できない。





 「―――私はですね!実は昔、声をなくしちゃったんですよ!まぁでも、もうずいぶん昔のお話なんですけどね!」

 なんでもないというように話す。


 かつて私自身もここではないひっそりとした村に住んでいた。その村には魔族もいて彼らは細々と暮らしていた。

 
 けれど中には魔族がいるという事実が耐えられなかったのか、違う種族がいるのが気持ち悪いと思ったのか、快く思わない人間もいた。

 そんな人間が集まって。もう呪術なんかが使える人間まで出てきちゃって。


 ほんのいたずらか、それとも本気で殺しにかかろうとしていたのかは分からない。

 偶然その術が私にもかかってしまった。


 「‥‥そして、その術で私は声が出なくなってしまいました」


 まだそれだけでよかった、と肯定的に考えることもできた。
 実際にその術で何人もの同胞が死に、元の姿に戻れなくなってしまったという者もいた。

 「ですが私は、話すことが好きでしたので‥」


 今は人間を恨んでいるわけではない。仕方なかったといえば自分の中で納得ができる。それでも、



 「毎日のように、泣いてたなぁ」



 分かり合えない、歩み寄れない。


 人間はどうしてこんなにも閉鎖的な考え方をするのだろう。


 そう、考えて毎日を過ごしてきた。




 そうして月日が経ち、声の出ない生活が当たり前になりつつあったころ、あの人が、





 龍司様が現れたのだった。