コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.21 )
日時: 2019/11/07 00:56
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)



「よう!お前、人間ではないだろう。においからするに‥俺と同じ魔族ってところか?‥てあれ?お前、なんだ泣いていたのか」

「‥‥」

「なんだかすげぇ怯えてんな‥あ!俺は龍司っていうんだ。お前と同じ魔族だから安心していいぞ!」

「‥、‥‥‥」

言葉を話したくてもただ息がはくはく、と出てくるだけでどうすることもできなかった。

「‥‥うーむ」

しばらく龍司様は私をみて考えているように見えたがそのあとふと、ひらめいたような顔をして

「お前、呪いがかかってんのか。しかも古い呪いだ。お前、相当苦労しただろう」

私の現状をぴたりとあてた。

「もう大丈夫だ。俺がその呪い、といてやろう」


そういうと私の喉に手を当て、目を閉じると柔らかい光がかかった。

「―――――これで、どうだ?」

「‥‥‥、っ‥あっ‥」

それは数年ぶりに聞いた自分の声だった、

「―――‥ああぁあっ!!!」

それは言葉にすらならない叫びであり、喜びでもあった。

「よかったな」

泣きじゃくる私の頭に乗せられた優しい手に何度、感謝をしたことだろう。


「もう、お前は自由だ」

そう言ってくれたあの言葉が、眼差しが、今でも思い出しては胸が温かくなる。

「私を‥私をあなたのもとへ置いてください!」

泣きじゃくりながら伝えた言葉。さぞ滑稽だったでしょう。
驚いた龍司様の顔。たかだか一少女が何を言い出すのかと感じたことでしょう。

 「魔族にはっ‥従属になれる契約ができるとどこかで聞きました!私はあなたに助けてもらいました!!私がこれから自由に生きられるというのなら‥自由であっていいのなら‥あなたについていきたいです!!」

 「いや‥んー‥まぁできなくはないが‥本当にいいのか?」
 
 「はい」

 「まぁ契約すれば俺の加護も与えられるしなぁ‥よし、面白そうだしいいか!」

 こうして私と龍司様は主従関係となり、今に至るのです。


あとから聞いたがあの時の龍司様は千代様に花をプレゼントしたくていろいろな村や町を回っていたらしい。
そこで私と出会った。

道中少し照れながらも幸せそうに話す龍司様を見て私まで幸せだと、感じていることに気が付いた。


契約する証として龍司様は私の名前の一部をもらう。私は龍司様から新しい名前をいただき、縛る鎖として体のどこかにキスをするのが習わしだ。


「もうお前が涙を流さなくていいように」


そういって龍司様は私の右目じりにキスをした。

「名前は‥そうだな‥ルカなんてどうだ?よし!きまりだ!!ルカ!今日からお前は、俺たちの家族だ!」


あの笑顔が、あの言葉が、あの日が、今でも私の中にあり続けている。


◇◇◇

 「――てことがあったんですよね、はは‥だから私は龍司様にとても感謝をしているんです‥もちろん、居場所をくれた千代様や宮司様、そしてミラにも。声が出たことによってこれまで出せなかった分を取り戻そうと、とにかく私はたくさんしゃべりたいんです」

 うるさいってよく言われちゃいますけどね。と付け加えると勇者は少し迷ったそぶりを見せた。


 「‥‥その話をあたしがきいたとして‥いや、そもそも、なぜそれをあたしに話すんだ‥?」

 訳が分からないというような、怪訝な表情で私を見つめている。

 「私は龍司様の手が好きなんです。声を出させてくれた手、魔法の手。私の頭を優しくなでてくれた手。あったかい手。全部好きなんです」

 そして思い出すかのようにゆっくりと自分の頭を触る。

 「‥勇者たちが思うほど、龍司様達は悪い人ではないと思うんだよね‥だから、できれば龍司様達を傷つけないでほしいな」

 なんて少し笑ってみせた。

 
 今でもあの時のことを思い出すと少しだけ胸が痛む。
 けれど悪い人間ばかりではないということは知っていたから。

 かつて泣き虫だった私は、
 もう前を向いて進めるほど強くなったから。


 「だから、もう少しだけ、龍司様達を見て、勇者」


 私たちはきっと、分かり合える。