コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.22 )
日時: 2020/05/27 02:23
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)

 「大変なの。ミラが風邪をひいてしまって寝込んでいるみたいなの‥」

 困ったように千代さんは手を頬にあてていた。

 「そしてまたさらに大変なことに薬草を切らしていて‥困ったわぁ‥あら、そう、そうだわ!あらあら勇者ちゃん!いい所にいるじゃないの!」
 
 あぁ、嫌な予感がする。


 「ちょっとすぐ近くの町まで言って薬草を買ってきてくれないかしら?」

 ほら、やっぱり。


   Episode7『その病、予測不能につき 』


 「えっ!?あたし‥!?なんであたしが‥っ、」
 
 ある日の朝、いつものように朝食を、と歩いていた矢先、千代さんに声を掛けられたと思ったらこれだ。


 「お願い~勇者ちゃんしか頼れる人いないのよぉ」
 「いやそれでももっといたでしょうルカとか!なんであたしなんだ!頼む相手が間違っている!」
 「んーそう思ったんだけどね?ルカも龍司も手が空いてなくて」

 それに、と千代さんは付け加えた。

 「――‥私はこの姿じゃあまり外にも出かけられないしね」

 額に生えている角を優しく触って申し訳なさそうに笑った。

 「‥、」
 「あ、一人がいやなら宮司くんと一緒に行けばいいわ!ねっ?宮司くん!」

 「えっ、はぁ!?」
 「は?」

 これまたたまたまそばを通りかかった宮司に矛先がいき、突然すぎたのか宮司も驚いた声を出しながら千代さんを見た。

 「いや、そういうことじゃ‥」
 「あの、ミラの薬草なら俺が一人で行きますよ。一人で」
 「ついでと言ったらなんだけどね?いろいろ買ってきてほしいものもあるのよ‥だから二人で行ってきてほしいなー‥て‥ね?ダメかしら?」

 「「‥‥」」


 そんな顔をされたら、断りづらいじゃないか‥。


 ◇◇◇

 「はぁなんでよりによってあなたなんですかね」
 「それはこっちが聞きたいよ。とにかく、早く買うもの買ってさっさと帰るぞ」
 「言われなくてもそうするつもりです。くれぐれも足を引っ張らないでくださいね勇者」
 「‥むっかつく‥」


 結局宮司と二人で町へ繰り出すことになったがやはりこいつとは合わない。
 相変わらず人を見下したような言動や態度。
 
 (どうせ行くんだったらやっぱり一人の方がよかった‥)

 
 あの日、


 『勇者たちが思うほど、龍司様達は悪い人ではないと思うんだよね』
 


「‥‥」
 

 あの日のルカの言葉が、絡まってほどけない。

 戯言だ、と断ち切るのは簡単だ。けれど、どうも今のあたしにはそれができないでいる。


 (あれから皆に‥特にルカに会うのが気まずいと思っている自分がいるんだよなぁ‥)


 「ちょっと。何をボケっと歩いているんですか。千代さんが言っていた食べ物、ここにあるじゃないですか」
 「えっ?‥あぁ、ほんとだ‥」
 「‥はぁ」

 そんな気まずいという考えがどうでもいいと思えてくるほど宮司の態度はひどかった。


 「千代さんも俺が人間嫌いだって知っていてたまにこんなおせっかいじみたことをする‥勇者とルカで行かせればよかったでしょうに‥」
 「そっ‥それはダメっ!」

 突然隣で大声をあげたからか、ビクッと肩をあげる宮司に続けて話す。

 「それは‥ダメだ‥今はちょっと‥‥二人は‥」
 「‥‥‥」

 だんだんしりすぼみになっていく言葉をよそに宮司はおや、とつぶやいた。

 「まぁ何があったのかは知りませんし興味もありませんが‥あなたがそんな顔をするなんて珍しいものを見ました」
 「なっ‥」
 「とにかく今は買うものを買ってミラの体調を直すことが先ですしね」

 いつの間にかあたしが持っていた買い物をひょいと宮司が持ちすたすたと歩いて行った。

 「それくらいあたしが持つけど」
 「お気になさらず。軟弱な勇者では疲れてしまうといけないので」
 「‥‥あぁ、そう!!」

 
 こうして、一人の勇者と一人の魔族との買い物はまだまだ続くのであった。