コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.25 )
日時: 2019/12/28 01:43
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)


 
 あぁ、魔王様、魔王様、龍司様。

 私を助けていただきありがとうございます。



  Episode8『臆病者の防衛戦』


 「―――、」

 目が覚めた。体の気だるい感じはもうなくなったようだ。

 「(龍司様や千代様、宮司様やルカに大変迷惑を掛けてしまった。さっそく今日からまた働かなければ‥それに―――)」


 頭の中に浮かんだのは勇者の顔。

 薬を持ってきてくださった千代様は宮司様と勇者が町まで言って薬草を買ってきてくれたのだと説明していた。

 「‥勇者にも‥お礼いわなくちゃ‥」

 正直、まだ勇者の事はよくわからない。
 正真正銘ただの人間である勇者は龍司様を倒しに来たと言っていた。
 

 けど。



 「(あの人は、あの時のような人間ではない‥?)」


 自分でもよくわからない。
 
 吸血鬼だと理由で忌み嫌われ、後ろ指を指され、ひっそりと暮らしてきた。

 吸血鬼だからと、嫌がらせを受けていた。


 それらすべてが人間によって行われていたことだった。


 それが――――、


 「‥だめだ。これ以上考えても答えは出ない」

 
 頭を振って考えるのをやめた。


 支度をしてはやく龍司様達のところへ行かなければ。


 「――ミラ?おはよう。調子はどう?」

 ノックの音と共に勇者が入ってきた。

―――噂をすればなんとやら。


 「‥勇者」

 勇者と二人きりになるのは気まずい。
 沈黙が流れる。ちらりと勇者をみると同じように勇者も気まずそうだ。

 「‥あ、」

 そういえば、と思う。


 「‥薬‥」
 「薬?」
 「そう、薬。宮司様と一緒に薬草を買いに行ってくれたって千代様が‥」

 ここまで言ったところで勇者はあぁ、と納得した顔をした。

 「‥‥ありがとう、勇者。おかげでだいぶ軽くなったし早く治った‥と、思う」
 「‥うん‥ミラが元気になったのなら‥よかった‥」

 心なしか照れている勇者を見てこちらまで照れてしまいそうになる。
 あぁ、こういう時にルカや千代様なら、

 「(気まずい、なんて思う前にうまく話を切り出せるのだろう)」

 そこまで考えてまた悪い癖が出たと自己嫌悪する。
 気を抜くといつも考えてしまう。

 口下手で人見知りな自分に嫌気がさす。

 「千代さんがご飯ができたから呼んでくるようにって‥食べられそうか?」
 「あ‥うん、大丈夫」
 「そうか。ならあたしは先に行って千代さんに伝えてくる」
 「うん‥‥ありがとう、勇者」
 ゆっくりと締められた扉にかすかな優しさを感じた。
 
 「―――、」
 あぁ、わからない。

 私はルカのように、考えることができない。

 ◇◇◇

 「勇者ちゃんは今日も自主練に励むの?」
 「ん?‥あぁ、まぁ」
 「よくもまぁ飽きずに相変わらずなことで」
 「その減らず口と小ばかにしたような態度は相変わらずだな宮司」

 相変わらず勇者と宮司様は言い合いをしていて仲が悪い。

 ―――ようにみえるけど、なんだか心なしか雰囲気が柔らかくなったような気がしてならない。

 「あらあら。あの一件があって以来仲良くなっちゃって」
 「「なってないです!」」
 「まぁ」

 千代様とルカが顔を見合わせて笑った。

 「俺が手合わせしましょうか?勇者」
 「‥‥別にいい」
 そっぽを向いた勇者にうっすらと宮司様が笑ったのは気のせいか。

 「よーし勇者!じゃあ俺と、」
 「龍司もいい!今日は一人でやる!」
 「そんなガキみたいにすねんなよぉ」

 そうつぶやく龍司様もどこか楽しそうだ。

 「ミラ?」
 「えっ?」

 なんてことをぼんやり考えてたからか。ルカから呼ばれたことに反応するのが遅れた。


 「大丈夫?やっぱりまだ体調、治ってない?」
 「いや‥うん、大丈夫だよ。ありがとうルカ」

 そういって残りのご飯を掛けこむようにして食べた。

 ◇◇◇

 「はぁーそれにしても!最初はどうなるかなーって思っていたけど‥思った以上にここに馴染んじゃっているよね勇者!」

 いつものように掃除をしていると突然ルカが窓の外を見ながら話しだした。

 「‥‥意外。ルカもそんなこと思うんだ」
 「まぁちょっとねー。だって始めは魔王を倒す~なんて意気込んでいたらそりゃちょっとは警戒するよぉ」
 
 なんて笑いながら話す姿にもう警戒の色はなかった。

 「でもさぁ、話していてちょっと違ったというか。あぁこの子は悪い人間じゃない‥って」
 「‥‥それは、わかるかも‥」
 「でしょ?」
 それに、とルカはつぶやく。


 「案外ミラが『吸血鬼』だって言っても受け入れてくれるんじゃない?勇者なら」

 ニシシと笑うルカにやっぱり気づかれているなと笑った。

 「そうかもね」

 楽しそうに窓の外を眺めていたルカに何を見ているのかと自分も眺めてみたが


 「―――ふふっ」

 そこにはあれだけ渋っていたのに結局龍司様と手合わせをして何度も負けている勇者の姿があった。