コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.26 )
日時: 2019/12/29 01:15
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)




「え?勇者ですか?」

 仕事がひと段落した頃、たまたま同じく休憩中だという宮司様に出会った。

 「はい。宮司様は勇者のこと、今はどう思っているのかなって‥」

 普段あまり表情が変わらない宮司様。ちらりと千代様から聞いた話によると私の薬を買いに行ったあの日、声を出して笑っていた、らしい。

 「――まぁ、今でも魔王を倒すと抜かしているのですからあまりいい気はしませんね。今はまだ実力なんて全然ですけど」

 ただ、と思い出したようにつぶやく。

 「何事にも馬鹿正直に全力なところはたまに見ていて清々しい」

 呆れたように笑った。

 「‥‥まぁ、よくあれだけ全力でいて疲れないものなのかとも思いますけどね」

 そう付け加えた。

 「あのお人よしの勇者は詰めが甘い。だが阿呆ではない」

 「――随分見ているんですね。勇者のこと」
 「‥‥‥そうですか?まぁでも敵の事は詳しく知っておいて損はないでしょう」
 
 まるで何でもないように話した。



 「――んん?何やら面白そうな話をしているな」
 「‥穂積か」
 「なぁなぁ何の話をしていたんだ?ん?」
 まるで新しいおもちゃを見つけた子どものような顔をして近づいてきたのは穂積だった。

 「‥‥勇者の話」
 「ほう?勇者」
 「そう‥ねぇ、穂積は勇者の事、どう思っているの?」

 ここはついでだと穂積にも聞いてみた。
 やはり魔族と忘れられたとは言え神とでは感じ方も違うのかもしれない。

 「んー勇者、か」

 彼はかすかに笑みを浮かべながら考える――フリをした。

 「そうだなぁあいつは見ていて面白い」
 「おもしろい?」
 「そうだ。からかいがいがある」

 そういって笑う穂積の顔は少し悪人顔だ。

 「相変わらず悪趣味ですねぇ」
 「宮司殿には負けるがな」
 「今何と?」
 「おや、聞こえていましたか」
 「相変わらず白々しくて図太い神だ」

 時折、宮司様と穂積の中で火花が散る。

 「まぁでも、見込みがある人間だ」

 何の、とは聞かなかった。

 なぁ?と宮司様に同意を求めていた穂積だったが「俺に聞かないでください」と一蹴されていた。

 「勇者がどういう人間かなんて、お前がその目で確かめればいい」
 「ぐっ‥」

 流石は忘れられても神というわけか。痛い所をついてくる。

「(それができたら始めからそうしてるっつーの)」

 若干むっとした顔をおさえながら二人にお礼を言い、その場を離れた。

 ◇◇◇

 「え~?勇者ちゃん?」
 「はい、千代様は勇者のことをどう思っているのかなって‥」
 
 昼下がり、ゆったりと紅茶を飲んでいる千代様にあったので千代様にも聞いてみることにした。
 
 「おもしろい子だとは思うわねぇ。表情がころころ変わって、私が作った食べ物をおいしそうに食べて‥だからついついいろいろなものをあげたくなっちゃう」

 そう笑顔で話しながら紅茶を一口飲む。

 「でっ、でも‥あの人は魔王様を‥‥龍司様を倒そうとしていて‥私たちの生活を脅かすかもしれない存在じゃないですか‥」

 つい、恐れている本音を吐き出す。

 「――あの子は」

 そんな私の姿を見たのか千代様はぽつりと話した。


 「あの子は、どこかあの人に似ている」

 
 あの人、とはきっと龍司様の事だろう。


 「温かくて、温かくて、太陽のような――時折その存在に泣きそうになるけれど」
 そう話す千代様は何を思い出したのだろう。


 「だから私はきっと、勇者ちゃんの事が好きなんだわ」

 そう笑う千代様にあなたも龍司様と似ていますよと思ったけれど、きっとそういうことではないんだろうなとぼんやりと考えていた。

 「それにあの子はあなたたちの嫌いな人間とは違うって、本当はよくわかっているんじゃなぁい?」
 「ぐっ、」

 またしても痛い所を突く。

 サクラを守ろうとしてくれた時も


 私なんかのために宮司様と薬草を買いに行ってくれた時も

 
 体調を心配してくれた時も


 全部。


 本当はわかっている。


 彼女は、勇者は、かつて忌み嫌い嫌がらせをしていた人間たちと違うということも。


 「‥‥そうかもしれませんね」
 「ミラはルカと違って慎重派なところがあるものねぇ‥まぁそこがいい所でもあるけれど」
 
 ニコニコと千代様が笑う。


 「あなたは賢い子だから、自分で答えを見つけられるわよ」

 そういって作ったクッキーを一つ、頂いたのだった。

 「‥ありがとう、ございます‥」

 あぁ、クッキーが甘くておいしい。