コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.27 )
- 日時: 2022/10/16 22:32
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: qd1P8yNT)
「―――あぁ、ミラか」
少し日も傾いてきた頃、中庭で大の字になって寝転がっている勇者に会った。
「‥‥勇者、こんなところで何しているの?」
「いやなに、少し休憩していただけだ」
「‥‥また龍司様に負けたのね」
「うぐっ‥」
そろりと顔をそらされた。思わず笑ってしまう。
「なんなんだよあいつは!!強すぎるだろう!?反則級の強さを持っているくせにまだ本気の力の半分もだしてないなんて!」
「‥でも、半分近くの力を使わせてるってすごいと思うけどなぁ」
「このままじゃ魔王を倒すことなんて一生無理だよぉ‥」
私は別にそのままでもいいのに、と思う。
「‥‥、」
――「あなたは賢い子だから、自分で答えを見つけられるわよ」
さっき千代様から言われた言葉を頭の中で反芻する。
「ねぇ、勇者」
少しだけ、声が震えているのに気付いた。
「私が、もし吸血鬼だって言ったら、勇者はどう思う?」
心臓の音がやけに大きく聞こえる。あぁ、うるさいったら。
「――‥あぁ、でも、吸血鬼って生きている人間を襲って血を吸うって思われがちだけど私は‥‥少なくとも私たちの種族はそんなこと全然なくて‥そりゃ、飲めなくはないけど、でも、血を吸わなくても全然生きていけるし、たまに死んで放置されていた人間の血をいただいたことはあったんだけど、ええっと、だから――っ、」
やけに口数が多くなり支離滅裂な言葉がうまれる。あれ?なんで私はこうも勇者に嫌われたくないと感じているんだ?
「‥‥勇者は、私を嫌いになる?」
やっと出たのは情けない言葉。私、こんなにも弱かったっけ。
「―――吸血鬼‥」
勇者はそんな私を見て何を思うのだろう。
次の言葉が来るまでの時間がやけに長く感じた。喉の奥がきゅっと閉まるのを感じる。
「―――‥ってすごい!すごいかっこいいじゃんミラ!!」
「‥‥え?」
予想とはかなり違う言葉が出たことにまたしても情けない声が出てしまう。
「正直吸血鬼なんてよくわからないけどさ、響きとかかっこいいよなー!ミラは美人だから存在感が出ると思うし」
―――『お前吸血鬼なのか!いいじゃんかっこいいな!響きとか!』
いつか昔、
彼女と同じように肯定してくれた人を思い出した。
「(龍司様‥、)」
私をここへ連れて行ってくれた人。
私を受け入れてくれた人。
――「あの子は、どこかあの人に似ている」
千代様の言葉を思い出す。
「‥‥ふふっ‥あはははっ!!!」
「えっ、あれ?ごめん、あたし何かおかしいこといったか?」
あぁ、同じだ。
千代様が言っていたこと、少しわかった気がする。
この子はあの人と似ていて、そう思えたことに可笑しくて、可笑しくて、愛おしくて、
少し涙が出た。
「(私も彼女の事が、好きだ)」
なんだかいろいろ考えていた時間がバカみたいだ。
未だに笑っている私にはてなマークを浮かべている勇者という奇妙な状況に様子を見に来た龍司様が驚いていた。
「おーい勇者もう一回やるか‥‥ってあれ?ミラどうした?えっ?なんだこの状況」
「あっ龍司!それがあたしもよくわかんないんだなぜかミラが笑っている」
「なぜかってことはねぇだろー勇者がなんか言ったから笑ってるんじゃないのか?」
「それがよくわかんないんだってば」
なんて隣で会話しているのを横で聞きながらそれにまた救われたような気がした。
「龍司君ー勇者ちゃーん‥あっミラも!そろそろ夕食にしようと思うんだけど食べるー?」
窓を開けて部屋から千代様が私たちを呼んだ。
「「食べる!!」」
同時に声をあげたのはあの二人だった。それにまた笑ってしまう。
きっと同じことを思っているのだろう。千代様もそれを見て笑っていた。
「いこ!ミラ!」
「‥‥うん」
勇者に呼ばれ私も歩きだす。
「(‥‥あぁ、)」
あぁ、
――あぁ、なんて幸せなんだろう!