コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.28 )
日時: 2020/02/10 22:41
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)


――『好きだ。あんた、名前は?』

 だなんて。

 想像しただけで笑ってしまいますね。


 Episode9『その感情に名前をつけるなら』


 「は?勇者が告白?」
 「そうなんですよぉ!!もう私初めて見たから興奮しちゃって!!」


 少し日が落ちてきたという頃

 何やらルカや千代さんが騒がしく話しているのが気になり聞いてみたら。



 「‥それはどこの世界での話ですか?」
 「いやいや!ここですよ!たった今さっき!町に買い物に行った時です!」
 「‥‥冗談でしょう?」


 いささか信じられない話だ。


 話を聞くと、勇者とルカ、ミラは千代さんに頼まれて町へ買い物に出かけたらしい。
 買い物を終わって帰ろうとする勇者たちの前にある一人の少年が目の前にいた。


 そこで、



 「――見つけた。好きだ。あんた、名前は?」



 ―――と、勇者に告白をしたというのだ。


 「それは他の人、というわけではなく?」
 「はい、正真正銘勇者に言っていました」
 「からかっていたとかでは?」
 「あの顔は真剣そのものでしたねぇ」
 「酔っていて正常な判断ができなかったのでは?」
 「私が見たところあの少年はお酒が飲める年齢ではないでしょう」
 「‥‥世の中には物好きがいるものですねぇ」


 「宮司くん、勇者ちゃんが告白されたこと認めたくなさすぎよぉ」


 千代さんが笑いながらたしなめる。

 「‥‥それで勇者はなんて?」
 「びっくりして思わず逃げて帰ってきちゃいました。きっと勇者は今頃部屋にこもっています」
 「案外ウブな反応をするんですね」
 
 だからルカ達が帰ってきたのに姿が見えないわけか、と一人で納得する。
 体力だけはある破天荒娘だ。買い物に行っただけで部屋にこもっているはずがない。

 「ほう、それは面白い」

 どこからかぎつけたのか、胡散臭い神がまたあれよあれよとやってきた。

 「なぁ、お前もそう思わないか?宮司よ」
 「――俺に聞かないでください」
 「おや」

 まるですべてを知っているとでもいう顔が腹立たしい。

 「兎に角、逃げたというのならまだ返事はしていないのだろう?まずは勇者の気持ちをきかなければな」

 そう言いながらひらひらと飛ぶようにして祠や窓の枠に乗る。

 「確かに、私達だけで盛り上がっても肝心の勇者がいなければ‥」
 「よしそうと決まればさっそく勇者のもとへ行くぞ!お前も行くだろう、宮司」
 「えっ、俺は――てちょっと!」
 「善は急げという言い伝えがあるが今まさにこのことをいうのであろう!」
 「おいっ、待っ―――」
 「いってらっしゃーい」

 半ば強引に連れられ、ルカと穂積と3人で勇者のもとへ行くことになった。

――あぁ、笑顔で手を振らないでください、千代さん。




 ◇◇◇


 「はぁ‥‥」
 「なんだ勇者よ!考え事か?」
 「どぅわっ!?うわぁぁ!!?びっくりしたぁ!?」

 どうやら本当にびっくりしたらしい。窓の外を上の空で眺めている勇者がそこにいて。


 いつもなら気づくはずの俺たちの気配に完全に気づかないようだった。


 「‥‥なんだ穂積か。びっくりしたぞ‥で、何の用だ?」
 「いやぁ勇者が珍しく考え事をしていたようだから何か面白そうなこと‥失礼、大変なことが起きているのかといささか心配になったもので」
 「相変わらず白々しいやつだ‥」


 ジトっと穂積を見つめた後、何かをあきらめたかのようにため息を一つ吐いた。

 「‥‥その様子だとルカから聞いているだろう‥」
 「まぁ、そういう噂もある」
 「なんだよそれ‥」

 そう呆れつつもポツリポツリと話し出した。

 「‥‥‥初めてだったんだ。その‥好きっていう、好意をもらうのは‥だからその、少し戸惑っている‥」

 耳が少し赤くなっているのに気付いたルカが「勇者かわいいー!」と更に興奮気味で話した。

 「――そもそも、その少年が勇者の事を好きになった理由に何か心当たりは?」
 「それはっ――!!」

 と言いかけてあげた勇者の顔が真っ赤になっていることに気づき慌てて自分が顔をそらしそうになる――前に勇者がまた顔をそらした。

 「‥‥それは、あの時‥‥の、泥棒事件の‥」

 泥棒事件?と聞きなれない単語に少し考えたがもしかして、と思う。


 「‥‥ミラの薬草を買いに行ったあの時ですか?」
 「そう!それ!!‥あの時のひったくり犯を捕まえた様子をたまたまその少年が見ていたんだ。それでその様子を見ていた少年が‥」
 「‥‥なるほど、そういうことですか」
 「なんでも、ひったくり犯を捕まえる姿が格好良かったと。一目ぼれだそうですよ!」
 口をもごもごさせている勇者の代わりにその場にいたルカが状況を説明した。
 
 「で、勇者はどうするか決まったのか?」
 「そんな楽しそうに聞かないでくれ穂積こっちは必死なんだよ‥決まったも何も、会ってすぐの人間を好きにはなれない」
 「だが恋仲になって気持ちが変わる、ということもあるだろう」
 「しかし今のあたしには魔王退治がある。他事に現を抜かしている場合では‥」
 「まったくそういう時に対して杓子定規頭でっかち融通が利かない」
 「なぁなんでそんなに悪口のオンパレードなんだ?」
 「とにかく。もう一度会って少しは話してみるといい。かつて恋愛成就の神ともいわれていた俺が言うのだから間違いない」
 「‥‥それ今とってつけた言葉じゃないのか?」

 こんなに生き生きとしている穂積を見たのはいつぶりだろう。完全にからかって楽しんでいる彼を横目に少し同情の目を向けた。

 「ふむ、ならばこうしよう。勇者一人が嫌だというのなら俺らが一緒に行くというのはどうだ?」

――‥ちょっと待て。

 「‥‥穂積?俺ら、というのは誰の事を指していますか?」
 「当然ここにいる俺と宮司、それにルカだ」
 「お供しますよ!勇者!」
 「はぁっ!?」

  何を言い出すんだこの神は!?

 「俺はいきませんよ!?それにあなたと違って暇じゃない」
 「まぁいいじゃないか少しくらい。こんな面白いことめったにないぞ?」

 ついにみとめやがったなこの神。

 「‥‥それに、お前が危惧している勇者の弱点がわかる、かも」
 「‥‥」

 少し揺らいだ、などと。

「‥‥‥少しだけですからね」
「よし!じゃあ明日向かうぞ!」
「おー!」
「おいあたしはまだ何も言って‥」


勇者一人をおいて会話は進み、楽しそうな穂積とルカを横目に見ていた。