コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.39 )
- 日時: 2020/04/22 00:16
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「――そういえばですね宮司殿。少々小耳に挟んだことなのですが」
世話好き商人のおかしな話に耳を傾けてしまった。
Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』
「――それで、その物好きな商人というのに今度会うのか?」
昼下がりの中庭で稽古をしていた勇者にたまたま出くわし、声を掛けられた。迂闊にも考え事をしていたのが顔に出ていたらしい。どうしたのかと聞かれて別に隠すことでもないと話してみたがまぁ予想通りの質問が返ってきた。
「そうです。向こうが俺の話を他の商人から聞いたらしく興味が湧いた、と」
「なんだか穂積みたいなやつだなそいつ」
「まぁ否定はしませんが――あちらも面白い情報や珍しい商品を扱っているとのことで会ってみる価値はあるのかなと。ただ―――」
―――『ただ……』
―――『ただ?』
―――『少々変わり者、というか‥偏見者、といいますか‥好き嫌いが分かれるといいますか‥』
―――『‥?』
―――『いえねぇ私も一度会ったことがあるのですが‥あのお方は少々頭が固い所がある……貿易や商売に関しては申し分ないが少々手荒なところが目立つ。私はあまりあの人のやり方は正直好きではない』
―――『なるほど』
―――『宮司殿ならうまくやるとは思うが……もし会うとしたら十分に気をつけるようにしてくだされ』
「――――‥、」
「どうした?宮司」
先日別の商人と話していた会話を思い出す。不安が全くないと言えば嘘になる。ならば、せめて――
「勇者、あなたいつでも暇でしょう」
「なんだ急に失礼な!‥まぁ、暇じゃないと言えば嘘になるが‥」
「ならばちょうどいい」
「勇者、あなたを1日雇います」
「……は?」
動揺して思わず剣を落とす勇者。俺も馬鹿げたことを言っているのは重々承知の上だ。
「……何を言い出すんだこの魔物は」
「全部口に出てますからね‥‥今回は顔合わせ、ということになっているのですがうまくいけば商談も兼ねようかと考えています。その手伝いと用心棒をお願いいしたい」
「‥‥用心棒だなんて‥お前ひとりで何とかなるだろう」
「普段なら俺だけで大丈夫なのですが何せ分が悪い」
「……?」
「あんな場所で魔法を使って俺が魔物で、しかも魔王や吸血鬼なんかが周りにいると人間たちに知られたら兄さんたちにも危害が出てしまう」
そう、今回仕方なく。限りなく不服だが勇者に頼んだのはこれが原因だ。
自分だけで事が終わるのならまだいい。だが問題はその後だ。もしこれで兄さん達に危害が出るとなればそれはなんとしても避けたかった。
「そんなに嫌ならそいつと会わなければいいのに」
「本来ならそうしたいところですがそういうわけにもいかないのですよ‥最近物の回りがあまり円滑に進んでいるとは言えない。流行り病も流行しそうな今、思うように商談がまとまらないことが多くて。なので今は商談相手の数を増やしてこちらも利潤をあげていきたい」
「ふーん。そういうもんなのか」
納得したような、だがどこかどうでもいいというような顔をしながら俺を見ていた。だが多分、この顔はおそらく俺の言った言葉を理解していないだろう。
「まぁあたしでよければ」
「それは良かった」
勇者がお人好しでよかったとつくづく思う。まぁ、それが美点になることもありますが。
「必要なものはこちらで全て用意します‥あぁ、当日はその戦う気満々な服も着替えてもらいますからね‥なんですか?その顔。当然でしょう、そんな恰好で行ったら商いを行う側の人間ではないことが一発でばれてしまう」
明らかに嫌そうな顔をした勇者にもっともなことを言えば納得してくれたのかしぶしぶ「はぁい‥」と声が聞こえた。
「あ、」
「はい?」
何かを思い出したのか勇者がぽつりと声を漏らした。
「護身用の剣は何本持っていけばいい?」
「だから戦いに行くわけではないんですってば!」
用心棒といったのは確かに俺だがここまで戦闘態勢万全にされては困る!!
俺は頭を抱えながら彼女に頼んで大丈夫だったのか今頃悩み始めるのだった。