コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.41 )
日時: 2020/03/25 00:28
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)


 
 「――これを着るのか‥?」
 下から勇者の怪しむ声が聞こえる。

 「今の服装ではさすがに怪しまれてしまいます。なのでこれを着てください」

 「まぁ‥その理由もわからなくもない、が‥」

 勇者が言いよどむ目線の先には今日勇者に来てもらう服が飾られていた。

 「あら可愛い。これ絶対勇者ちゃん似合うわよ~」
 横から千代さんののどかな声が聞こえてくる。

 全体を紫でまとめられており、ところどころに入っている黄色がワンポイントになっている。生地は薄手だが艶があり、質がいいのが一目でわかる。派手ではないがそこそこ身なりのいい出身であることが分かるような服だ。

 「――これじゃあ動き回れない」
 「動き回らなくていいですよ。というより、そのような場面が本来あってほしくないのですが‥」

 あくまで彼女は動きやすさ重視のようだ。

 「ほらほら~早く着替えましょう」
 楽しそうな千代さんに任せて自分は今日の準備に何か不備がないか再度確認する。
 思えばこうして勇者と何かをするのはこれで二回目か。不本意ながら初めて彼女がここに来た時よりかは少しずつ対応が柔らかくなってきているのを自分でも感じている。最近では俺と勇者を見るたびに穂積がニヤニヤと何か言いたげでこちらを見るのにいら立ってはいるが――


 「ほら!やっぱりかわいいわよ勇者ちゃん。自信もって!」
 「いや自信とかいうよりこれは‥はぁ引き受けなきゃよかったかなぁ‥」
 「何言ってるの。もうここまできたんでしょ?さぁほら!早く宮司君に見せましょうよ」


 そうこう考えているうちに着替えが終わったようだ。勢いよく出てきた千代さんとそれに引っ張られるように出てきた勇者。

 「あぁ、案外早く終わったのですね勇――、」

 声を掛けようとしたところで思わず動作が止まる。

 「‥‥なんだよ。笑いたきゃ笑えよ!」
 「――いえ、似合ってますよ。とてもかわいらしい」
 「あら、宮司君珍しく素直」

 半ばやけくそになっている勇者の声をよそに口から出た音は何とも自分に似つかわしくない言葉だった。あぁ、本当に似合っていますよ。思わず声に出てしまうくらいには。

 「おっ!なんだ勇者着替えたのかー!‥おぉ似合ってるぞ。可愛いじゃねぇか!」
 「きゃーっ!勇者珍しい恰好!可愛い!ねっ?ミラ!」
 「うん。素敵」
 「なかなか様になっているじゃないか、勇者」
 
 そんなやり取りをしていると、あぁそうやってまたうるさい奴らが来てしまった。
 単純馬鹿な兄貴だけでなく素直なルカやミラ、あまり人を褒めない穂積まで勇者を褒めるものだからとうとう勇者が顔を真っ赤にする。

 「もっ、もういいだろ!ほら!宮司いくぞ!行くんだろ!?」
 「うわっちょっと、そんなに引っ張らないでくださいってば‥!」

 「いってらっしゃい宮司君、勇者ちゃん」
「気をつけてね!」
 「お土産期待してるからなぁ」

 なんて個々が好き勝手に言っている中、俺たちは部屋を後にするのだった。