コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.42 )
- 日時: 2020/03/25 00:28
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「本日はこのような機会を設けていただきありがとうございます。サキョウ殿」
「いやいや、私の方こそ礼を言う。まさかこんなにも早く宮司殿に会えるとは」
指定された場所――物好きな商人が住んでいるという屋敷に招待された俺たちはそこにいた侍女に案内され、応接間へと入った。
扉をあけると満面の笑みを浮かべた人間が座っていた。彼がその商人――サキョウだということは一目でわかった。挨拶もほどほどに済ませるとサキョウの目が勇者を捉える。
「して――‥そちらのお嬢さんは?」
「彼女は私の商人仲間でして‥‥今回の話をすると是非と言ってきかないものですから勉強がてら一緒に同行させました――‥おじゃまでしたか?」
あらかじめ考えて置いた設定を頭の中に浮かべながらつらつらと言葉を並べる。
「いやはやとんでもない。随分勉強熱心なお嬢さんだ。名前は?」
「レっ‥レア!!!……です」
突然話を振られて驚いたのかつっかえてしまっていたが勇者もあらかじめ打合せしていた名前を口に出す。
「ほう、レア‥‥確かどこかの国では『喜び、幸福』という意味をもつ言葉だったような‥いい名前だ。お嬢さんにぴったりだ」
「どうも」
「さすがサキョウ殿。様々な国へ行ったことがあるというだけあって博識である」
「褒めすぎですよ」
そうなのか?という目を向けてくる勇者。頼むからこっちを見ないでくれ。
「さて、本題に入りましょうか。本日はただ交流を深めるだけではつまらない。珍しい物を用意したのでどうでしょう、もしよろしければ私のとっておきを見ていただけないだろうか」
「ほう、それは興味があります。是非」
「それじゃあ――」
サキョウがそういうと「取りに行きます」と侍女が部屋を出ようとした。
「――いい。私が取りに行く」
侍女をひとにらみし、席を立った。
「申し訳ございません」
「‥そうだ、この間の貿易で手に入れた異国のお菓子があったな。あれを準備してきなさい」
「はい。ただいま」
「すみません宮司殿、レア殿‥今持ってきますのお茶でも飲んで少々お待ちくだされ。あぁ、部屋にあるものには自由に見てもらってもかまいませんよ」
そう言ってにこりと笑うと彼らは部屋を後にした。
「――はぁ、疲れた……って、何ですか勇者、そんなにじろじろ見て」
「なぁ、今更だけど違う名前を名乗る必要なんてあったのか?」
「本当に今更ですね‥ここで仮に本名を名乗ったとして、もしあなたや周りに迷惑がかかることがあったら一大事でしょう‥」
「あたしのためか‥!」
「ちょっと、なんでそこまで飛躍するんですか‥まぁでも迷惑が掛からないようにという点は間違ってはいないですが‥」
「お前が適当に付けたと思っていたがレアってそういう意味があったのか‥」
「……異国ではそういう意味もある、ってだけでしょう。深読みはしないでください。頭の中に思いついた単語を当てはめただけです」
「ふーん」
「‥とにかく、とりあえずは怪しまれずに済みましたね。あなたが変な態度を取らなくてよかったです‥確かに少し変わった部分はありますが最大限まで警戒しなくてもよさそうだ。」
でも依然油断はできない。好意で出されているであろう大量の茶菓子を前に再び考える。
時折見せる品定めするような目線は商人にとってよくあることだ。だが商人仲間から『変わり者』と呼ばれるくらいだ。警戒して損はないだろう。この部屋にカメラが隠されているかあるいは毒でも入れられているか―――、
食い気が多い彼女の事だ。目の前の菓子に手を伸ばすのも時間の問題だ。今のうちに注意を呼びかけてみ―、
「なあ宮司!!ここにある食べ物全部食べていいのか!!?」
「ああああああもう本当にあなたはもう全くもう……!!」
言ったそばからこれだ!!!
両手にクッキーを持ちおいしそうに食べている彼女を見ながら止めるのが遅かったと後悔。
「……なんともないですか?」
「ん?いや?」
「‥そうですか‥」
まぁ即効性の毒ではないことは確認できた。
「宮司も食べてみなよ。おいしいよ」
――もしかしてこんなに考えている自分がおかしいのか?
「お待たせしました」
サキョウと侍女が入ってくるのはほぼ同時だった。
「お菓子でも食べながら。どうですか?」
「‥ええ」
こうして、一人だけしか危機感を持っていない商談が今始まろうとしていた。