コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.44 )
- 日時: 2023/08/15 23:21
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: zHdJFj8Z)
「―――ほう、これはなかなか……」
さすがというべきか。一目で質のいいものだということが分かる。
「いやぁ宮司殿のお噂はかねがね聞いておりましたのでお目にかなうものがあるかいささか不安でしたが‥」
「とんでもない。ここまで集めるのはなかなかのものですよ」
実際に目の前に出されたものはどれも入手するのが困難なものばかりだった。
「私もここまで集めるのには正直苦労しました‥ですがこの石はこの時期に行くと――」
「あぁ、なるほど。それでこのような大きさと艶が生まれるのですね――」
情報を多く持っているという話はやはり本当だったようで様々なことを教えてくれた。
相変わらず我関せずという勇者のきょとんとした顔は見ていて思わず突っ込みを入れてしまいそうになるが黙っているだけまだましだと自分に言い聞かせる。
「そうそう、私が見せたかったものはこれだけではないのですよ」
話も盛り上がっていたころ、突然嬉々として話を切り出したのはサキョウの方だった。
「宮司殿は異種族交配というのを聞いたことがおありか」
「――――‥まぁ、少しは」
少し前に人間たち――特に闇市業界の間で話題になっていた単語だった。様々な種族を交配させ、それぞれのいい所を持った子どもを作るという何とも愚かな人間が考えていそうなことだった。交配させるだけでなく、その子どもを奴隷のように扱ったり、中には性玩具のようにして扱ったりする者もいると聞く。
実際に異種族での性行為や交尾はできないわけではない。千代さんだって元々はと鬼と人間のハーフだと聞いた。だが彼らは、根本的に考え方が違うのだ。
嫌なことを思い出したからか自然と顔がこわばっていくのが分かる。
「実はとある知人からなんと!そのキメラを手に入れることができたんですよ‥!いやぁ手に入れるのに苦労しました!といってもこれはあくまで『試作品』なんですが‥」
興奮しているのか矢継ぎ早で話しているサキョウの話をもう聞くことができなかった。手のひらに爪が食い込む。勇者は訳が分からないという顔をして俺たちを交互に見ていた。
「おい、アレを持ってこい」
そう侍女に伝えてから持ってくるのに時間はかからなかった。
「―――そうそうこれこれ!!どうですか宮司殿!これは吸血鬼と火をつかさどると言われている妖精――サラマンダーとのキメラですね。まぁ『試作品』なので言葉を発することはできませんが――どうですかどうですか!中々完成度は高い方だと思いませんか!!!」
腰ほどの籠の中に入っているキメラが「キュウ」と弱弱しく鳴いた。
どんどん鼻息が荒くなるサキョウにいら立ちと吐き気がせり上がってくる。
「まぁもともと吸血鬼という種族自体少ないので探すのに苦労したそうですが‥吸血鬼は夜に強い。護衛だけでなくその――『夜のお供』にも使えるというメリットもあります」
あぁ、ああ、何を言っているんだ。
「他にも――今は吸血鬼以上にめっきり見かけなくなりましたが‥鬼、もいいなぁと考えているのですよ。彼らは強靭で何かあった時には盾になってくれる。今はいろいろな種族で交配中ですが人間ともかけ合わせておりまして‥みなしごなんかを連れてこればバレやしないんですよこれが。なので今闇市界隈ではキメラ作りに夢中で――」
楽しそうに語る目の前の人間を見て今すぐにでも殺してやりたくなる感情に支配されそうになる。
「ああ、そういえば‥宮司殿はその……恋人はおりますかな?」
「……いえ‥」
その二文字を言うだけで精一杯だった。
「あぁ、あぁ、そうですか。それならなおの事好都合!この『試作品』は性別上はメスなのでこう‥欲を吐き出す行為に使うことも可能です。どうですか?そういった面でもちょうどいい代物だと思いませぬか?」
下品な笑みを浮かべているこいつにさっきの落ち着いていた面影はない。
「―――あぁ、レア殿はこういった話は苦手でしたかな?」
勇者の方を向きにっこりと笑う。あぁ、やめろ。そんな顔で勇者を見るな。
「実はこれ、オスもいますのでレア殿も欲がたまった時にはいつでも使えますよ。まぁ、私でも大歓迎ですが――」
バシャッ――――!!!!!!
「!?」
「……ざけるな‥」
「勇、」
「ふざけるな!!!」
目の前にあった水をサキョウの顔に思いっきりかけた。
「あまりあたしたちを見くびるな!!!!!」
部屋中の者が勇者を見た。
「お前らの汚い欲望や私利私欲に他の種族を使うな!!!宮司を巻き込むな!!こいつはそんなやつじゃない!!!!」
大声をあげて怒っている。誰に?サキョウに。では、誰のために――?
「悪いがこの取引は中止だ!!もう関わらなくて結構!!!!」
勢いよく立ち上がり、俺の手を引き扉を開け部屋を後にした。
「ちょっ、勇者!」
屋敷を出てしばらくも俺の手を放さず、ずんずんと進む勇者が止まったのはしばらくしてからだった。俺自身が驚きすぎて放心状態だったのもあってかこんなところまで来てしまっていた。
「……勇者?」
「――悔しくないのかよ‥」
「‥」
「‥ごめん、お前の大事な取引を台無しにしてしまった‥」
「――別に、大丈夫です。一つ取引先がなくなるくらい俺にとってはどうってことないです‥だから‥‥ああ、泣かないでください勇者」
静かに泣く勇者にどうしていいかわからず戸惑ってしまう。
「お前が人間嫌いな理由が分かった‥あたしも同じ人間として申し訳なく思う……でもさぁ、だからさぁ、あたし、我慢の限界だったんだよ‥、もう知っちゃったから‥ミラや千代さんがいること、穂積やルカ、龍司や宮司がいること、いろんな奴らがいる事……あんなことに使われるってことがどうしても許せなかったんだ……」
ああこの人は、
俺たちのためにこんなにも泣いているのか。
「‥だからって泣かなくてもいいでしょう」
「宮司がっ‥宮司が泣けないと思ってあたしが代わりに泣いてあげてるんだよ!宮司が怒りたくても怒れなかったから‥あたしが代わりに怒ってあげたんだ‥」
―――嫌でも自覚してしまう。
さっきの威勢とは打って変わって子どものように泣きじゃくっている勇者がこんなにも愛おしい。
「だから……うわっ!?」
腕の中で勇者のくぐもった声が聞こえる。
あふれ出るこの気持ちがこれ以上零れないよう、思わずふたをするように抱き締めた。
どうか、
どうか抱き締めたこの気持ちが、彼女にばれてしまいませんように。