コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.47 )
- 日時: 2020/05/05 01:05
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
ただひたすら悔しいと思った。
同時に悲しいと思った。
あの時の宮司の顔はひどく悲しそうな顔をしていて見えたから。
気付いたら体と口が動いて、
そして宮司に抱きしめられている自分がいた。
Episode11『やとわれ勇者の一日(後編)』
「……宮司?」
これは一体――、
柄にもなく情けない声が出てしまって、その後に宮司の腕が体から離れた。
「‥すみません」
珍しく動揺している宮司をみた。
「――あなたが泣いていたのに少々びっくりしました‥まるで子どものようだと思ったので‥」
「なっ‥!?子どもをあやす感覚で抱きしめるのかよお前は!!!?少なくともあたしはもう成人している!!おい!宮司聞いてるのかよ!」
心なしか目を合わせてくれない宮司に若干の違和感を覚えながら先ほどの事を思い出す。
サキョウとか言われていた人間の商人は彼女を『試作品』といった。
それを語るあいつの顔は恍惚としていて気味が悪かった。
貿易とか、商売とか、利益とか。剣を握ってきたあたしには全然わかんないけど。
宮司が悲しそうな顔をしているのは嫌というほどわかった。
そしてこちらまで伝わってくる静かな怒りに気づいてしまう。
「(あぁ、こいつはだから人間が嫌いなんだな)」
彼がどうしようもなく人間を嫌い、憎む理由。身勝手で、卑しくて、狡い。
自分たち以外の種族をまるでどうでもいいというように扱うその姿が、嫌で憎くてしょうがないんだ。
ごめん。ごめんね宮司。
あいつの代わりにあたしが謝るから、
だからもうそんな顔をしないで。
そして気づいたらまた涙が出てきそうになって、
思わず袖口で顔を強く擦った。
「―――帰りましょうか」
なんだか吹っ切れた顔をした宮司にただ頷く。
「そうですね、帰りにケーキでも買いに行きましょうか。皆へのお土産も兼ねて」
「……」
「この間もらったケーキおいしかったですよね。あれをもう一度買って帰りましょうか。兄貴たちも喜びます」
「……宮、」
「そうだ、どうせなら街を少し散策しますか?」
「宮司、」
「茶葉ももう少ししたらなくなります。あぁ、そうだ。千代さんが薬草がなくなりそうだと言っていました。それも買って――」
「宮司――!!」
足を止めた。
自分より数歩先をいく宮司が振り返る。
「――‥だからなぜあなたがそんな顔をするんです」
宮司が困ったように笑うのを見てようやく、また自分が泣いていることに気づいた。
「ごめん、宮司」
「あなたのせいではないでしょう」
「だって、」
「顔をあげてください。あぁほら、せっかく綺麗な恰好をしているのにこれじゃあ台無しでしょう」
まるで小さい子をあやすように近づき、涙を拭いてくれるその手は温かかった。
「それに、あなたがあの時怒らなくても俺はいつか怒って魔法を発動していたかもしれません。そうなればきっと、俺たちが魔族だということがばれてこの平穏な世界が壊されてしまっていたでしょう。だから、あなたが代わりに怒ってくれて助かりましたよ」
言葉の節々に困惑している様子が見て取れた。
あたしが罪悪感にとらわれないように考え込まないようにとわざと矢継ぎ早に話すその姿も、普段は言わないあたしを褒める言葉も、涙を拭いてくれるそのしぐさも、
わかっているから、余計に悲しい。
「ありがとう、勇者。だからもう帰りましょう」
にこりと笑う宮司になぜだかまた泣きそうになって、同時に勇者と呼ばれるその声にたまらなく安心してしまうといったら彼はどんな反応をするのだろう、とぼんやり考えていた。