コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.48 )
- 日時: 2020/05/05 01:07
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「おっ!はよーっす!勇者!」
「げ」
朝から規格外で元気なこいつは一体何をしたらこうなるんだ‥?
Episode12『いちばんきれいなひと』
商談の件から一夜明け、未だすっきりしない気持ちを抱えながら廊下を歩いているとそんなあたしの気持ちなんて一ミリも知らないような男が朝からでかい声で話しかける。うるさいこっちはそんな気分ではないんだ。もう少し心の整理をさせてくれ。
「(まぁでも、)」
こうしていつもと変わらないあたしへの態度が見られるだけでもいいと感じてしまうくらいには――、
「あれ?今日の勇者なんだか顔がおかしくないか!?」
「フンッッッ!!!!!!!!」
前言撤回だ!!こいつはどんな時でもデリカシーというものが欠如しているようだ!!!!
怒りに任せて剣を振り回すも軽々とよけられてしまった。
「なんだ魔王よ。朝からあたしに喧嘩でも売っているのか?」
「喧嘩?いや俺は別にただ勇者の顔がおかしいと思ったから聞いただけだが?」
「だからそれが喧嘩を売っているというんだ!!お前は千代さんにも同じことをいうのか!?」
「いや?千代は今の勇者みたいなおかしな顔はしない!あいつはいつも綺麗だからな」
「ああそうですかあたしが悪かったよ!!」
また怒り任せに剣を振り回すも笑いながら簡単に躱してしまう。
「――そうだ勇者」
「ん?」
「街へ行かないか?」
「はあっ!?」
「溜まっていた仕事もひと段落ついて少し暇を持て余していたんだ。よし!そうと決まればいこう!今すぐいこう!」
「おい!龍司!まてっ!」
強引に龍司に連れられて屋敷を飛び出す。
思えばこいつはいつも唐突だ。稽古と言って突然部屋に入ってきたかと思えば「腹が減った」と言い出しどこかへきえてしまう。
「――で?街に出て何を買うつもりだ?」
数歩後ろをしぶしぶ歩きながら聞くとやけに上機嫌な彼と目が合う。
「ふふん。今日はプレゼントを買うつもりだ!」
◇◇◇
「プレゼント選びというのは楽しいものだ!相手の事を考えているこの時間も愛おしいとさえ思えてくる!急にふっと頭の中にでてきたからきたけどやっぱりいいもんだな!勇者!」
「‥‥」
あの後すぐに街にでかけたが出かける直前にすれ違った千代さんと宮司に不思議そうな顔をされた。当然だ。
「おっ!この置物なんかもいいな!なぁ勇者もそう思わないか!」
目に入った店に入り目についたものを手当たり次第に手に取ってまわる。
「――ずいぶんはしゃぐんだな。一体誰に贈るんだ?」
「ああ、千代だ!」
屈託のない笑みを浮かべさも当然かのように話す。
「今日は特に何でもない日だが、俺があいつにあげたいと思ったから街へ出た!」
「本当に唐突――‥それで、千代さんへの贈り物ならその変な顔をしたピエロのような置物は喜ばないと思うぞ」
それ、と指をさすと「そうかぁ‥?」と少し不服そうな顔をしながらも置物を元の棚へ戻した。
「やっぱ一人連れてきて正解だったな!こうして聞きながらあいつが喜ぶものが買えそうだ!」
そういう龍司の顔は笑顔だった。
「(本当にこいつは、千代さんの事が好きなんだな)」
手に取っているものはなぜか奇妙なものばかりだったがそれを通してみる龍司の顔は幸せそうな顔をしていた。
「(あんなにはしゃいで‥よく宮司に子どもっぽいと言われるけどこれじゃあ龍司の方がよっぽど、)」
「あーーーーーー!!!!」
「うわああああああっ!?なんだよ急に大声をだして――」
「おい見ろ勇者!!!あれ!あの鈴!!いいと思わないか!?」
龍司が指をさしていたのは店の外まで並べられていた色とりどりの鈴だった。
「……鈴?」
「これなんか綺麗な音が鳴る!」
なんて言いながら興味深そうに鈴を物色しては音を鳴らしてたしかめていた。
「いろいろな色や大きさがあるんだなぁ」
「――鈴を、千代さんに贈るのか?」
「そうだなぁそれもいいかもしれない」
あいつは、未だに俺があげたあの一つを大切につけているから。
なんて愛おしそうに鈴を眺めながらつぶやいた。
「――そういえば確かに千代さん、いつも角のところにリボンで鈴を括り付けているな。あれはお前があげたものなのか?」
「そうだぞ!あの鈴も、アレを付けている千代も最高に可愛いだろ!」
「はいはい‥‥」
「昔のあいつは自分の事が嫌いで嫌いで仕方がなかったやつだったんだ。鬼と人間との間に生まれた子でな、昔はどちらにも属していない半端者といわれ、後ろ指を指され生きていた。千代自身も、どちらにもなれない自分の事を嫌っていたんだ」
今の千代からは想像できないだろう?と軽く笑う。
「あの角も、半端者の証だからとひどく嫌っていた。俺はあいつの声も、まっすぐなところも、あいつが嫌いで仕方がないと言っている欠けた角も、すべてが愛おしいと思うし綺麗だと思っているがな。でもあいつが、鈴一つで少しでも自分の事が好きになれるのなら、俺の隣でもっと笑ってくれるなら俺は何個でも鈴を贈るぞ」
「これで何個目だったかなー」とつぶやく龍司は鈴を見ているがどこか千代さんを重ねて見ているようにみえた。
「ああして笑顔で俺の名前を呼んでくれる今がとても愛おしいと思う」
そう話しフッと視線を外したその姿になぜだか胸がぎゅっとなって、彼は何を考えていたのだろうとぼんやり考えていた。
「まぁ俺も男だからな、好きで大切で、世界一綺麗な人がもっと綺麗になるのならもちろんそうするって話だ!」
いやー何勇者に話してるんだろうな!といつもの龍司の顔に戻るとまた鈴を選び出していた。
「恥ずかしいな、今のは忘れてくれ」
なんて恥ずかしそうに笑い顔をそむけるその姿がなんだかおかしくて
「いいや、面白いものが見れた。あたしは忘れないぞ」
思わずあたしも笑いながらそう答えた。
まるでただの友人同士で会話をしているような、そんな感覚。
「(おかしいな。相手は魔王なのに)」
楽しくて、夢見心地で、ふと我に返ると自分はここに何をしに来たのか疑いたくなる。
だけどただただ今は隣で笑っているただ愛する女性に贈り物をと悩んでいる青年の姿にしかみえなくて。
「――よし、今日はこの鈴とリボンを買おう!」
「決まったのか?」
「ああ」
「――‥うん、いい色だ」
心のどこかでこいつらが魔王じゃなければいいのにと考えている自分に気づき、驚き、呆れて、反射的に力なく笑った。
◇◇◇
「今帰ったぞー!」
「‥ただいま」
「おかえりなさい龍司君、勇者ちゃん!急にでかけるからびっくりしたけど‥何を買いに行ったの?」
城に帰るとちょうど千代さんに迎え入れられる。その顔をみて龍司はまた嬉しそうに笑った。
「‥あら?これは‥?」
「お前にだ。千代」
龍司のもっている者に気づくと千代さんは不思議そうに聞いた。そして綺麗に包装された包みを千代さんに渡すと、驚いたような、嬉しそうな顔をして「開けてもいい?」と聞いていた。
「――綺麗ね」
「今日店に出ていた中ではそれが一番きれいだと思った。お前に似合うと思ったから思わず買ってしまった」
「ふふ、嬉しい。ありがとう龍司くん。また毎日の楽しみが増えたわ」
「おう!」
千代さんが嬉しそうに鈴を角の近くへ持っていくとチリン、と高く心地よい音が鳴った。
それをみてまた龍司も嬉しそうに笑う。
「――‥まったく、毎回周りにも人がいるのによくできますね。素直すぎるのも困りものです」
いつの間にかいた宮司が少し困ったような、呆れたような顔で龍司を見ていた。
しかしそう言うくせにどこか楽しそうで。
「そういう割には全然迷惑そうな顔してないけど」
「まぁ、兄さんのああいうところは見習いたいなと。馬鹿正直でまっすぐなところはあの人の美点でもあります」
「‥それは誉めているのか‥?」
なんてやりとりをしていると龍司がまたこちらに向き直った。
「おっなんだ勇者、いつの間にか元気になってるじゃないか!変な顔じゃなくなってる!」
「はぁ?あたしがいつ変な顔してたっていうんだよ!だいたい、今日のお前の突拍子もないお出かけや買い物に付き合ってあげたことに感謝してほしいくらいだっていうのに‥」
「よかったなー勇者!」
「おい聞いてるのか!?」
ああ、彼は彼なりに少し気を使ってくれたのかな、とか、自分は何に悩んでいたんだろう、とか、そんなことを考えていたらこのやり取りがなんだか馬鹿らしく思えてきて思わず笑ってしまっていた。