コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.49 )
- 日時: 2020/06/14 13:13
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
―――愛しいと、思ったことはあるか。
Episode13『ギフトの日』
「ふんふんふ~ん」
「あれ?千代さん鼻歌なんか歌って‥何かいいことでもあったんですか?」
「あら?勇者ちゃん、おはよう。今日が何の日か知らないの?」
「ん?今日‥‥?」
何かあっただろうか。誰かの誕生日だとか、記念日だとか。それならあたしが知らないのにも納得はできるが。
「ああ、今日はあの日ですね」
「あの日?」
心なしか珍しく宮司も笑っている‥――気がする。
「今日はねぇ、ギフトの日なんだよ!」
「ギフト‥?」
「勇者の住んでいたところではギフトの日、なかったの?」
続けてミラとルカが訪ねてくる。
「‥いや、初めて聞く」
「ギフトの日っていうのはね、普段大切な人や好きな人に感謝や敬愛等の気持ちを込めて贈り物を渡す日の事よ」
首をかしげていると千代さんがあたしの方にきて説明してくれた。
「素敵でしょう?」
優しく聞く千代さんの角には先日龍司があげたリボンにくくられた鈴がチリンときれいな音でなった。
「面白そうだったから俺たちもやろうってなって気づいたらずっとやってるよな!」
「たまには人間も素敵なことを考えます」
「そうやってクールぶっているけどお前もちょっと楽しみにしてるもんな」
「ちょっと、何言ってるんですか」
龍司と宮司のやり取りにこれは毎年恒例のようなものですよねぇとルカがつぶやいた。
「――ということで。はい、勇者ちゃん」
「えっ?」
千代さんから渡されたのはきれいにラッピングされたクッキーだった。
「これは‥」
「私からのプレゼントよ」
なんのためらいもなく渡されたそれを思わず落としそうになる。
「えっ、そんな、あたし‥っ!?」
「言ったでしょう?大切な人や好きな人に渡すって。だから勇者ちゃんにもあげたいの」
にこりと綺麗に笑う千代さんに飲まれそうになる――じゃなくて、
「でもあたし、何も用意してなっ――」
「だったら、用意しに行けばよいではないか」
突然後ろから肩を回され、びっくりして声の主を見ると穂積が楽しそうに口元を緩ませていた。
「いやぁしかし本当に人間は面白いことを思いつくものだ。実に興味深いねぇ。そうだ勇者、もし千代嬢に何かお返しをしたいというなら‥付き合ってやってもいいぞ?」
「そういってあなたは街へ繰り出したいだけでしょう」
気づいたら反対方向から宮司の手が伸びてきて穂積の手をやんわりとほどいてくれた。
「まぁそれも否定はしない。なんせ今日はまるで祭りのようににぎやかだからな!勇者も興味が湧いてこないか?」
「あなた一人で行けばいいでしょう‥」
「まぁまぁそんな固いこと言わずに。さぁ、勇者。準備をして千代嬢が喜びそうなプレゼントを探そうではないか」
「えぇ‥?」
「‥俺も行きます」
「宮司も?」
「ほう?宮司殿も誰かに贈り物を渡したい相手がいる、と?」
「毎年俺もこのギフトの日には参加しているだろう‥まったく、そんなに街へ繰り出したいのなら一人で行けばいいだろう」
「おお怖い。相変わらず手厳しい」
両隣で軽く口論が始まりそうな中、逃げるようにして街へ行く準備をするのだった。
◇◇◇
「わあ‥!本当だ!本当に街全体がお祭りみたいだ!」
いつもとは違った街の色に思わず驚きを隠せずに声をあげると呆れたように宮司が笑った。
「まったく、子どもですかあなたは」
「だって!こんなに変わっているとは思わなかったんだよ!」
色とりどりの旗がなびき、そこら中で音楽が流れ、踊っている者、歌を歌う者、楽しそうに話している者から愛を語る者まで様々な人がいて面白い。
空に舞った紙吹雪ですら花が咲き乱れているように感じてますます心は踊るばかりだった。
「―――綺麗だ」
「そうだろうそうだろう。俺は毎年、この時期が好きなんだ」
フードを深くかぶった穂積がいたずらっぽく笑う。
「確かにこれだけあると目移りしてしまいそうですね」
宮司ですら珍しく周りを見渡していた。
「―――そこのお姉さんたち。よかったら見ていかない?」
凛とした声だった。
「あっ、えっと―」
「ギフトの日用のプレゼント、見に来たんだろ?うちはいろんなのがそろっているからよってきなよ」
人のよさそうな笑顔で話しかけてきたあたしと同じくらいの女性がいた。
「まぁ、せっかくだし‥少しみてみるのも――、」
ふと穂積の顔見ると、静かに驚いて息をのむ音が聞こえた。
「‥穂積?」
「……ん?ああ、そうだな」
そしてまたいつもの顔に戻った。
「今日は誰に?」
「えーっと‥いつもお世話になっている、人‥かな」
「なんで曖昧?」
口にするとその関係が自分の中で曖昧になっていたのは事実だ。少し目をそらすと彼女は「ふぅん」とこれ以上話を掘り下げる気はないといった口調で隣にいた宮司にも同じように聞いた。
「そっちの色男は?」
「――‥家族にです」
「おっ素敵だねぇ」
「そっちのフードの‥あんたは?」
「……ああ、俺か」
聞かれてはっとなったのか穂積が顔をあげる。どうも先ほどからどこか上の空だ。
「俺は――まぁ、この二人の付き添いといったところだ」
「そっか。まぁゆっくり見ていきなよ。あ、そうそう!もうすぐあそこのステージで出し物が行われるんだ!あたしもちょっと参加するからよかったら見てって!」
そういって笑顔で手を振ってまた人ごみに消えた。
「‥どこかの誰かさんをみているかのようなせわしない人でしたね」
「誰の事だ?」
「おや、自覚がない」
「はあ?」
宮司が相変わらず失礼なことを言っている。いつもならここに穂積も遠慮なく入ってくるが今日は様子がおかしい。
「……穂積?」
どうやらそれは宮司も気づいていたようで、首をかしげていた。
「――おお、すまんな二人とも。何でもない」
そういう穂積の顔は少し泣きそうな顔をしていて。明らかに「何でもない」という顔ではなかった。
「……どうしたんだよ。そんな顔して、」
「そんな顔?どんな顔を――」
ワァァァァアアアアアアアア―――――‥!!
その時、店の中央で一際大きな歓声が聞こえた。