コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.5 )
日時: 2019/10/13 18:16
名前: 猫まんまステーキ (ID: rFnjVhnm)


目覚めはひどくゆっくりだった。


「…ん?」

あまりにもきもちよく眠っていたものだからはじめここがどこかすら忘れてしまうほどだった。

「(えっと確か‥私、は‥‥‥っ!!)」

はっきりと覚醒していく意識。そうだ、私は魔王に料理で仕込まれたであろう毒で眠らされていたのだ。


「(縛られている形跡は‥ない、記憶も‥うん、ちゃんとあるな、大丈夫。手も足もばっちり動くし‥」

今のところ異常は、ない。


ただ一つだけ違ったのは剣や持ってきた荷物がなかった。


「おのれ魔王…だましたな‥」

だまされた方が阿呆だというのはこの際おいて置き、今ここにいない魔王への怒りがふつふつとこみ上げる。何はともあれ今武器もない状態はまずい。鍛えてきた体をもってしても相手は魔法を使うのだ。何をされるかわからない。


すると扉の向こう。廊下側が騒がしい。

あぁ、奴が来る。そう直感が告げた。

こちらは丸腰。だが武力でギリギリいけるか?
いや、それはあまりにも無謀だ。

それにこちらは一人に対しあっちは何人で来るかわからない。

もしこのままつかまってしまったらそのときはどうなる?

監禁?脅迫?拷問?あるいは死――?
いや、それすらも凌駕するもっとおそろしい何かか――?


かすかに手が震える。落ち着け。今まで魔王を倒すために努力を重ねてきたじゃないか。

「(大丈夫、大丈夫…)」

もう、やるしかないのだ。



ダンッッ!!!


勢いよく扉が開いて出てきたのはさっきのうるさい魔王だった。

思わず声をあげそうになったがなんとかとどめたのは魔王の顔が怖くなかったからなのかもしれない。


「勇者ちゃん!!大丈夫か!!!!」


「‥‥え?」

そしてすごく心配されてしまったからかもしれない。

「急に倒れるから俺心配したんだよ‥なんか見るからに細いし弱そうだし軽そうだし‥‥」

矢継ぎ早に言われひょいと持ち上げられた私の足が浮いた。

「っ、うわ、」
「ほら、軽ぃ。そういえばお前、なにしに来たんだっけ?」

まるで無邪気そうな笑顔で問うこの魔王(仮)。

「ちょっ…はなっ‥私はお前らを倒すためにここにいるんだ…今に見てろよ!お前らをぶったおして殺してやる…!!」









「―――へぇ。ならやってみろよ」





悪寒。


彼のさっき見た笑顔とは打って変わり、まるでこの世の悪をすべて詰め込んだような悪い顔で笑った。

「―――っ、」

「でも残念だったなぁ?剣は今ここにはないんだろ?ならどうやって俺を殺せるんだ?」

あぁ、やはりこいつが魔王だ。


そう頭の中で考えたぼんやりとした考えを浮かべながらもその顔がたまらなく不快だと感じた。

油断しきった顔、不快、だがそれ以上に認めたくはないが恐怖が勝っているのも事実だ。
「今もこうして持ち上げている手をどかすことができねぇで俺たちを殺すだぁ?笑わせんなよ“お嬢ちゃん”。それにかすかだが震えている。


なぁ、どうやって俺を殺ってくれるわけ?」


「う‥あ‥、」

「まぁ、今すぐにでも俺を殺したいかもしんねぇけど、最低でも剣がなけりゃあなぁ…?」

悔しいが体が動かない。悔しさで唇をかむ。




「‥‥その辺にしときなよ。兄さん」

扉のそばで凛とした声が聞こえた。


「ふぇ‥?」

思わず情けない声をあげる。危うく涙が出そうだったこの状況を打破した奴は誰なのか


「はぁ、だから勇者なんて面倒くさそうな奴やすやすと入れるなって言ったのに――」


あの凍てつく目をした魔物だった。