コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.52 )
日時: 2020/06/09 22:10
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)


 「何でしょう。中央からですかね」
 宮司が顔をあげて中央の方へ眼をやった。

 「――あ、」
 そこには先ほどの女性が音に合わせてひらひらと踊っている姿があった。

 回るたびに揺れる布地のスリット部分から見える足が何とも艶めかしく色っぽい。彼女は優雅で、それでいてとても楽しそうに踊っていた。

 「きれー‥」
 「これは見事ですね」

 思わず言葉を失ってみているとふとそんな彼女と目が合った、気がした。
 いつの間にか目が合う距離まで近づいていたらしい。にっこりとほほ笑んだその顔がまた更に彼女の魅力を引き出している。時に歌い、踊り、楽器を奏でるその姿に彼女を見ないものはいなかった。

 「――――、」

 となりで愛おしそうに目を細めている穂積の口が、少し動いた気がするけれど、なんといったのかよく聞き取れなかった。

 「穂――、」

 声を掛けようとした瞬間、歓声があがり、ステージ上では彼女が笑顔でお辞儀をしていた。

 「――終わったみたいだな」
 「……うん」
 「見事だった。いやあ実に見事だねぇ」
 「――穂積はあの人の事、知ってるの?」
 「ん?いや‥――彼女には初めて会うよ」

 何でもないという風に話す彼にこれ以上は何も聞けなかった。

 
 ◇◇◇

 「おっ、また会ったね」
 ステージ衣装から着替えた彼女はあたしたちを見つけると手を振りながらやってきた。

 「なかなかの身のこなしだった。見事だったよ」
 「本当?嬉しい!ありがとう!」

 穂積が褒めると素直に彼女は喜んだ。
 
 「いいものは見つかった?」
 「んーん。何を渡そうか考えたらなんだかどんどん迷っちゃって‥」
 「だったらあたしが紹介してあげるよ!」
  
 彼女はあたしの手を取り広い店内を案内して回った。

 「王道なのはやっぱりクッキーかなぁ。ここには何種類かあるんだけど特におすすめなのはこれ!あとはネックレスとか花とか。あぁ、お酒なんかも売れているな」
 「ほう、お酒ですか」
 となりで見ていた宮司が食いついた。

 「あとは好きな相手とか愛する人には指輪や髪飾り、ブローチを贈る人なんかもいるな‥」
 「――‥これは?」

 ふと、穂積が一つのブローチを手に取った。
 
 「あぁ、それ、あたしが作ったんだ」
 すこし照れ臭そうに彼女は笑う。穂積の手にはサクラをモチーフにしたであろうブローチがあった。

 「サクラっていうんだけど‥この辺りじゃあまり見かけないかな。とても綺麗な花が咲くんだ。あたし、その花が大好きでさ。その花をモチーフにしたんだけど‥」
 「あぁ‥、知っている」
 ブローチを光に照らして愛おしいものを見るかのようにつぶやいた。

 「いいな。これ」
 「本当!?嬉しい!えっと‥」
 彼女が名前を呼ぼうとしてまだお互い名乗っていないことに気づく。

 「――穂積だ」
 「ほづみ‥?」
 一瞬きょとんとした顔をした後、「いい名前だね」と彼女はつぶやいた。

 「そっちは?」
 「シュナ!」
 「‥宮司です」
 「あたしはアンナ。ここで店員兼踊り子をやってる」

 一通り自己紹介が終わると遠くでアンナを呼ぶ声が聞こえた。
 「あ、ちょっと行ってくるね!まだいるようならまた話そうよ!それまで好きに見てって!」
 「うん。そうする」
 
 あたしたちがうなずくと嬉しそうにその場を離れていった。




 「――――さすがに『なんでもない』はもう通用しないと思いますよ」
 「……」

 アンナがいなくなった後、ぽつりと宮司がつぶやいた。

 「アンナと過去に何かあったのか?」
 「――別に何もない」
 「あそこまで不自然で何もないはないでしょう‥まぁあなたが言いたくないのなら無理に詮索はしませんが」
 「‥過去の友人に、少し似ているというだけの話だ」
 「過去の友人ってあのサクラの人?」 
 「よく覚えているな‥そうだ。そいつに似ているが所謂“人違い”というやつだ」
 そこまで言って彼はアンナを見つめた。


 「なぁ、勇者と宮司よ。お前たちは『愛』について考えたことがあるか?」
 「あい‥?」 
 「何を急に」







 「俺はな、どこかで生きていてほしいと願うことが、俺の、俺自身の愛のかたちだと思う」





 そして穂積は何かを決意したように一呼吸おいて話す。




 「あいつは、かつての友だった人間だ」