コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.54 )
日時: 2020/06/14 14:20
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 

 「もうじき、命日なんだ。あいつの」


 ある昼下がり。いつものように友は俺に話を聞かせた。

 「……なんだ、その顔は」
 「そういう話はあまり好かん。いつもの面白い話が聞きたい」
 
 やはり彼がいつも話す話は毎日違って聞いていて飽きない。人間の事、彼が訪れた様々な場所の事、人間が持つ感情の事、あげて言ったらきりがないくらい沢山の事を教えてくれたように感じる。

 ただどうも、この手の話はあまり好きではなかった。
 好きな人が死ぬ、だとか、愛おしい人がいなくなる、というものの実感がいまいち湧かない。「愛おしい」という感情を持ったことがなかったからだとは思うが。

 あいつ、という人物が誰の事を指しているのかすぐにわかってしまうほど俺たちは長く一緒にいたような気がする。

 「未だにこの時期になると、少し苦しくなる」
 事実、最近の彼は顔色が少し悪い。

 「――‥人間も大変なんだな」
 「あまり興味がないように聞こえるが」
 「そんなにつらいのなら全部捨てればいいだろう」
 「そういうものでもないんだよなぁ」
  
 あぁ、さっぱりわからない。そんなに固執しているのに辛いだなんて。
 彼がここを離れないのはその家族がいた空間が大切だからだとか言っていた。

 「――人間はすぐに立ち止まって振り返って後悔をする。少しは前を向いて進んだらどうだ」
 「はは、手厳しいなぁ‥でも、まったくもってその通りだ」
 「村からはでないのか」
 
 俺が言うと彼は少し考えるそぶりをして、

 「でも俺がいなくなったら穂積はまた一人になるだろう?そしたら寂しがるんじゃないか、お前」
 と少し笑った。


 「………馬鹿も休み休み言ったらどうだ」
 「えぇー?」
 「まったく。誰が寂しいだ誰が」
 「まぁそんな顔すんなよ。ほら、今日は酒を持ってきたんだ。うまいぞ」
 「‥友よ。俺はお前を思って忠告してやるが人間の年齢で言うとお前もそんなに若くはないのだろう」
 「まぁまぁ。お前と飲む酒がうまいんだ」

 そういわれて悪い気はしなかった。

 友と談笑し、酒を飲むこの時間が気づいたら当たり前になっていた。

 「―――なあ。穂積」
 「なんだ」
 「お前、俺がいなくなったらどうするんだ」
 「どうするも何も俺はずっとここに居続ける。人間たちが俺の事を忘れるまでずっとな。お前がいなくなったらまた前の当たり前に戻るだけだ」
 
 そう言うと友は少し寂しそうな顔をしたような気がするのは気のせいか。

 「そうか、お前はずっとここにいるんだな」
 「‥」
 「じゃあもし俺が死んでまた生まれ変わっても、俺はお前に会いに行くよ。また友になろう」
 「また騒がしくなるのはごめんだ」
 「そういってまんざらでもないだろう」
 「さぁ、それはどうだろうな」

 努めて明るく話す友に少しだけ感じた違和感。だがそれはきっと、気のせいだろう。

 「まあでも、悪くはないのかもな。だがそう簡単にいくわけがない」
 「だが俺たちが望めばまた何度だって会える。そうだろう?」
 「―――‥ああ、そうだな。じゃあ俺は鳥にだって犬にだってなめくじにだってなってもお前を見つけて、また友になろうではないか」
 「それは楽しみだ。お前ならきっと、見つけてくれるな」
 「当たり前だ」


 そういうと安心したように彼は笑った。