コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.57 )
日時: 2020/06/24 20:55
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 きっとあたしが求める愛の答えは、まだ出ない。




 Episode15『本音と建前と照れ隠しと』



 「―――随分長く話してしまった」
 
 まるで夢から醒めたような顔をした穂積が小さな声で謝った。

 「まぁそれからいろいろあって俺は今のところにいる。いやぁ、こんだけ長く生きていると何が起こるかわからないものだな」

 何事もないようにけらけらと笑う穂積をみてなんと声を掛けたらいいのかわからなくなった。

 「……お前は‥、穂積は、アンナと、その‥」
 妙に続きの言葉を伝えるのが憚られてしまう。

 「愚問だな、勇者よ」

 あたしの考えを読んだのか穂積が困ったように笑う。

 「俺はあいつがどんな形であれ、たとえ記憶がなかったとしても、俺はあいつの事を愛おしいと思うのだ」
 そういうものなのだ。とけらけら笑うのだった。

 「少し勝気なところも、時折見せた無邪気なところも、少し図々しいところも、誰にでも分け隔てなく接するところも、

 音楽が好きで奏でるその姿ですら、あいつと同じなのだと感じてしまう」


 そして遠くで話しているアンナをゆっくりみた。


 「どんなかたちであれ、幸せに生きていてくれれば、それでいい」


 あぁ、その言葉には一体どれほどの感情と想いが込められているんだろう。

 それを知るには、あたしにはまだ愛を知らなさすぎる。



 
 ◇◇◇


 その後もアンナの店で品物を吟味したあと、あたしはクッキーと香り玉を購入した。穂積は自分用にブローチを、宮司はお酒を買っているのが見える。


 「試飲してみたのですがなかなかおいしかった。よかったら勇者もどうですか」
 「えっ!いいの!?うわぁ嬉しい!このクッキーと合うかなぁ‥」
 「え、クッキーですか‥?」

 後ろで少し戸惑う宮司の声が聞こえる。食べてみないとわからないだろう。

 「いろいろ買ってくれてありがとね!」

 帰り際、ちょうど手が空いたアンナが見送りに来てくれた。
 「なかなかいい買い物ができたよ。ありがとう」
 「ふふん。でしょう?品ぞろえはなかなかいいと思ってるからね!」

 自信満々に話すアンナに思わず笑ってしまう。それは穂積も同じだったようでその顔は少し嬉しそうだった。


 「また来る」
 「うん」

 穂積の顔に迷いはなかった。


 「―――あ、ねぇ、穂積」


 店を出る直前、アンナが穂積を呼び止めた。
 「ねぇ、あたしたち、どこかで会ったことある?」

 フードで顔はあまり見えなかったが、確かに息をのむ音が聞こえた。


 「……いいや。初めてだよ」
 「‥、そっか」




 そして何事もなかったように手を振った。




 「―――よかったのですか?」
 「‥あそこで言って、何になる」

 小さくつぶやくように発した宮司の声に穂積は満足気に話した。


 「――よかったさ」
 



 まるで自分に言い聞かせているようだった。


 「……まぁ俺はこれからも気ままに生きていく。あいつが今幸せならそれでかまわないし‥それに」

 あたし達の方を振り返る。


 「今は騒がしい奴らが周りにいるからな。見ていて飽きない」


 そういわれたその言葉が妙に嬉しくて、だけどそれを素直に認めるのが癪でつい穂積を小突いた。


 結局城に帰ったのは夕方ごろで。 
 あたしが買ったクッキーと香り玉は千代さんやルカ、ミラに好評だった。
 
 
 ◇◇◇


 「勇者」

 一人で長い廊下を歩いていると宮司があたしを呼ぶ声が聞こえた。思わず振り返るといつもの顔をした宮司。だけど、


 「‥宮司?どうしたんだ?」
 「これ、あなたにあげます」
 「ん?」

 差し出されたのは丸い球が付いた髪飾りだった。中は星がちりばめられていてキラキラ光っている。

 「‥きれー‥」
 「先ほどの店で見つけました。とても綺麗だったのでつい手を伸ばしてしまいまして」
 「これ、あたしに‥?」
 「あなたに似合いそうだなと‥いつもあの兄貴やルカ達の相手、ご苦労様です。それと、」


 一瞬言うのをためらう姿が見えたのは気のせいだろうか。

 「――この間の商談のお礼です」

 二コリと笑う宮司の顔に不覚にも少しだけときめいてしまったのは――、


 「え‥宮司がそんなに素直にお礼をいうなんて‥」
 「嫌ならもらわなくて結構」
 「ああいや!!もらう!!もらうから!!‥嬉しい」
 「……よかった」
 「あ、でもあたし、宮司に何も買ってない」
 「それもいいですから」
 
 ずいっと効果音が付きそうなほど詰め寄ったあたしに宮司は右手で制して落ち着かせる。


 「たまたまギフトの日と重なってしまったのでそうなってしまいましたが‥別にこれはギフトの日関係なくただあなたに渡したいと思ったから買ったのですよ」

 少し呆れたような顔で笑う宮司とは対照的に顔が熱くなるのを感じた。


 「えっ……と、」
 「では」
 

 そういって背を向けて歩いて行ってしまった。


 「……っ、」
 
 なんで自分の顔が熱いのか、とか。あの宮司があたしにプレゼントを、だとか。そんなことをぐるぐると考えてはみたけれど。


 「……なんで‥!?」

 すべてを考え理解するのにはもう少し時間がかかりそうだと一人になった廊下でしゃがみ込んでしまうのだった。