コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.59 )
日時: 2020/07/06 20:05
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 「あーーー!!!!疲れた!!俺は疲れたぞ!!」

 ある昼下がり、千代さんやルカ達とのどかにお菓子を食べていると勢いよく扉があき、龍司が弱音を吐きながら入ってきた。

 「お疲れ様です。龍司様」
 「お仕事はおわりましたかっ?」
 
 「んなもん休憩だ!!やってられるかー!」

 相変わらず子どものように駄々をこねながら千代さんが作ったパウンドケーキを食べる。

 「こういう時は気分転換に限る」
 にやりと笑う龍司。あぁ、なんだ嫌な予感がしそうだ。


     Episode16『彼らなりのコミュニケーション』


 「オツカレサマデシタ、ヘヤニモドリマス」
 「どこ行くんだー?勇者」

 面倒ごとに巻き込まれたくないと急いで席を立つとまるで何とでもないというように龍司に襟元を引っ張られ「ぐあっ」と変な声が出てしまった。

 「ちょっと遊ぼうぜ、勇者」
 「遊ばない」
 「どうせ暇だろ―?遊ぼうぜ!!」
 「いや暇じゃ‥剣の稽古だってしたいし」
 「ならちょうどいい。剣の稽古よりもお前が普段やっている体力づくりよりももっと楽しくて有効な遊びしようぜ」
 「……はぁ?」

 まったくこの魔王は何をしようとしているのか。

 わけがわからないという顔をしていると今度は宮司が入ってきた。

 「ここにいたのか‥兄さん仕事は終わったのか?」
 「気分転換にアレをやろうかと思って」
 「アレって‥‥まさか、」
 「さすが弟!話が早いな!」


 二人の会話を聞いて察したのか千代さんは「まぁ」と楽しそうな声をあげ、ルカとミラは心なしかやる気に満ちている。

 「ほう、久しぶりにアレをやるのか。楽しくなりそうだ」

 いつの間にやってきたのか、穂積が近くまで来て楽しそうに口角をあげていた。

 「アレをやると兄さんの仕事がさらに遅くなるじゃないですか…」
 「いいだろ久しぶりにさ!ちょっとだけ!」

 さっきからアレ、アレと何かわからないこちらにとってはさっぱりだ。頼むから勝手に話を進めないでくれ。

 つかんでいた襟元をはなされ、呼吸がしやすくなっていることに気づく。
 「ふふ、ああは言っても宮司君も本当は少し楽しみなんじゃないかしら」
 確かにたしなめようとしている風にみえるがそこまで強くいってない様子を見ると宮司も「アレ」をやりたいんだとわかる。

 「アレっていうのはね、そんなに大層なものではないのよ。簡単なゲームみたいな」
 なんて楽しそうに話す千代さんは少しだけやる気があるように見える。

 「むしろやると仕事の効率も上がる気がする!よしやるぞー!俺はやるからな!」
 「はぁ‥」

 こうなった龍司は絶対折れない。それは長年いた宮司だけでなく気づいたら半年近くいたあたしにもわかることだった。



 そう、ここの生活に半年近くもいてしまっていたのだ。




 

 ◇◇◇


 「よし、集まったな!じゃあ始めるか」

 
 やる気満々の皆とは裏腹に無理矢理参加させられ中庭に連れてこられたあたしはため息をつくしかなかった。
 「お前らは分かっているのかもしれないがあたしは今から何をやるのか知らないんだけど‥」

 少し嫌味っぽく言うが龍司がお構いなしだ。

 「ああ、勇者は初めてなんでしたっけ?まぁ簡単に言えば点取りゲームのようなものです」
 となりにいた宮司が話す。そして龍司が銀色の球体を魔法で作り出す。

 「今兄さんが作り出した銀色の浮遊している球体が的です。アレを一人三個体の回りに浮遊させます。自分以外のもっている球体を壊して最後の一人になったら勝ちというシンプルなゲームです」
 「ちなみにこれは素手でも簡単に壊せるぞ!」

 そういうと龍司は浮かせていた球体をチョップしてみせた。
 「だから私でも簡単に壊せるの」
 ニコニコと千代さんは話す。

 「今回はチーム対抗戦ではなく個々で行おうと思う!最後まで残っていた奴が今日の勝者だ!」
 「ほう、それは燃えるな」
 「勝者には何かあるのですかっ!」
 「そうだなぁ‥じゃぁ」


 勝ったやつは他の奴らに好きなことを命令できる。




 おそらくその場で思いついた龍司の言葉を聞いた瞬間皆の空気が変わった。


 「―――ほう、何でも、ねぇ」
 「えーっ!えーっ!いいんですか!龍司様!」
 「何お願いしよう‥」
「まぁ、楽しみね」
 

 驚いた、皆もう自分が勝つ前提で話を進めている。


 「――――ちなみに、どこまで?」
 「んあ?」
 「どこまで、やってもいいですか?」


 一際違う空気を纏った宮司が静かに尋ねる。



 「‥それはもちろん、殺さない程度なら」
 「‥‥‥それは楽しめそうだ。前言撤回はなしですからね」


 満足そうににっこり笑う宮司の笑顔に含みがあるのが怖い。

 「あいつらは時折、ああやって力を発散させるんだ。一種の兄弟喧嘩のようなものだな」
 まるで風物詩でも見るかのようにのんきに穂積は答える。

 「日ごろのうっ憤をようやく張らせますね。さて、兄さんに何をお願いしようかな」
 「わかっていると思うが他の力量差は考えろよー」
 静かに燃える宮司とは相反してへらへらと龍司は話す。


 「球はそれぞれ三つついてるかー?格闘剣魔法なんでもありだが力量差は考えろよー」
 気付いたら龍司の魔法で作った球体がそれぞれの体に三つずつまとわりついていた。


 「よし、じゃあ――検討を祈るぜ」




 パン!!!!!!!!!



 
 どこからか鳴った空砲のような音が庭中を響かせた。
 瞬間、目の前から奴らが消えた。