コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.60 )
日時: 2020/07/06 20:20
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)



 「―――っ!?」

 消えた?――いや、視界の端でとらえたあいつらは素早く四方に散ったのだ。それを消えたと錯覚してしまうほど、動作が早かったのだ。


―――ザシュッッ!!!!


 「どうしたの勇者!早くしないと3つとも全部なくなっちゃうよ!」
 あたしの所有する球すれすれを黒い影が鋭く通過する。
 気づくと屋根の上からルカとミラがあたしをにこやかに見下ろしていた。不自然に伸びた影からおそらくミラの魔法だろう。

 「もうゲームは始まってるの」
 「そういうこと~」
 
 「……ルカとミラめ」
 「なんだとろくさいではないか勇者よ。いつもの威勢はどうしたんだ?」
 今度は後ろから穂積の声。いつのまに背後に立っていたんだ‥?

 「まさか初めてだからと言い訳をするわけではないだろう?」
 ――あぁ、こいつは分かっていてあたしを煽るんだな。


 「……上等」

 剣を抜き素早く後ろへ回すが予想していたのか穂積は宙を舞うように軽々とよけた。

 「安い挑発に乗る癖、やめた方がいいぞ?」 
 「お前がっ!先に喧嘩を売ってきたんだろうがっ――!!」

 距離を詰めていくがあと一歩で届かない。

 「だが俺だけでいいのか?」
 「‥‥どういうことだ?」

 穂積が至極楽しそうな声色で話す。

 「今お前は中庭のど真ん中にいる。これ以上ないくらいの的だと俺は思うが?」
 「……」
 「今ここで目立つお前が一番狙われやすいと――」

 
 途中まで言いかけたところで穂積とあたしの間に鋭い光の線ができた。


 「そういうことだ。的がわかりやすくて助かる」


 気が付くとにやりと笑う龍司と目が合う。

 「一気に二人駆れるなぁ‥だがあまり早すぎても面白みがない」
「――久しぶりにお前のその悪人のような顔を見た」

 となりにいた穂積も笑っている……だが目が笑っていない。




 「――さぁ勇者、稽古をつけてやるよ」



 ――――『どこまで、やってもいいですか?』
 ――――『‥それはもちろん、殺さない程度なら』

 数分前に宮司と龍司の会話を思い出す。

 息抜きと話していた龍司の姿を思い出し笑いながら再び剣を持ち直した。


 「手加減してやった方がいいか?」
 「まさか」


 ガキン――――――ッ!!!!!

 中庭に鈍い音が響く。連続で出てくる龍司の攻撃は剣でさばくのに精いっぱいだった。

 「どうした勇者よ!これでへばっていたらいつまでたっても俺を倒すことはできないぞっ!!」
 「――っ、誰がっ!へばってるって!?」

 売り言葉に買い言葉、龍司の安い挑発にも乗ってしまうがそれでもお構いなしだ。だがそうも言ってられなくなってきた。

 「くっ、」

 一度距離を取り体制を立て直す。魔法がそこまで使えないあたしでは圧倒的に不利だ。ここはやはり不意打ちを狙いたいところだが――。

 「おらおらおらおらーっ!お前が攻撃しないのならこっちからいってもいいんだぜーっ!」
 ダメだ。脳筋のアイツは次から次へと攻撃をやめない。考えている時間も奪ってしまう。
 龍司が右手を勢いよく掲げる。すると光のやりが一斉に降り注いだ。

 「うわぁあああぁ!?」
 とっさに防御魔法を自分の回りに作り防ぐがやりのようなものは一向に止まらない。

 「お前の魔法が切れるのが先か俺のやりがその防御をくずすのが先かどっちだろうな」
 そこにお前の魔力が切れるという選択肢はないのか!!?

 「……随分余裕なこというじゃんか‥」
 「ふふん」
 そのどや顔が腹立つんだよ今すぐ殴ってやりてぇ……!!!


 防御魔法は固めたまま勢いよく地面をける。この際魔法の弾が割れても割れなくてもいい。

 「一発殴らせろ!!!!!」
 「うおっ!?」
 流石にあたしが走ってきたのが予想外だったのか龍司の体制が少し崩れる。

 (今だ――――!!)

 一瞬防御魔法を解いて右手を強く握り龍司の顔へめがけて――、

 「――なんてな」
 「っ!?」

 龍司が何かをつぶやいたと思った瞬間、よろけた状態のまま体の軸を回転させてそのまま回し蹴りを繰り出した。

 「うっ、」

 パリン―!!


 とっさに受け身をとり後ろへ下がるも球体は割れてしまった。

 「よっしゃまずは1つ!」
 嬉しそうな龍司の声。

 「剣の筋は悪くない。だがお前はたまに慎重に動く癖がある。守りに徹してばかりだといつまでたっても球体なんて割れねぇぞ?」
 愉快そうな龍司の声。ああもう腹が立つ。

 「攻撃は最大の防御だ。攻撃を続けていれば相手は守りに入るから攻撃はされない」
 「―――ほう、いいことを聞きました」


 突然風が吹いたかと思うとまるで竜巻のようそれは大きくなってあたしと龍司の間を通過した。


 「だから兄貴はいつも周りを見ず先読みしない攻撃ばかりを単調的に繰り返すのですね」
 いつの間にか宮司がそこに立っていた。にっこりと笑っているがその目は笑っていない。

 「だいたい兄貴は派手な技、仕事しかやろうとしない。この間の仕事だって面倒、地味だとかいってすべて俺に押し付けましたよね?あれ、結構引きずっているのですが」
 「ああ、そうだっけか」
 「……」
 宮司が左手をかざすのと龍司の右頬が切れて血が流れるのはほぼ同時だった。


 「―――攻撃が最大の防御、なんでしたっけ?」
 「‥‥お前」
 「まあまあ。仲良く兄弟喧嘩とやらでもしましょう」
 「相変わらずお前も血の気が多い。返り討ちにされて泣くなよ?」
 「ご冗談を」


 ああ、二人の兄弟喧嘩が静かに行われようとしている中で、あたしはただそれをじっと見ていることしかできないのだった。