コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.61 )
日時: 2020/07/27 02:45
名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)




 「なんだかんだ言ってっ、お前も俺に似ているからっ‥!動きが単調で読める時があんだよっ‥‥っと、どれだけ一緒にいると思ってんだ!」
 「……」
 
 どんな魔法が繰り出されるのかと期待半分興味半分でみてみると意外にも格闘技が繰り広げられていた。

 「しゃべってばかりだと舌がなくなっても知りませんよ?っ、……あぁ、まぁ舌がなくなれば少しはこの屋敷も静かになりますかねっ……!」

 宮司が回し蹴りを繰り出し、それを両手で龍司が受け止める。鈍い音が聞こえた気がしたがどちらも平気そうだ。

 「おお怖い怖い」
 「……っ、」
 「よっ‥と!」

 あぁ技が上手く決まらなくて心底ストレスが溜まっている顔をしているなぁ‥

 「今は球とか関係なくあなたに一発入れられればそれでいいです」
 「まぁまぁそうカリカリすんなよぉ」
 
 龍司が右手を宮司の球めがけて振り上げる。
 「一個もーらいっ」
 「はぁ?寝言は寝てから言ってくださいよ」
 心底小ばかにしたような声でその右手をいなした。

 「‥やっぱり一筋縄ではいかないか」
 「どれだけ一緒にいたと思っているのですか」

 同じセリフを、口ずさむ。


 「……お?」
 龍司がかすかな違和感に気づく。龍司の目線に目をやると足元から徐々にツタのようなものが巻き付いていた。

 「おおー」
 ツタが体の半分ほどを覆い龍司が感嘆の声を漏らす。その一瞬で宮司は目の前まで迫っていた。

 「―――っ、」

 バシッ――!

 わずかに自由がきいた左手で宮司の手を止め、そのまま下へ叩き潰した。

 「グッ―――」
 予想外だったのか肺から空気が無理矢理出されそのまま突っ伏す。その拍子で宮司の球の一つが割れていた。

 「……クッ、ソ兄貴……!!!」
 絞り出すような声で叫ぶが龍司にはまるで通じない。
 「お前も口が悪くなることなんざ久しぶりに聞いた」
 けらけらと笑う龍司をよそにフーとゆっくり息を吐いて整えていた。

 「詰めが甘いんだよ」
 「―――それは‥っ」

 パリン―――ッ

 「そっくりそのまま返しますよ、兄さん――!」

 
宮司が右手をあげ素早く龍司の両手をツタで縛り地面に縛り付けた。そして手首を軽く曲げると黒い刃物のようなものが地面から浮かび上がり龍司の球の一つを破壊した。


「ほう。油断した」
なんていう龍司の顔は少し嬉しそうで。

自分の球が相変わらず誰かに狙われているかもしれないというのに思わず見入ってしまってあわてて自分の現状を思い出した。


◇◇◇


「いやはや。久しぶりに面白いものがみれた」

 あの兄弟が仲良く喧嘩している間に屋敷の中へ避難した俺はさて、と思考を巡らせる。あのままあそこにいたらいずれ俺も巻きもまれるやもしれん。あの魔族どものやり取りは見ていて飽きないが今はそう悠長なことは言ってはおれないな。

「……ほう」
 室内では感じるはずのない風を感じて立ち止まる。二人で来るとはなんともまぁ、あいつららしいではないか。
「日ごろの恨みつらみをここではたすのにはちょうどいい機会だと思うのミラ」
「それはルカだけだと思うけど‥」
「おやおやこれはこれは」
 思わず口角が上がる。では俺はこの侍女たちと仲良く喧嘩でもしようではないか。

「お手柔らかにな――」 
 すべて言い終わる前に黒い影が鋭く伸びる。ああこれはきっと、

 「無理」

 ゆっくり俺を見るミラの目が鋭く光る。
 「絶対一泡吹かせてやる!」
 ルカも同じくやる気に満ちている。両手をかざすと俺の足元に魔法陣が浮かび上がった。昔に比べると少しは腕を上げたようだ。
 「だがまぁこの程度では」
 
 なんの腹の足しにもなりはしないな。

 「チッ」
 盛大な舌打ちが聞こえてくる。近くにあった調度品にひらりと乗るとそれに傷はつけられないのか一瞬二人の動きが止まった。
 「遅い」

 これまた近くにあった飾ってある剣を拝借しルカとミラの球体を割る。

 「――っ、」
 「うわっ」
 ああ。愉快だ。思わず笑みがこぼれてしまう。

 「――っと、」

 ふと、自分の回りを回っている球体の個数が一つ足りないことに気づく。

 「――ほう、なるほど」
 目線の先にはにやりと笑うミラ。
 「自分の回りにも球がついていること、忘れないでね」
 彼女の手から放たれた鋭い影が俺の球体を壊していた。―あぁ、忘れていたよ。球体の事も、お前たちが思ったより楽しめる相手だってことも。

 「作戦を立て直そう」
 「えっ!?うわっ!」

 そういってルカを引っ張ると自らの影を大きく広げその中へ吸い込まれるように消えていった。

 「――もう少しは楽しめそうだなぁ?」
 なんて、中々に楽しんでいる自分に気づきながらゆっくりと歩みを進めた。