コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.63 )
日時: 2020/11/17 01:06
名前: 猫まんまステーキ (ID: vk7qW9BI)



 カキン――――ッ!!!

 心地よい金属の音が響く。先ほどとは打って変わって真剣な、それでいて少し楽しそうに笑う勇者と目が合った。
 「――なんだ、お前とはまだまだ先だと思っていたんだがなっ―!!」
 「生憎、まだ球は残っておりまして。ほら、こうやって――」
 
 勇者の攻撃をかわし、その腕をつかむ。
 「戯言をいっていると誤ってすべての球を壊しかねません」
 「‥ほざけ」
 
 またお互い距離を取り様子を伺う。
 先ほどの様子からするにルカとミラは相変わらず共闘を選んだか‥これは想定内だ。

 (問題は‥)
 まさか勇者も一時的とはいえその中に入っていたとは。


 (これは予想外でした)
 「考え事をしている余裕があるみたいだな」
 
 相変わらず接近戦で攻めてくる勇者をかわし、魔法を発動する。
 「ええ、まあそうですね。相変わらず動きが単純だなと思っていました」
 「なっ‥!?」

 勇者の顔に青筋が浮かび上がってきそうだ。勢いに任せて魔法で剣を作り俺の方へはなっていく。
 「おや、図星だからと言ってそこまで怒らなくてもいいじゃないですか」
 「だっれが!!単純単調脳筋馬鹿だっ!」
 「そこまでは言っていませんよ」

 本当に兄さんといい勇者といい何故こうも単細胞ばかりがいるのか‥
 (本当に、)


 おもしろくて、騒がしくなりましたね、この屋敷も。


 ガチャン――――!!!



 俺の球と、勇者の球が壊れるのは、同時だった。
 勇者が剣を放った時にできた隙を狙って球を壊そうとしたらどうやら俺にも隙ができてしまっていたようで。至近距離まで来た勇者とまた目が合う。ああ、案外綺麗な目をしているのですね。

 「考え事ばかりしていると隙ができるぞ。こんな風にな」
 「――ええ、覚えておきます」


 素早くまた距離を取ったかと思えば一目散に勇者は逃げていった。
 「体制を整えなおしに行ったか、あるいは――」
 「なかなか面白いものを見せてもらった」
 「……チッ」

 声が聞こえた方に反射して魔法を発動する。そんなのでは相手はくたばらないことは分かってはいるが。

 「おお相変わらず血気盛んだねぇ。二人の時間を邪魔したことを怒っておられるようで」
 「その白々しい話し方をやめたらどうです?」
 「なぁ宮司。お前、勇者のこと、好――――」
 「何か?」
 「‥おお、怖い」


 手をひらひらさせて俺に近づいてくる様子を見る限りあまり怖いと思っていないだろうこの神は。

 「でも気をつけた方がいい」
 静かに話す穂積の顔はなぜか迫力があって。思わずたじろぎそうになる。
 「あまり深入りはしない方が貴殿のためだと思うが」
 わざとらしく丁寧に話す穂積に思わず手をあげてしまいそうだ。
 「今ではかろうじてどちらも絆されて良好な関係が築けている――が、そこに恋心が入ると『もしも』のときにそれが邪魔をする」
 昔からこいつのすべてを見透かしたような物言いが嫌いだ。
 「ま、俺はそんな二人も見てみたいとは思う。もしかしたら、なんてこともあるかもしれないしな」
 先ほどから核心を突かない言い方につい攻撃する手に力がこもる。
 「いずれにせよ、中途半端はどちらのためにもならんぞ」
 「……うるさいですね」

 
 「お前が、勇者のことを好いているのなら、覚悟をしたほうがいい―――」

 パリン―――!!!!


 穂積の球が割れる。続きを聞くことはなかった。

 「……いつからそんなにおせっかいになったのですか?」
 「……」
 ああ、俺も対外人の事なんて言えないですね。
 
 「俺も、あいつに絆されてしまったのやもしれん」
 クツクツと穂積は笑う。
 「いやあ愉快、愉快」
 球が全部なくなって負けたというのに全然悔しそうな顔一つしない。

 「さて。負けたものはおとなしく観覧でもするとしようじゃないか」
 この戦いに飽きたのかあるいは俺との話に飽きたのか、もしくはその両方か。穂積は満足そうに笑いながら俺の前から姿を消した。

 

 まったく、自由奔放な神が周りにいると厄介だ。


◇◇◇


 「まったく!何が単純単調脳筋馬鹿愚鈍だ!!言い過ぎにもほどがあるだろう!」
 イライラしながら再び屋敷の城の中をうろつく。さっき宮司とやりあった時にちらりと穂積の姿がみえた。こちら側に参加するわけでもなくただ見ているだけだったが何か含みがあるような笑いに少し怖くなった‥わけではないが。決して。ここは一度体制を立て直そうと思って一度宮司のもとから離れた。

 「でも相変わらず何を考えているのかわからない‥」
 「あら?何の話かしら?」
「うわぁあ!?」
 突然後ろから声が聞こえて反射的に距離を取る。
 「……千代さんか」
 「ふふ。随分疲れているように見えるけれど‥何戦か終えた後かしら?」
 余裕そうに話す千代さんの回りにはまだ球が三つふわふわと浮いていた。  
 「‥千代さんはまだ誰とも戦っていないのか?」
 「ええ。運がいいのか悪いのか。私もちょっとは体を動かしたいと思っているのだけれど――」
 そういいながら手に持っていた薙刀のようなものを振り回した。
 「だから勇者ちゃん、ちょうどよかった」
 
 にこりと笑う千代さんの角についていた鈴がチリンと鳴る。ああ、今ほどその鈴の音が怖いと思ったことはないよ。