コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.64 )
日時: 2020/10/05 01:47
名前: 猫まんまステーキ (ID: Z6SnwTyI)




 「魔王様のことは大好きです。本当にお慕いしております。だけど――」
 「今日ばかりは球を取るつもりで本気で行かせてもらいます!!」

 久しぶりの殺気に似たような感覚に興奮を抑える。
 そうだよなぁ、お前たちはいつも俺に対して本気で挑むことが俺への誠実さだと信じて疑わない。そういうところがたまらなく好きだ。



 Episode17『勝負の行方と宵の秘め事』


 ルカとミラはいつも二人で一つみたいなものだった。仕事をするのにも二人で分担。出かけるのにも二人で。そして、


「―――強くなったな。お前ら」


戦うスタイルも。


二人の球はそれぞれあと一つ。時間からみてももうそろそろ終わりが近づいている頃か。若干の寂しさを感じながらも二人の攻撃をかわす。

「おらおらどうした!そんなんじゃ俺の球は壊せねぇぞ!もっと殺す気でこいよ!」
 自分でも楽しんでいるのが分かる。まだ俺にどこか遠慮しているところがみえみえなんだよ。


「――――っ、」
「ハァッ―!」

一瞬のためらいが命取りになる。そう教えたこともあったっけな。
だけどこいつらには‥こいつらだけじゃない。ここにいる奴らにはそんなことを教えなくてもいいような世界を与えてやりたい。

 (なんて――)
 柄にもなくそんなことを考えていると右側から鋭い影が伸びてくる。

 「―――やはり龍司様は強いです」
 「ありがとな」
 影をよけてはまた次の影が絶え間なく襲ってくる。その間にもルカの体術が絶え間なく続いて一瞬でも気を抜くと本当にやられそうだ。


 「……っ!」
 ルカの蹴りに気を取られている隙にミラからの影が伸び腕をからめとった。
 「もらった!」
 思うように身動きができずルカの技をよけるので精一杯の俺をよそに複数に伸びた影が俺の球を一つかすめ、割れた。


 「‥おお!」
 素直に感心。昔は俺に傷一つ、向かってくることすらできなかったのにな。それだけ、長くいたということか。

 ルカが喜んでいる隙に空いている手で魔法陣を出しルカの方に防御壁をつくる。そして光の矢でミラの影を切り裂き残っている球をわると二人が声をあげた。

 「うわぁあああああ!!!!?」
 「やられっぱなしじゃ俺も性に合わないからな!」
 ルカががっくりとうなだれミラは「あの時もっとこうしてけば‥」と反省会をしていた。

 「やっぱ龍司様は強いです‥まだまだ私達では全然歯が立たないです‥」
 「でも久しぶりにこうして手合わせができて楽しかったです」 
  
 どこか二人の顔はスッキリしている。

 「‥俺もだ」

 そういって二人の頭をなでると嬉しそうに笑った。



 ◇◇◇



 「そーれっ!」
 ぶんぶんと薙刀を振り回す千代さんに思うように近づけなかった。動きは龍司達ほど早くはないが長さがある分やっかいだ。


 「そういえば勇者ちゃんっ、はー!これに勝ったら皆に何をお願いするのー?」
 適当に振り回しているようでしっかりとあたしの球を狙っている。
 「‥、そこまであまり考えてはいなかった。千代さんこそっ!何かあるのか?」
 「あるわよー?」

 なんとも間延びした声で答える。


 「私はね、皆とお菓子作りがしたいわぁ」
 「――お菓子作り?」
 「そう」

 少しずつ剣で相手をしながらも話を聞いていく。

 「私、お料理するのは割と好きだけど、皆でやるのはもっと好き。だから皆でお菓子作りをしたいなぁ」

 そう話す千代さんはどこか嬉しそうで。

 「私はこの生活が大好き。ここの皆が大好き。もちろん、今では勇者ちゃんも大好きよ。だからそんな大好きな場所で大好きな人たちと大好きなことをやったら、それはきっと、本当に幸せなことじゃないかしら?」

 少し疲れたのか、薙刀を下ろす手が止まった。

 「そうやって、幸せな思い出を作っていきたいの」

 鈴が少し鳴った、気がした。


 「ああでも」

 さすがは鬼の血がはいっているというだけある。少し話しているだけでもう体力がかいふくしたようだ。

 「だからといって勇者ちゃんには手を抜いてほしくない、かも」

 先ほどとは思えない素早い動きで薙刀はあたしの喉数センチのところまできていた。
 ヒュ、と息が鳴る。さっきまでそんな動きは、してなかった、のに、


 「私ももっと勇者ちゃんの本気がみたいなぁ」
 覗き込むようにして笑う千代さんの顔は不覚にも綺麗だと思ってしまって、今が勝負の場でなければもう少しこのまま見てしまいたいと、同性のあたしでも思うほどに魅力的に映った。


 「‥前から思っていたけど、千代さんって、綺麗な顔してるんだね」
 「ふふ、ありがとう」
 薙刀が顔から離れていく。それまで時が止まったかのようにあたしの体は動かなかった。
 「私、皆みたいに魔法はうまく使えないけど、これなら少しは得意なの」
 「うん、いまので十分わかったよ」

 再び剣を構えて小さく魔法を唱える。自分の素早さをあげ、一気に千代さんのもとへ畳みかけた。


 「ハァッ!!!」
 鈍い音が響く。いや、押し返す力もなかなか強いのかよ―――!

 距離を取り、小さな魔方陣をいくつも作っては千代さんの球を狙ってはなっていく。どれか一つでも割ることができれば――、

 「これはちょっと骨が折れるわね」
 とめどなく出てくる攻撃に薙刀で跳ね返しているようだった。

 「――その隙があれば十分」
 「え?」


 パリン―――!


 魔法を避けるのに精いっぱいであたしが近づいてきたことに気づかなかったようだった。近づき剣で何とか球をかすめるといとも簡単に割れる。

 「やっぱりすごいわ、勇者ちゃん」
 純粋にあたしを尊敬するようなまなざし。いや、それよりも―――


 (体力を回復させないとまずい―!!)

 くるりと千代さんから背を向け、走り出す。

 千代さんをまくことができて尚且つ体力が回復できるところを探さなければ!!