コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.71 )
日時: 2021/05/10 00:11
名前: 猫まんまステーキ (ID: vk7qW9BI)

 「ぐっ‥うううううおもいいいいい」
 ほぼ全体重を乗せられた肩とほんのり感じる熱を感じながら宮司を部屋へ連れていく。
 「す‥こしは自分で歩くという努力をしないか!」
 「ゆうしゃはやさしいですね」
 「全っ然聞いてないな!!」

 ダメだ、声を張り上げてこちらまで酔いが回りそうだ。
 なんとかたどり着いた宮司の部屋に一安心しつつ体を使って扉を開ける。

 「水はどこにあるんだ‥」
 「お酒‥」
 「お前がもう終わりにしようっていったんだろう!水だよ!!み、ず!」
 「ああ……つくえの‥」 
 「机?」

 視線を机にやると確かにボトルに入った水があった。だがこのまま宮司を連れてそちらにいくことは難しい。というよりあたしの肩がダメになる。
 「とりあえず宮司をどこかへおかないと……ソファ‥はダメだな、体が痛くなりそうだ。あ!!!そうだ!ベッド!ベッドの方がいい!!そうだ宮司ベッドへいこう!!!」
 「おや、だいたんですね――‥俺はべつにそれでもかまいませんが」
 「なななななにを言ってるんだ!!!馬鹿!ただお前を寝かせるため、――うわあ!?」
 ベッドの近くまで行き宮司を下ろそうとする反動で態勢を崩してしまう。

 
 「っ、宮司」


 シーツに沈む二人の体
 ほんのり香る酒の匂い
 相変わらず部屋に響く雨の音
 そして、



 「……ひ、」 

 なんとも情けない声が出てしまった。ああ、前にもこんなこと、あった気がする。


 「――‥別にとって食いやしませんよ」
 耳元、まって、そんな近くでしゃべらないで、


 「いや、あの、だって、宮司、まって、」
 「待つ、って、なにをですか?」

 宮司の顔が正面に来る。あたしの体と宮司の両手だけがシーツに沈んだままで。


 「……ああ、やはりあなたって案外、きれいな目をしているのですね」
 なんて、少しかすれた声で囁く。


 「……案外は余計だ」
 つい精一杯の虚勢をはいた。だがそれすらも効果なしと宮司は笑う。
 「それはしつれいしました。‥ですがあの日からずっとおもっていたのですよ。あのときみんなでやったゲーム、のときから‥」
 「……」

 困惑するあたしをみて宮司は少し悲しそうな顔をした。
 「――なぜ、」
 「え?」
 「なぜ、おれが……」
 「何?宮司、」

 雨音が強くなって宮司の声が上手く聞き取れない。


 「なぜ、こんなにも、おれ、ばかり、おれだけが‥」
 「ちょっと、宮―――」
 「―――しているのですか、」

 
 あたしの肩口に顔をうずめる。奴の髪の毛が首筋に当たってくすぐったい。

 「っ、ぐう、」
 「           」


 ああ、なんだ。聞こえない。

 シーツのせいでくぐもる宮司の声と、勢いを増す雨音。

 なんだか大事なことを言っていた、気がするのに。

 「なあ、宮司もう一度、」
 「……すぅ‥」 
 「えっ!?嘘!?ここで寝るのか!?」



 続きを聞こうとして宮司をゆすると寝息が聞こえた。おいお前はこの状況で寝るのか‥!?



 「…………はぁ」

 長い溜息をつきしばらくは動けそうにない体をまるで他人事のように感じながらシーツに全体重を預けた。


 「(朝起きて宮司がこの状況を見る前にここから抜け出さないとなぁ……ああでも、さっきはびっくりした。ドキドキしたけど宮司もあんな冗談を言うんだ……言えるほど仲良くなったって思ってもいいのかな、)」

 宮司の腕の中でぐるぐると考える。ああ、シーツの冷たさが心地いい。

 「(あ‥かなり酔いが回ってきた、気がする‥寝てる宮司見てたらあたしまで眠くなってきたなぁ……朝宮司見たらびっくりするだろうなぁ‥なんて、説明‥しよう‥)」

 徐々に思考が停止してくる。この腕をほどくのは起きてからにしよう。

 目を瞑ると抗うことのできない睡魔がなんだか気持ち良くて。そのまま意識を手放すことにしたのだった。




 ◇◇◇



 「………やってしまった‥」


 まだ日が出きっていない時間。少し肌寒さを感じ身をよじろうとすると明らかに自分のではない寝息が傍で聞こえてきた。そういえば昨日は勇者と飲んでいたはず。いつ自室のベッドへ向かったのかと記憶をさかのぼる。―――さかのぼって、その寝息の正体に一つの心当たり。恐る恐る隣を見るとやはりそこに寝ていたのはまぎれもなく勇者本人で。


 「……はぁ、」
 そして冒頭に戻る。酔っても記憶がなくならないタイプというのが幸か不幸かと言われれば間違いなく今この状況では不幸といえるだろう。
 「(酔った勢いとはいえ、あれは完全に――)」
 思い出して消え入りたくなってしまう。子供じみた嫉妬をして勇者に大変迷惑を掛けてしまった。

 靄がかかるような記憶をたどり、そして勇者の衣服が“乱れていない”ことを確認し、“最も恐れていたこと”は回避できていると確認して胸をなでおろす。



――「   おれもあなたのなかにいさせてください   」


 自分の意識がなくなる直前、思わず口から出てしまった言葉。
 「(―――‥あれはもう言い逃れができないのでは‥?)」


 なぜ自分でもあのような言葉が出たのかわからない。勇者が前の仲間の話をするのが少し気に食わなくて。思わず見栄を張るように、気にも留めないようにお酒を流し込んだのがいけなかった。普段なら酔わないはずの量であんなにも酔いが回ってしまった。


 「ん‥すぅ……」
 「……まったく。こちらがこんなに焦っているのに、のんきですね」
 気持ちよさそうに隣で寝ている勇者の顔を見ると少しだけどうでもよくなって。思わず笑ってしまう。

 彼女が起きたらどうしましょうか。とりあえずこのようなことになったことへの謝罪と、お礼と。その後は彼女の反応次第としましょうか。

 そういえば結局水を飲んでいなかったことに気づき水を取りに行く。――ついでに少し寒そうにしていた勇者を起こさないように傍に合った羽織を掛けておく。ああ、このようなものしかないのも申し訳ないので今度手ごろそうなタオルケットでも用意しておきましょうか。

 なんて、まるで次があるかのような考え方をしていたことに驚き呆れつつ勇者が起き上がるのを待つことにした。







 「おやおや宮司殿。昨晩はずいぶんと楽しそうだったじゃぁないか」
――‥扉を開けると待ってました、と言わんばかりのタイミングの良さで現れた趣味の悪い神にいら立ちを覚えたのはまた別の機会に話しましょう。