コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.81 )
- 日時: 2021/08/18 23:39
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: aDg7zUCy)
この街では古くからの風習で故人を弔う際に焼いた灰を空へまくという。
無事天へ行けますように。また巡り巡って幸せになるために生まれてこれますように。
そんな想いを込めて空へまき、残った骨を埋めて故人の幸せを願うのだ。
では今まかれている灰のどれかは、アンナの一部だったものもあるのだろうか。――なんてことをベンチに座りながらぼんやりとみていた。
まるで本の中の世界のようだ。実感がわかなくてこの感情さえもどこか他人事のように感じてしまう。
違和感は、あった。
以前あった時に体調が悪そうだった。本人は寝不足気味だと話していたけど、よろけた拍子に見えた足元に赤いあざがあった。
思えばおかしい所なんて、いくらでもあった。
でもすべて「気のせいだ」となんでもないフリをして、見えないフリをして笑っていた。
「わかってはいたんだ」
ぽつりと穂積がつぶやいた。
「未来が、あまりよくないということも、あの友が……アンナの死期が近づいているということも、はしくれと言えどこれでも神だ。なんとなくは気づいていたさ」
自虐的に笑う。
「浮かれていたんだ。かつての友にまた会えた。向こうは俺の事に気づいていない、知らない、それでもよかったんだ。期待もしていた。何度も会えばもしかしたら、何かのきっかけで断片的にでも思い出すかもしれない。――まぁ結局はむなしく終わったのだけれどな」
淡々と、放つ言葉はゆっくりと地面に落ちていくようだった。
「……願っていなかったわけではなかった。――願わくば、いつまでも。この営みも、騒がしい連中も、もう一度会えた『友』も、みんな。共に笑って幸せに生きてみたいと思ってしまっていた。愛おしいと思ってしまっていた」
――まったく、これだけ生きているとなにが起こるかわからんな。
そう言った穂積は力なく笑った後ちらりとあたしを見た。
「――まるで俺の分まで泣いているようだな、勇者」
「……うるさい」
遠く、空に舞う灰を見ている穂積がひどく泣きそうな顔をしていたから。
そう心の中で言い訳をするたびに収まってきた涙がまたあふれて出てきた。
それでもこいつが泣かないのはあたしがいるからなのか、神としての矜持があるからなのか、何かは分からなかったけれど。
「……本当に勇者殿はなんともまぁお優しくてお人よしだ」
「それ褒めていないだろう」
「褒めてるさ…………ありがとう」
人間よりも長く、長く生きているこいつには、きっと何度も大切な人との別れを経験して
悲しんで、悔やんで、涙を流して、そうして気持ちにけじめをつけて前を向いてきたのだろう。
「正直に話すとな、諦めてはいるけどやはり何度経験してもつらいものだと思う」
ポツリとこぼしてくれたのはきっと、穂積の本音。
「……今はどの言葉を紡いでも無粋だ。陳腐だ。月並みな表現しか出てこないな」
そういうとゆっくりと立ち上がり数歩前を歩いた。そして何かを決心したようにこちらに向き直った。
「――勇者よ、いずれお前は選択を迫られる時がくる。それも大きな選択を、だ。これからもたくさんの別れがあり、沢山の物を諦めなければならない。
そうなったときでも、お前は、お前のなかにある正しさや正義を貫かなければならん。
それがどのような結末になっても」
気付けば涙は乾いていて。この先どうなるのか、あたしに今何が起きているのかもきっとお見通しのその神はやはりただまっすぐあたしを見ていた。
「……それで。先ほどからこちらに突き刺さる視線がいたくうるさい。勇者、お前の客人だろう」
そう言いながら穂積は少し顔をゆがませ目線だけを奥へやる。先ほどから痛いほど突き刺さる視線は少し前から感じていたものだ。
「シュナ」
ぞくり、とした。聞き覚えのある声。だけどそれはアカリの声ではない。
「…………リリィ?」
しっかりとした、芯のある声。
まっすぐとこちらをみていたのはかつて同じパーティにいた仲間だった。