コメディ・ライト小説(新)
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.88 )
- 日時: 2021/10/16 23:59
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: aDg7zUCy)
かつての仲間の名前を呼んだ。
今のあたしはどれだけひどい顔をしているだろう。
Episode26 『パーティ』
「……シュナ」
「リリィ……」
アカリと会ったからもしかしたら、と思っていた。アカリの事だから、もしかしたら、村に戻ってあたしのかつてのパーティに話すかも、なんて。考えていたはずなのに。
「……おどろいた。本当にここにいたのね。アカリの言ったとおりだわ」
「‥いつからここにいたんだ?」
「着いたのは二日前。シュナがここにいるってアカリから聞いたの。信じて探してよかったわ」
「……」
「ラオたちもいるの」
「……ラオたちも?」
懐かしい名前に思わず顔が上がる。
「アカリが言っていた。シュナは魔王たちに操られているんだって。ねぇ、本当にシュナは操られているの?魔王と一緒に暮らしているの?それともどこか別のところに住んでいるの?」
大きな目が不安げに揺れる。彼女は昔から言いたいことをはっきりというタイプだったなと頭のなかでぼんやりと考えていた。
「……あのときは、本当に申し訳なかったって思っている。シュナを置いて行ってしまったことも、裏切るような形になってしまったことも、全部。――だからもう一度、」
「リリィ」
最後までその言葉を聞くことができなかった。
「……もう、あたし、できない」
ごめんね、と小さく呟くように出た言葉は果たして彼女に届いただろうか。元から大きな目がさらに大きく見開かれていく。
「……なんで?どうして?確かに今更またパーティを組んで立ち向かおうなんてシュナからしたら都合がよすぎる話かもしれない。でももともとリリィたち四人で始めた旅じゃない。シュナがいない間、リリィたちすごく強くなったんだよ?転移魔法も覚えたの。まだ完璧ではないけれど、昔よりも随分はやくこの街に来ることができた。だから――、」
「違うの、リリィ」
彼女の声量に合わせて語気が強くなっていく。
「あたしがもうあいつらと、戦いたくないんだ」
「……どういうこと?」
リリィの顔が曇っていく。
「魔王たちに弱みでも握られているの?絆されてしまったの?それとも何か、ねぇ、他に理由があるの?戦えない理由が」
「……あるよ」
たくさん、ある。
「わかろうとしないで勝手に決めつけて、そういうのはやめようと思ったんだ。あいつらはそんなことをするやつらじゃない」
「シュナ……」
悲しそうなリリィの顔。そんな顔をしないでくれ。
「―――それで、さっきから近くで見てるこいつは誰?」
瞬時に切り替わり冷たい声をあげる。後ろにいた穂積へ向けたものだった。
「……先ほどから無礼な人間だな」
「穂積‥っ!」
「ちょっと、勝手にリリィ達の中に入ってこないでよ」
「貴様が先に触れてきたのだろう」
「はあ?」
「ちょっ‥ちょっと!穂積!‥リリィも!」
「というか、変な感じがする……そもそもこいつは人……?」
ああ、まずい。
「ねえまさか、」
「―――‥っ、」
思わず穂積の手を取り逃げ出す。
「シュナっ!!!!!」
リリィの声がどんどん遠くなる。遠くで聞こえる。
いけないことをしてしまった。これは一番やってはいけないことだった。
すぐにその場で違うと。こいつは、あいつらは違うと、弁明でもすればよかったんだ。
「おい待て勇者っ!」
珍しく動揺している穂積の声が後ろで聞こえた。わかっている。でもとにかく今は必死なんだ、許してほしい。
しばらくしてどこか諦めたように穂積が静かになった。そしてもう一度「勇者」とだけつぶやいた。そうだ、あたしは勇者だった。
「…………ごめん」
「――今のはお前もわかっているな」
「あたし、どうしよう‥一番やってはいけないことをやっちゃった」
穂積に話すたび、のどの奥から何かがつっかえてあふれ出そうになるのをぐっとこらえる。
「わかった、わかったから、そんな顔をするな」
「……っ」
今の自分がどれほどひどい顔をしているのか、見なくてもわかってしまう。
「……帰ろう。きっと今頃奴らが心配しているはずだ」
そういってどちらからでもなく歩き出した。
ごめん、ごめんなさい。
何度も何度も謝る。
きっとこの先起こるであろう出来事も、壊れていく日常も、すべて自分がまいてしまった種なんだと、歩くたびに自覚して脳内にこびりついていった。