コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.92 )
日時: 2021/12/27 00:29
名前: 猫まんまステーキ (ID: tBS4CIHc)




 ◆◆◆

 「……随分物騒な言い方じゃあないか。久しぶりに役職を全うしたな、魔王殿」
 「――今そんな呼び方をするのは嫌味か」
 「はは、だいぶいら立っているようだ」
 「喧嘩なら受けて立つが」
 「まぁそう言うなよ」
 「……荷物が1つにまとめてあった」
 「……そうか」
 「迷いはあったがたった数カ月俺らと過ごした時間より、数年共に過ごした“同じ種族”の仲間とのほうが絆は強固たるものだろうな。時期にここを出ていく」
 「……」


 「ああ、あいつが“こちら側”を選んでくれたら、どれほど良いか」


 「――それで?お前はなぜここにいる?宮司よ」
 「……たまたまそばを通りかかったら偶然聞こえて」
 「盗み聞きとはお前も趣味が悪い」
 「まったくだ宮司。俺が勇者と話している時にお前は穂積と扉の後ろで聞いていたのか」
 「何とでも言ってください」
 「それで?お前はどうする?」
 「どう、とは?」
 「もしあいつが人間側についたとして、お前は戦えるのか」
 「……」
 「お前も覚悟をしろよ。宮司」



 ◇◇◇






 「寒いままの部屋でしゃがみ込んで‥そんなところにずっといては風邪をひきますよ」
 
 静かに入ってくる声。顔を見なくても誰なのかわかった。


 「まったく。いつもの威勢のよさはどうしたんですか」
 「……うるさい」
 「ハハ、言い返せる元気はまだあるみたいですね」
 そういって同じように宮司もしゃがみこんでくれる。
 いつだって、ダメになっている時宮司が傍にいてくれた。


 気づいたら宮司が傍にいるのが当たり前になった。


 なんでもお見通しなくせに、何もわからないといった顔をする。
 何も知らないととぼけたように話す。


 「――ねえ、勇者。こんな世界、一緒に逃げませんか?俺たちも、勇者も、何もわかってくれない世界なんていりませんよ。ね、逃げて、何もかも無かったことにして、兄さんや千代さん、ルカやミラ……穂積も入れてあげましょう。7人で、ずっと。騒がしいと思いますがきっと毎日新鮮で、楽しくて、飽きることなんてありませんよ」

 優しい声で、まるで何でもないように話す。ああ、そうだ。すべて放り出して逃げてしまえば、きっと、


 (でも――、)


 でも、と口を開こうとしてはまた閉じで。魚のようで滑稽だ。そんなあたしの姿をみて困ったように宮司は笑う。


 「……冗談ですよ、勇者。あなたはどこまでいっても、どのような未来になっても、勇者なのですね。だから、そんな顔しないでください」

 本当はきっと分かっていた。あたしも宮司も。
 お互いそんな選択は選ばないと。きっとわかっていて、それでもなおその言葉を紡いでいくのだ。

 その優しさがわかってしまうから、余計につらくて、心臓がゆるゆると締め付けられるように痛く、思わずうつむいてしまう。

 
 「……あたし、どっちも大切だ」
 「‥はい」
 「あいつらを……昔のパーティの奴らを裏切って、お前たちのところにはいけない」
 「……はい」
 「龍司にはどちらを選ぶかは自分で考えろって言われた。そうだよな、当たり前だよな」
 「……」
 「だからあたしは、最後まで自分で考えるよ。たとえそれがどんな結末になっても」
 


――「勇者よ、いずれお前は選択を迫られる時がくる。それも大きな選択を、だ。これからもたくさんの別れがあり、沢山の物を諦めなければならない。
 そうなったときでも、お前は、お前のなかにある正しさや正義を貫かなければならん。


 それがどのような結末になっても」


 ふと、以前穂積に言われた言葉を思い出す。


 (ああそうか。それが“今”なんだ)

 ゆっくりと、穂積の言葉を頭の中で咀嚼して、呑み込んで、理解する。


 そして決めなければならない。


 “どちら”を選ぶか。




 何を選ぶのか。