コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.95 )
日時: 2022/04/15 20:40
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)





 「時間稼ぎとは何だったんですか!?」 
 「何も『城が全く壊れない』とは言ってない。あくまでもまじない程度の加護だあまり期待するな。それに本来ならあの攻撃を受けてこれだけしか壊れていないというだけありがたいと思え」
 「物は言いようだな……」
 「予想以上に厄介だがまぁ――



 あちらさまには少々“城内を見て回って”頂こうではないか」


 含みを込めたような物言いに少しは信用してもいいかと安堵する。相変わらず抽象的な言い方をするものだ。
 外を見るともう人間たちは城の中に入っていったようで一人勇者がそこに取り残されていた。

 「いつまでも愛しき勇者を見ていたところで状況は変わらんぞ?」
 こんな時でも減らず口をたたく穂積にイラつきを覚えながら振り返るとたしかに兄貴たちはいなかった。

 「……いつまでもうるさいな」
 「このような状況になっても勇者の心配をするのは同じだ」
 「……」
 「そうしてこのままじっとしてるのか?」
 「まさか」
 ゆっくりと息を吸ってはいて。最後にもう一度勇者の姿を見た。




 「あの人があそこまでしていたのに俺が何もしないなんて選択肢はありませんよ」


 ◇◇◇


 「――こねぇな。誰も。何も」

 数分前に爆発のような音がしてからどれくらい時間が経ったか。あちら側が素直に門からきてくれるとは思ってはいないが…こうしている間に少しは防御を固められそうだ。
 あの音があってから確かにあの人間たちが入ってきたような気配は感じたがそれだけだ。誰かが、千代が、戦っていたりやられたりといったこともなさそうだ。

 「……少し調子狂うな」
 きっとそれもこれも穂積が先ほどした『まじない』が効いているのだろう。



 「――このまま諦めて帰ってくんねぇかな」
 誰に対して話したわけではなく漏れた言葉はそのまま誰にも聞かれずに終わっていく。
 このまま諦めて、なかったことにして、すべてが終わったら、誰も傷つかなくて済むのにな。
 「(まぁそんな簡単にはいかねぇか)」



 「―――げ、」


 ここの奴らの声ではないものに違和感を感じ振り返る。
 「お。お前はさっき勇者のパーティーにいた眼鏡の奴だな」
 「なんだよやっぱり見ていたのか……というかあんたもしかして……、あーいつもこういう“はずれくじ”ばかり引く」
 眼鏡が深くため息をついた。

 「……あんた、おそらくこの城の中で一番強いですよね‥多分リリィが言ってた魔王とかなんとか」
 「んーまぁそうだな。世間一般でいうこの世界で魔王というのをやっている者だ!」
 あれ?こんなような会話前もどこかでしたような気がすると思い出して思わず笑いそうになる。

 「はぁやっぱり……こういうのは普通ラオみたいな筋肉馬鹿が相手でしょう……」 
 眼鏡がブツブツと何かを言いながらまたため息をつく。どことなく宮司に似てるなこいつ。

 「なぁ眼鏡。お前はやっぱり俺たちを倒しに来たのか?」
 「……ええ、まぁ。あと眼鏡じゃなくてノアです」
 「ノア――ノアか。俺は龍司だ。ノアは何を使うんだ?あいつは‥勇者は剣を使うことが多かったな」
 「弓です。なのでパーティー内では中距離や遠距離から皆をサポートするのが主だったので今回のような作戦は不向きだと自分でも思っています」
 「ハハ、それを俺にいうのか」
 「まぁ、そうですよね。でも事実なので」
 
 そういいながらも戦闘態勢に入ろうとしているノアを見ながら少しだけ防御を施す。
 

 「ですが最近はこのような事態になった時のために近距離戦の練習もしていたんですよ。不本意ですがそれをここで試せそうで良い」
 手に持つのは矢を少し短くしたようなものだった。

 「……お前、面白そうなもの持つんだな」
 「お気に召したようで何より」
 
 そして光が出るのと攻撃が出されたのはほぼ同時だった。
 
 「……少しは話が通じる奴だと思ったんだが」
 「ええ、話しますよ。あなたの身動きを封じてから」
 「人間は臆病なくせに野蛮なやつらばかりだ」
 「‥臆病で結構。そうやって自分の身を守ってきたんですから」
 「……そうかよ」
 

 ふと、勇者の顔が頭をよぎった。
 今この状況をみたら、あいつはどんな顔をするのか。


 「―――なあ、アンタは賢い奴だと、俺は思うんだが」


 そんなの


 「それを見込んで、話をしたいんだ」



 誰も望んじゃいねーと思うんだ。