コメディ・ライト小説(新)

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.97 )
日時: 2022/07/04 01:35
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)





 シュナ、大好きよ。


 たとえあなたが魔物たちに騙されていても、それはずっと変わらない。
 
 だから、


 早く全て終わらせて、一緒にハッピーエンドを迎えようね。




 Episode29『あなたを救うエンディングを』




 城に攻めてからどれくらい時間が経ったか。相変わらず上でも下でも大きな音が響いている。

 「いくら広いとはいえこんなに走り回っていたら誰か一人にでも会わないものかしら」

 先ほどからくまなく探し回り走り回っているつもりだけれどいっこうに誰にも会わない。魔物どころかラオたちにも会わないとなるとまるでこの城には自分一人だけしかいないようだ。


 (おそらく誰かが何かしらの厄介な魔法かまじないか‥を使った奴がいるってことか)



 ラオが声を掛けて景気づけた村人たちがもう来ている頃だろう。状況は?もし戦っているとしたらどちらが優勢だ?場合によってはリリィが加勢してもいい。


 そんなことを考えながらふと窓の方を見るとその村人たちが城から出ていくのが見えた。


 「はあ!!?」



 一瞬人違いかと考えたが、あれは間違いなく数日前にラオが必死になって声高々と激を飛ばし、説得して連れてきた村人で間違いない。


 「まだ終わってないというのに……何しに来たのよ!」

 だからリリィは反対だって言ったのに!!


 「何よ、意気地がないわね‥!」


 やっぱり一般人が来るところではなかった。
 何より、相手は魔物。危険なところに村人を巻き込みたくないとリリィはいったはずだ。それなのにラオは聞く耳を持たずあまつさえ話を聞いてやる気になった村人があれよあれよと準備をするから―――


 (……いや、今はそんなこと考えても仕方ないわ。どうせもともとリリィはあてになんてしてないんだし)


 そう自分に言い聞かせてもう一度場内を見渡す。


 「……あ」


 すると先ほどまで気づかなかったが数メートル先にリリィと同じように窓の外を見ている人がいた。というよりあの格好は―――


 「シュナ!!!!!」


 自分でも驚くほどの声が出た。大股で走っていけばそれに気づいたシュナがひどくびっくりした顔でリリィの事を見ていた。


 シュナ、シュナ。大好きなシュナ。


 リリィがどのパーティーにもなじめずずっと一人だったとき、手を差し伸べてくれた人。



 明るくて、優しくて、素直で、お人よし、少し不器用、ちょっと頑固なところもあって、そして嘘をつくのが下手。
 でもそんなところも大好きな、リリィの勇者。



 「…………リリィ」

 ばつが悪そうにリリィの顔を見る。そんな顔にさせているのは――、そこまで考えて首を振る。


 「ねえ、さっきの村人はなんだったんだ?ラオたち以外にもこの城を攻めてくる人たちがいるってこと?今城から出ていった人たちがいるけどまだこの城に残っている人が‥‥」

 今にも泣きだしそうなシュナがリリィの目を見つめる。でも、


 「ねえシュナ」

 遮るように出た言葉はまるで願いに近かった。


 「――なんでそこまで肩入れしているのかわからないの。だって相手はあの魔物だもの。長年ずっと悪さをして、人びとに影響を与えていたっていう、」
 「その長年っていつの話だ?少なくとも、この数十年間以上は何も起こっていないはずだ。それに流行り病が魔物のせいだというのも証拠はあるのか?」
 「そっ……それはそうだけど……でも皆言ってる。皆が、魔物たちの魔力や力のせいで病が蔓延したって‥それにそんなのは今だけでこれから悪さをする可能性だってあるじゃない」
 「あたしはずっとあいつらを‥リュウジやグウジたちを見てきたけど、とてもそんなことをするようには思えない」
 「そんなの、シュナをだましているだけかもしれないじゃん!」
 「そりゃああたしだって最初はそう思っていた時もあった‥特にグウジなんて人間の事心底嫌っているし、嫌味もいうし、最悪だった――でも今は違うんだ。うまく言えないけど、もう前ほどきっと人間も憎んでいない。それにたとえ最初は嫌っていたとしても、人間に危害を加えるようなことは絶対にしていない」

 
 “何か”を思い出したのか、少し勇者の顔が和らいだ。



 「あいつは……あいつらは、優しくて、少し臆病なだけた‥それは人間も魔物も変わらない」

 きっとここ以外のところではラオたちが戦っているのだろう。けれど今はそれすら気にならないくらいに周りの音なんて聞こえなかった。


 「リリィやここにいる人たちも、グウジたちのことをわかってもらえたらって思うよ」
「―――‥」

 “グウジ”と魔族の名前を呼ぶたびに感じる違和感。


「……ねぇ、シュナ。リリィの勘違いだったらいいんだけど、」




お願い。違うと言って。






「あなた、その魔物に恋をしているの……?」






 リリィ達のハッピーエンドに“それ”はいらない。


 




「……っ、それは―、」
「じゃあ嫌いと、魔族なんて、その男なんて大嫌いだと、今はっきりとこの場で言って」




 とたんに彼女の顔が歪むのが分かる。



 「‥‥‥」



―――シュナ。
明るくて、優しくて、素直で、お人よし、少し不器用、ちょっと頑固なところもあって。





そして


 「―――‥やっぱり、シュナは相変わらず嘘をつくのが下手ね」



 ああ、やっぱりそんなところも大好きよ。





(あなたを助けに行くのがもう少し早かったら、なんてとても都合がよすぎるけれど)


 今目の前で涙を流している彼女を見るのはあまりにも耐えられない。


 
 「‥リリィはシュナに笑っててほしいだけなのに」
 どうして、うまくいかないんだろう。