コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆   祝! 返信100突破! ( No.123 )
日時: 2016/08/12 11:31
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)

6章     42話「救世主」


 次の朝、いつも通りの生活を送るだろうと考えていた。からっと晴れた天気にぎらぎら光る太陽。まだ5月と言うのに汗が滴り落ちる。
 こんな天気の良い日に、誰がこんなことを想像できるだろうか?

 毎日と違う。それを感じたのは学校に着いてからだった。廊下は学生たちのにぎやかな声であふれ、皆仲良く喋っていた。
 しかし、私がその廊下を通ると一瞬皆が黙り込むのだ。そして通り過ぎた後は、ヒソヒソ囁きながら自分を指差す。気分が悪いとしか言いようがない。何かしたっけ? 私は首を傾げながら教室に入った。
 その瞬間理解した。なぜ自分が悪いように見られていたのかを。
 黒板には写真が貼ってあった。私と光聖君、佐藤君が写真の前方に写っていて、後ろに小さくなっちゃんがいる。その横にはこう綴られていた。
 
“1年3組天野空が男子2人を手玉に!? Wデートだったのに友の男を盗った!!”

 太く乱雑な字で。まるで私の心にも乱暴に書き綴るように。私を守ってくれる者は誰もいない。俯いて見て見ないふりをしてる人や、鋭い目つきで睨む人。その中で私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
 楓もいない。光聖君もいない。佐藤君もなっちゃんも……。
 自分のことを庇ってくれる友がここに居ないということを悟った。その途端目頭が熱くなる。酷いよ、こんなの……。私は何もしていないのに……。
 写真はコピーされていて、少なくとも1年のクラスには全部行き渡っているようだった。隠し撮ったみたいだけど、一体誰が? 私に恨みを持つ人なんか、いるだろうか。
 そう思ってはっとする。自分を睨みつけている人は高確率で皆、佐藤君と光聖君のファンクラブの子達。私を恨むっちゃあ当然だけど。いつも両者は敵対しているのに、今日は特別らしい。皆で私を懲らしめようって魂胆か。
 その中の一人、伊集院 琳(いじゅういん りん)が私の前へ歩いてきた。

「ちょっと、2人も盗るってなに? あなた、なつみが光聖君のこと好きだと知って、やったんでしょ。どういうつもり!?」

 思い出した。この子、なっちゃんと仲良しだったっけ。
 なっちゃんの友達に疑われて、大きい声で怒鳴られて。何としてでもこのデマを晴らさなければ……! と私は焦る。光聖君は野球部の助っ人として今週の試合に出るから今は練習してていないが、もう少ししたら来てくれるだろう。なっちゃんもバレー部の朝錬が終わったら……!
 仲間が一刻も早く来てくれることを願い、私は勇気をこめて伊集院 さんを見据え、言った。

「私はなっちゃんの友達。だから光聖君をとるとか、そんなことは一切していないよ。その写真は丁度帰る時に撮ったものだと……。なっちゃんだけ家の方向が違ったから……。だからそんな風に写っちゃっただけ! 信じて……!」

 しかしこちらが必死に抗議したのに、伊集院さんは全く受け入れてくれない。
 ちらっと教室全体を見渡す。まだ自分に味方してくれる子は現れないのだろうか……?
 そんな時、一人だけ皆とは違った子がいることに気がついた。いつも席で本を読んでる、眼鏡をかけた子。五十嵐 葵(いがらし あおい)さん。その子は今日も席で読書していた。周りの状況を全く気にしていないらしい。
 しかし次の瞬間。予想もしなかった出来事が起きた。
 ガタンッ……と急に席を立ち教室全体を見渡した彼女。静粛の中で急に、しかもいつも本ばっか読んでいるその子が立ったので、皆驚いて半歩後ろへ下がった。
 何……?
 私はじっと五十嵐さんに集中する。すると瞳に強い光を宿し、芯のある声で彼女はこう言った。

「皆かっこ悪いよ。3人が一緒にいた写真を撮っただけじゃない。その1人が違うって言うんなら、違うんでしょ。」

 言い終わるや否や何事もなかったように席に着くと、また読書を始める。教室の皆は五十嵐さんの放った言葉を聞いてとりとめのなかった事で騒いだことに気付き、ばつが悪そうに「ごめん……」と呟いた。
 私は無言で、友よりも先にこの状況を救ってくれた彼女を見つめた。