コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆    キャラ人気投票結果発表!! ( No.255 )
日時: 2010/12/29 16:07
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: gWH3Y7K0)

8章     65話「永遠の友の魂に別れを」


 僕はゆっくりと後ろを向いた。
 琉がもうすぐ死ぬ? そんなわけない。そんなことあるはずない。
 でも琉の姿を見たとき僕は悟った。琉はもう助からない。あの女が近くにいたときは随分楽だったみたいだけど、離れるとまた具合が悪くなったようだ。僕はためらいがちに琉のもとへ寄りしゃがんで背中を擦ってやった。少しでも咳が収まりますようにと願いながら。

「ごめんね琉。僕があの女がやったことをできたら楽なのに……。」

 琉はその言葉を聞き、頭を振った。でもその姿は頼りなく説得力の無いものだった。それを見て僕はもっと落ち込み頭を垂れた。
 僕に出来ることは無いのだろうか…――――
 光聖は自分の無力さを呪った。なぜ世界は、僕の好きなように動いてくれない?

「顔を上げて、光聖。」

 琉は優しい声で言った。俯いている僕の頭を慰めるように撫でる。まるで立場が反対だ。そう思いながらも僕はじっとそこに座った。琉の言葉を待って。

「どうせ僕は死ぬ運命なんだ。少し生きる時間が長引いただけなんだよ。」

「え…?」

「僕は2年の頃交通事故に遭ったんだ。でも僕は死んでなんかいなかった。誰かが僕を間一髪で突き飛ばして救ってくれたんだ。…命の恩人は誰だったと思う? ――――――赤の他人だ。」

 琉は苦い顔をして言った。そして今まで我慢していた不満を、捻るところまで捻った水道の水のように勢いよく吐き始めた。

「その男は僕の身代わりになって死んでいったよ! あの日見た光景は今でも夢に出てくる。車に飛び散った血、運転手の醜い顔、男の流した赤黒い――――――」

「やめろ!!」

 僕は咄嗟に琉の口を手で塞いだ。そして噎せた琉を見て慌てて手を放した。
 「そんな話はやめよう。」僕は琉の顔を見ながら言った。琉も正気を取り戻したらしく素直にこくりと頷いて、また語り始めた。

「僕は身代わりになって死んでいった男が憎かった。自分がその男を殺したようだったから。そうやって自責の念にとらわれることになって一年後……僕は重い病気にかかった。」

 琉は心臓のある部分を両手でおさえ、眉を寄せた。僕は琉の両手が重なっている場所をじっと見つめた。
 この幼い少年の心臓は、今も苦痛に呻いているのだろうか。

「今もこの心臓はキリキリと痛い。でも僕を余命宣告から3年半も生かしてくれたんだ。もうこの世に悔いはない。さぁ光聖、行って――――?」

「嫌だよ!!」

 僕は咄嗟に叫び、ばつが悪い顔をしながら俯いた。
 あいつらの正体なんて、僕が何なのかなんて、どうでもいい。琉を守りたい。生かしてあげたい。それができたら、僕は一生地球で過ごすことになっても構わない。
 でも僕の心を読んだかのように、琉は言った。

「だめだよ、光聖。彼らと会って自分が何者なのかを知って、あるべきところへ帰って。君はここと住んでる世界が違うんだよ――――?」

 琉の言葉は妙に説得力があった。
 僕だって知ってるさ。僕はここに居るべき存在じゃない。あの女たちを追いかけるべきだって。僕はそう思いながら琉をじっと見つめた。
 整った可愛らしい顔立ち、愛嬌のある漆黒の瞳、そして琉の誇り高き長髪――――――。その一つ一つを目に焼き付けて、僕はゆっくりと頷いた。

「わかった。行くよ……。」

 最後まで琉を悲しませたくないし…ね。
 琉は僕の言葉を聞いて優しく微笑んだ。この笑顔を見れるのは今日が最後なんだ……。そう思うと涙が溢れそうになった。でも先に涙を見せたのは僕ではなく、琉だった。
 笑みを崩さずに琉は泣いた。瞳が潤み廊下の電気が反射してキラッと宝石のように輝きながら涙が流れ落ちた。

「あ……」

 琉は手の甲で涙を拭った。表情からして涙が出るとは本人も予想してなかったようだ。
 あははっと琉は笑った。でも目は全然笑っていない。

「やっぱり口であんなこと言っても心は正直だね。僕…光聖と別れたくなんかない…。だって今までで一番の友達だもの……!」

 またまた流れ落ちる涙を懸命に拭った。一息ついてまた話す。

「今まで…12年生きた中で光聖と過ごした半年が、一番楽しかった……。」

「琉…。」

 僕は琉を抱きしめたい衝動に駆られた。温かくて、心地よくて、安心できて…そんな琉の身体をぎゅっと抱きしめたい。でも…抱きしめたら、琉の体温を感じたら、絶対離れられないに違いない。
 そう思って僕は立ち上がった。行くねと言って去ろうとする。

「光聖……。」

 琉が涙ぐんで僕の名を呼んだ。
 でも僕は振り返らない。琉の顔は全てが終わるまでもう見ない。

「僕もだよ…。」

 気味の悪い程静かな廊下に僕の声が反響する。

「一番最初の友達が琉で良かったよ……。」

 僕は後ろを振り返らず一目散に走った。
 階段を上がって、漸く後ろに琉はもういないことを知って、僕は立ち止まった。ゆっくりと後ろを見る。

「――――――!」

 そこには誰もいなかった。だけど…琉が床に突っ伏して泣いている姿が目にありありと浮かんだ。
 僕は耳では聞き取れない程小さな声で呟いた。

「さよなら」




「――――――――――っ!!」

 僕はベッドから跳ね起きた。
 白い壁、木製のタンス、空の望遠鏡……どれも見覚えのある物たちだった。
 そうか、夢だったのか……。
 僕は大きなため息をついてベッドから降りた。冷たい床を裸足で歩きクローゼットを開ける。

「今日は運動会だったな…。」

 そう呟いて服を取り出し窓まで歩いてカーテンを開いた。空には、どこまでも続く真っ青な空が広がっていた。