コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ ∞2幕∞突入!! ( No.291 )
- 日時: 2011/03/21 12:24
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: fQORg6cj)
9章 68話「連鎖」
鳥となった光聖君が飛び去った後、一時停止したかのように全部が止まった。そこで私は初めて後ろを…なっちゃんを見た。さっきと変わらず無表情で私を遠いまなざしで見る。そしてさっきのように眩い光を放ち、次は…さっき見たあの警官の姿になった。
青いスーツを身にまとい、鳥の刺繍を施した帽子を深く被っている。口元も黒いスカーフで覆っていて、顔は鋭い瞳以外ほとんど見えない。鋭い瞳で見つめられて、やっと我に返ったかのように私は口を開いた。
「あの人たちは…なっちゃん達? 昔も光聖君を知ってたんだね。」
その静かな口ぶりに自分も驚く。動揺をうまく隠せたみたい。
なっちゃん…というか、その警官は無言で私を見つめ返す。それを肯定と受け取って私はまた話した。
「迷い星クズは平衡を乱すって言ったけど、光聖君は…何も悪いことしてない。なんで敵なの…? なんで仲良くできないの!?」
最後のほうはついきつくなってしまった。怒ってないといいけど…。
警官は私の言葉を聞いて眉を寄せた。ため息をついてやっと話す。
「私も彼等に害はないと思う。でも私たちは所詮駒。上が好きなように操れる、それだけの存在よ。」
「でもっ…!」
「私たちは、上が走れと言ったら走るし、囮になれと言ったらなり、仲間同士殺しあえと言われても…その通りにする。私たちに権利はないに等しい。」
その冷酷な言葉を聞いて、私は恐怖さえ覚えた。彼女の言う――――いや、彼?――――上というのは、そんなに怖い存在なのだろうか?
彼女は――――この際彼女にしておこう――――冷たい瞳で私を見つめた。何の感情も見えない目。その目を伏せてフーと彼女はため息をついた。すると停止していたここの空間が歪み、ろうそくの火を息で吹き消したかのようにフッと一瞬であっけなく消えた。そしたら辺りがまたさっきのように暗くなる。しかし自分たちの周りだけ縁どられる様に光を帯びていて、怖くない。丁度良い薄暗さに心が安らいだ。
「いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、今から順々に説明するから。なるべく黙ってて。」
又なっちゃんの姿に変化して、彼女は言った。なっちゃんの姿のほうが話しやすいのだろうか。私がうなずくのを確認して彼女は話しだす。
「この日、光聖に逃げられてから、私達は転々と移り住んだ。そしていろいろ策を練って光聖をとらえようとしたけど、そのたびに逃げられた。まさに鼬(いたち)ごっこだったってわけ。…一回、もうちょっとってところはあったけどね。」
そういって彼女は私をちらっと盗み見る。よほど興味津々な顔をしてたのだろうか、また深いため息をついて話し始めた。
「全然捕まらないから、一回『誘惑作戦』っていうのをやってみたのよね。聞けば分かる通り、そのまんま。一人が女の子になって近付いてみようって作戦。女の子役はヒナ…日向茜に決まったわ。だって私たちのチームただ一人の女子だもの。それで光聖の生活する中でちょくちょく話したりするうちに、光聖は…ヒナに惚れちゃったの。」
最後のほうは嘲笑にも見て取れる笑い声で占めた。この話をするのがこの上ないくらい楽しいようだ。
さっきまで、本当に敵かな? と思ってた自分が馬鹿らしく思える。この人たちに情はあるのだろうか。本当に、正真正銘の鬼だ。
…でも、と私は考え直した。もしかして上の権力という圧力に押しつぶされて、心の中ではもがき苦しんでるのではないだろうか。自分の感情を表に出さず、“鬼”という殻で自分を守っているのでは?
どちらが正しいのかわからない。とにかく今は彼女の話に集中しよう。
「で、ちょっと二人がいいムードになってた時に…変身してやった。もう少しで捕まえられたんだけど…光聖が悔しさに泣いたら、彼女、急に止まっちゃって。結局逃げられたってわけ。」
だからあのプラネタリウムの日に、日向さんにあった途端顔が蒼白だったのか…。本当はあの日、光聖君は全部わかったんだ。…でもなんですぐに決着をつけなかったんだろう?
疑問が疑問を生む。その連鎖想像以上に辛かった。
なっちゃんはチラチラと頻りに私を盗み見る。まるで何かを確認するように。
「…なに?」
「いや別に…なんでもない。じゃあ次の話行くけどいい?」
「…待って! その前に質問。その、日向さんが女の子になったりしたけど、その後も光聖君を追って移り住んだわけでしょ? でもその女の子が生きていたって事実は取り消せないし…。その身が滅ぶまでその地域にいるの?」
「うん、いいところに気付いたね。そこを今から話そうとしてたんだけど…。まず、私達は赤ちゃんから死ぬまで人生を送るんじゃない。で、いろいろ変身できるからその存在を人々に定着させなくてもよかったんだけど、そうしたほうが任務を遂行しやすいのよね。…ほら、今私達は“安藤なつみ”や“伊集院琳”でしょ。で、その子は実際に存在する。でも私たちは赤ちゃんから“安藤なつみ”じゃない。…わかる?」
「つまり…一時的にその存在を乗っ取る…ってこと?」
「乗っ取るっていうといい気分しないけど…まぁ、そんなとこ。私たちの間では『乗り移る』って言ってる。」
「じゃあ、なっちゃんも…あなたに乗り移られたのね?」
彼女は静かに頷いた。その様子を見る限り悪いことをしてるとは思ってないらしい。
でも、じゃあ本物のなっちゃんの魂はどうなるのだろう?
その私の疑問を、まるで聞こえたかのように彼女は答える。
「本物のなつみの魂も私の身体の中にある。でも、一つの身体に魂二つは無理があるから、当然タイムリミットもある…。私はこのなつみの姿でいられるのは一年…もって二年ってところ。」
「いつから…? いつからその姿なの?」
「去年の…夏ごろ? もう10か月くらいたったから、なつみの魂を抑えられなくなってる。ここに来たのも半分この所為。本当は永遠の地獄を味あわせようと思ったんだけど…あ、そんなに怖がらないで。なつみの魂が猛反対してね。私たちは“器”の意志を重要視するの…だからここに来たってわけ。」
「でも勝手に来たらいけないんじゃない…?」
彼女は呆れた顔で私に問う。
「本当にちゃんと聞いていたの? それはここに来た理由の半分。もう一つの理由は…上からの命令よ。」
…?!
この言葉は私の気を転倒させた。どうして?
しかし、彼女に聞こうと口を開きかけたら彼女は手を挙げて私を制した。凄みを聞かせた瞳で私をにらむ。
口をはさむな、ということらしい。私は不満げな顔で開きかけた口を閉じた。まぁ確かに、私が発言すると余計ややこしくなるかもしれないけど。
- Re: ☆星の子☆ ∞2幕∞突入!! ( No.292 )
- 日時: 2011/03/21 13:04
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: fQORg6cj)
- 参照: 続きです。
そんな私を彼女はしっかりと確認し、話を続ける。
「え〜っと…どこから話せばいいのかな。まず、私達が移り住む人たちを私達は“器”って言ってる。だけどリミットは一年…私達にとっては短いけれど、人類にとって一年は長く大切なもの…。私達はもう移り時だと感じたら、その身体から出ていくけど、その私達が過ごした一年は“器”の魂にとって空欄ではない…その魂は実際に過ごしてない日々も過ごした、と認識するの。だから“器”の意志を尊重するわけ。私達が変なことをしでかして去った後、その“器”が大変になるから。」
私は首を傾げた。どうも頭が回らない。理解できない部分が大半だった。
でもつまりは、彼女たちは『なっちゃん』という“器”の中に入ってて、でも一年くらいしたら出ていく。で、その彼女たちがすごした日々は『なっちゃん』の記憶となるわけか…。
よくできている、と私は思った。矛盾を理屈に食い込ませ、正しいことのようにする…。そうしたら彼女たちの存在をこの世にさらすこともない。
でも私がその極秘情報を知ってしまっていいのだろうか?
そう考えた後思った。その情報を私が知ってもいいと思ったからこそ、彼女は私に言ってくれたのではないか?
そんな風に私が考えにふけっている間にも、彼女の話は続く。
「―――だから日向はプラネタリウムの手伝いをしてたの。それが本物の“日向茜”の求める姿だから。…っと話が脱線したわね…。とにかく、大切なのはこの後なんだけど…。」
そういって彼女は澄んだ瞳で私を見据える。本当にきれいで正直で偽りのない瞳――――。そんな瞳で見つめられたものだから、私は不意にドキッとしてしまった。その瞳を見たことがある、と思ったからだ。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「…率直に言うわ。あなたは…『迷い星の子』よ。」
「へ?」
あまり驚いて間抜けな声が出てしまった。なんのこと??
彼女はすまなそうな表情で続ける。
「あなたのお父さん、『天野輝』は実は光聖と同じ迷い星クズなの…。だから――――」
「ちょっと待って!! 私それ知ってるから!! それに――――」
「―――…そうか、光聖が話したのね。なら話は早いわ。あなたは迷い星と人間との間に生まれた『迷い星の子』。」
…光聖君に聞いた話と違う。そもそもお父さんは義父だし…。
「だからそれ――――」
「黙って聞いて。私達は星クズと人間の間に子供ができるはずないと思った。でも…あなたが生まれた。これがどういうことを意味しているか分かる…? ――――あなたは私達にとって大切な実験台なの。だからここを訪れたってわけ。勝手にしなれちゃ困るから。」
何となく自分の置かれた立場が理解できた。
彼女たちは勘違いしている。お父さんは義父。私はれっきとした人間の子。でも…そのことを言ったらここに置いて行かれるのは目に見えている。次は私の命が危うい。
ここは黙っとくのが吉だ。
そう考え私は黙り、それがちゃんと聞いているように見えたのか彼女は満足げに頷いた。
「あなたをここへ送った後すぐに上から命令が来たの。…で、連れ戻しに誰が行くかってことになって、魂が不安定だったのもあったから私が急遽来たってわけ。」
「じゃ…ちゃんと戻れるんだね?」
私は確認のためもう一度聞いた。彼女はしっかりと頷く。…でも帰ったあとは何をするんだろう? 私は彼女たちに連れて行かれてしまうのだろうか?
「じゃ…大切なことも言い終わったし、帰ろうか。」
そういって彼女はまた光の球になった。今度はもうその光を恐怖のシンボルと思わない。暖かくて使命感で満ちた光だった。
そんな光が私の手にゆっくりと近づく。私はさっきのように騒がず光を受け入れた。そして光が手に触れた途端、眩い光に包まれる。
でも私は大切なことにまだ気づいてなかったのだ――――――