コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ ( No.363 )
- 日時: 2011/05/25 12:55
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: O/vit.nk)
10章 74話「火の粉は舞う」
僕がそういうのを聞いてヒナは大きくため息をついた。それは、僕がそう簡単に折れるとは思ってなかったし、その分痛い目に合わせたかったからだろう。
「残念だな。お前とこうも早く別れる時が来るとは。」
ナツは言いながら手を伸ばした。僕の吊るされた十字架の下の部分に、手が触れる――――
「!?」
――――とその時、僕の身体に異変が起きた。
体から眩い光が放たれる。身体の奥底から熱いパワーが滾るのを感じて、僕は思わず表情を緩ませた。勝利の女神は僕のものだ!
手首についた鎖を引きちぎり、体操選手のように一回転して飛び降りる。
「ハッ! お前らに捕まる気なんかさらさらないね!」
面喰って一歩も動けないやつらを置いて、空のもとへ駆け寄った。「空!」と僕は彼女に向かって手を伸ばす。
空の行動は早いものだった。後ろに足を突き出し、ナイフを持った警官に蹴りを食らわせ僕の手に自分の手を滑り込ませる。
「行こう。」
「うん!」
空の元気な声を聞き、僕はホッとした。首にナイフを突き立てられてたから精神がマヒしてるかも、と内心心配してたのだ。でも空はそんなにヤワじゃないらしい。
いつの間にか首輪も取れていた。僕の足枷はもうない。にんまりと笑みを浮かべ跳躍する。背に力を込めバサッと優美な白い翼をはためかす。
一拍おいてやっと警官らは追ってきた。目を白黒させているところを見ると、僕がどうやって鎖や首輪を取ることができたのか疑問でしょうがないらしい。
いい気味だ。
奴らも鳥になり僕を追うが流石に追いつくことはできないらしい。しかもなぜだか遠距離用の捕獲弾という卑怯な手も使ってこない。僕を傷つけたいはずなのに、なぜ攻撃しない?
すると僕の手をおちないように強く握り、ぶらぶらと流れに身を任せていた空が唐突に切り出した。
「多分ね……」
「うん?」
「多分追うだけで何もしてこないのは、私が大切なデータだからだと思うの。」
「データ?」
「うん。なっちゃんたちは私がお父さ……輝さんの子供だと思ってて、いわゆる『迷い星の子』って大切なデータとして考えてるんだよね。だからむやみに攻撃しないのかも。」
なるほどね。じゃああの空に刃を当てていたのも本当は僕を脅すためで、空を傷つけるつもりは端からなかったってことか。
一人で納得して後ろを振り返る。……あれ?
「ナツたちがいない……」
と僕が言いかけたところで、空が彼らの意図を察し叫ぶ。
「光聖君、前!!」
「あっ……!」
僕が気づいたときはもう遅い。前はナツ、左右にはリンとヒナがそれぞれ構えていた。後ろは何十人かの警官たち。前後左右まんまを塞がっている僕らにはどうすることもできない。
しかしじりじりと僕らに近づいてくる警官たちは大切なことを見失っていた。動転して頭が回らなくなってしまったんだろうか?
(下、だな。)
「空、ちゃんと掴まって。」
「えっ? う、うん。」
空は僕の腕にしっかりとしがみついた。
空を確認して僕は宙を蹴り急降下する。空はびっくりして体を竦めたが、僕は吹いてくる風が何とも心地よかった。宙を滑るように滑走して正面にある扉へと飛んだ。
もう警官たちは追ってこなかった。代わりに後ろからヒナの忌々しげな舌打ちが聞こえる。
僕は最後に大声で笑ってやった。
- Re: ☆星の子☆ ( No.364 )
- 日時: 2011/05/25 12:58
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: O/vit.nk)
また、逃げられた。
大切なデータ諸共。
砕け散った夢。
ああ、あなた様は
こんな私を、お許しになられるでしょうか。
「ナツ、呼んでいる。」
彼は誰が、とはあえて言わなかった。
私の憔悴しきった背を励ますように叩く。
私は言葉を詰まらせながら、なんとか一つの言葉を紡いだ。
「――――っ、ありがとう。」
これが一番適切な言葉だった。
彼の優しさに対しても、別れの言葉としても。
もちろん彼は前者の意味として受け取る。彼はふっと表情を緩ませて私を急かした。
「早く行け。」
「リン――」
「早く。」
結局私は言葉を切った。
そして扉に手をかけようとして、やめる。
その時刹那強気の女が目に浮かんだからである。
あいつにも言わなきゃ――――!
私は踵を返して階段へと向かう。彼女がいる場所は見当がついていた。
「っ、ヒナ!!」
静かな風が吹く屋上にヒナはいた。いつの間に太陽が隠れたのだろう。明るい満月が当たりを銀色の光で照らしていた。
珍しいことにヒナは帽子とスカーフをかぶっていなかった。短い茶髪が風に吹かれ満月を見上げる姿は幻想的で、なんとも美しかった。
ゆっくりとヒナは振り返る。顔をしかめていつもの調子で声をかけた。
「私になんか用?」
少々吊り上った瞳に高い鼻、紅潮した頬に不満げな唇。その全てが戦うには美しすぎた。
私は反射的にふっと目を逸らす。
「用がないんなら私は行くわ。」
玲瓏な声を響かせた彼女は私の横を通り過ぎる。私はぎょっとして思わず声を上げた。
「ま、まって!!」
ヒナは振り返り、冷徹な瞳で見据える。
リーダーに対してなんだ、その目は――――。
そういいたいのをグッと我慢して、私は後悔した。
やっぱりこいつに会いに来たのが間違いだった……。
「何よ?」
彼女は尚も冷たい視線で問いかける。
ヒナにもいろいろ迷惑かけたな……。
私は一人で感慨にふけっていった。
「ちょっと?」
ヒナがまた帰りそうだったので私は焦る。
「ごめんごめん。」
そして何だか妙に恥ずかしくなりそんな自分を奮い起こして、はにかむように笑った。
リンに言ったように自然に――
そう心がけてヒナにも言う。
「あの……ありがとう。」
彼女は瞳を大きく見開き少しの間静止する。そして私に向き合って口は弧を描いた。
ヒナが笑ったのだ。
私は驚きを隠せないでいた。任務に成功しても失敗しても私には笑みひとつ見せなかった彼女が――笑った。
驚愕した私は瞬きする。夢ではないだろうか――そう思って開いた瞼の先にはもう、ヒナの姿はなかった。
代わりに雲が月を隠し、辺りは陰る。私はポツリと頬にかかった水の正体を求め宙を仰ぐ。
「雨、か。」
雨は徐々に小降りから土砂降りへと変わる。
私の頬を濡らすのは、水以外の何物でもなかった。
「H・F様、G−172 ナツです。」
うむ、とくぐもった声が聞こえたので、私は重く頑丈そうな扉を押し開けた。
H・F様はいったいどんな姿をしてらっしゃるのだろう?
私は興味半分恐怖半分に、おそるおそる中へ入った。
人によればH・F様は青い龍だったり、羽のついた虎だったり、はたまた巨人だったりと意見が分かれる。それを自分で確かめられるのだから、満更悪くはないかもしれない。
そう思いながら私は辺りを見回した。赤、黒、金色で統一されているここは人が使ってる感じはせず、ただ見た目が綺麗なだけの殺風景で、私は妙な寒々しさを覚えた。
誰もいない――――?
「H・F様?」
私の呼びかけにH・F様は答えた。壁、から。
「ここにいる。」
まるで壁にそのものの存在が浸透しているかのようだった。
私は言葉を失い、ただただそこに突っ立っていた。
その私の様子に気づかぬような素振りで――それともこういうのには慣れているのだろうか――H・F様は話し始める。
「今日も迷い星を捕らえ損ねたようだな。」
「……は。」
「今回で何度目だ? もう10回近く逃がしているのではないか?」
「その通りでございます。」
そういった途端重い熱気を感じ、私は今更自分の犯した罪に苛まれた。
H・F様はそうとうご立腹のようだ――。
焦った私は必死に言い訳を繕う。
「し、しかし次こそはもっと兵力を集め、必ずしや貴方様のお役に――」
「もうよい。」
私の言葉をH・F様がきる。その言葉を聞いて私は胃が竦む思いだった。
「お前にはここで消えてもらおう。」
「し、しかし――」
「私が嫌いなものは何かわかるか?」
「い、いえ。」
「私が嫌うものは三つある。一つ、役立たず。」
「H・F様――貴方はホーリー・フェザー様なのでしょう?」
「二つ、私の話に口を挟むもの。」
私はぱたりと話をやめた。
すると壁が暗闇に映える明るい水色に点滅し始めた。壁の奥で力が圧縮されるのを感じる。
「っ……」
「どうした。何か言いたいようだな。」
「H・F――いえ、ホーリー・フェザー様。貴方はそんな無慈悲なことをなさらない筈です!」
「お前のような役立たずを処分するのが無慈悲だと? 笑わせる。」
圧縮された力が更に収縮され、力が弾けるのを感じた。
それは瞬く間に私を包み込む。
「私の嫌いなものの三つ目、それは……」
「ホーリー・フェザーさ――――――――――」
「私を忌々しいホーリー・フェザーという名で呼ぶことだ!」
瞬時に部屋を包み込んだ水色の玉。それは中にいた者諸共巻き込み、大爆発を起こした。
鮮やかな金色の火の粉がハラハラと舞い散る。
そこには金色の翼をもつ鳥を描いた帽子しか、残っていなかった。