コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ ( No.366 )
- 日時: 2011/06/11 17:22
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: O/vit.nk)
∞2幕∞
11章 75話「幻の日常」
世界は回る。
誰が消えようと
誰が日常をつかもうと
構いなく。
私は歩きなれた通学路を一歩一歩噛みしめる様に歩いた。この日常の平和を噛みしめる様に。
ヨーロッパからの帰国――というより逃走を待ってくれたのは温かい家族だった。一時停止したかのような運動会は都合の良い事情になっちゃんたちが変えてくれたらしい。どんなふうになったのか見ものだね、と光聖君は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
光聖君のことを思い、私は無意識に自分の手を見た。ゆっくりと握りしめて、また開く。あの時はとっさに手握っちゃったんだよなぁ……。
あの時の余韻に浸りながら私はボーっと青空を見上げた。カラッと気持ち良く晴れた快晴も、暗い影を隠していることに気づかずに。
「おはよーっ!!」
そんな私の背中をドンと押し大声で挨拶する人物。それは紛れもないなっちゃんだった。
私は一瞬言葉を失った。まだナツさんが乗り移ってるのだろうか?
しかしそれは違ったらしい。
彼女は私の横で歩いていた光聖君を見ると、熟したリンゴのように真っ赤に頬を染めた。
「き……如月君、おはよっ!」
それだけ言うとこっちなどはもう振り返りもせず、学校とは逆の方向に向かってなっちゃんは走る。私が慌てて「そっちじゃないよ!」と注意すると彼女は振り返りざまにこけた。それも何もないところで。
私達は最初呆気にとられ声も出なかったが、彼女がその友人に起こしてもらう姿を見てやっと忍び笑いを漏らした。それがだんだんお腹を抱えて笑うくらいに、笑いが膨れ上がる。
(なっちゃんって、本当はこんな子だったんだぁ。)
「ね、光聖君。」
「なに?」
「平和っていいね。」
私の満面の笑みに光聖君は少し悲しげな微笑を作る。「そうだね」と頷いて空を見上げた。
太陽よりもっと遠くを見つめるような、遠く寂しい眼差し。光聖君は今もやっぱり故郷に帰りたいんだろうか。
そう考えると胸がちくりと痛んだ。
それから3分経っただろうか。私達は無事(何もないことが不思議でたまらない)、学校に到着した。
ガヤガヤと賑わう教室へと入った私達に「おはよう」と声がかかる。こちらも笑顔で挨拶を交わし席へ着く。すると前の席に座っていた親友がやや顔を曇らせ私に話しかけた。
「運動会もうやらないんだってさー。リレーやってる時にいきなり雨降ってくるなんて、ホント天気って空気読めないよねー。先生たちも、あと少しだったのになんで中止にしたかな。」
天気に空気が読める読めないなど、あるのだろうか――?
そう考えながらも私は一応相槌を打っておいた。リレーの時に雨が降ったって記憶にしといたんだ。お母さんも日曜日の朝三時ごろに帰ってきても何も言わなかったし……。よくコントロールできてるなあ。
楓はそんな私の考えてることなど気づかずに、次は表情を綻ばせた。
「でもいっか。結局私達が勝ったんだし。柊先輩の悔しがる姿、空にも見せたかったよー。超不機嫌になってすっごく面白かったんだから!」
「見なくても想像つく!」
と、ひとしきり笑ったところでチャイムが鳴った。時間にうるさい先生はいつものようにチャイムが鳴った数秒後に教室に入ってきた。
「起立、礼」と佐藤君の掛け声に合わせ、私たちの挨拶が教室に響く。その声に先生は満足げに頷き、朝一番の吉報を知らせた。
「えー、ゴホン。まず、今日転校してきた生徒を紹介しよう。西條 凛久君だ。」
先生の言葉を聞くや否や、教室中が激しい高揚感に包まれる。
「如月君よりもかっこいいかな?!」「そんなに理想高いと後でがっかりするよ」「ラグビー部に勧誘しようぜ!」「違う、サッカー部だよ!」「なんでサッカー部なの?」「え? 名前的に」「意味深だな」「なにそれ〜」
などなど話は尽きない。
先生は両手を挙げてみんなを鎮め、「入ってきなさい」と優しげに言う。
転校生はゆっくりと入ってきた。
私より背丈が20?は高いのではないかと思われる長身に、輝くような美しい金髪。その流れるような長髪を後ろでくくり、鋭い眼光は私を捕らえる。『美』をつけてもつけたりないほどの美少年。私と目が合うと彼は瞳をキラリと光らせた。
突如私を襲った不思議な既視感。この癖知ってる――――。
「リンさん……?」
私の呟きに光聖君はそんなはずないと、鋭い視線を投げかける。その眼差しに根負けし、「そうだよね……」と自分に言い聞かす。
私の不可解な言葉はみんなには聞こえなかった。なぜなら周りは周りでとんでもない騒ぎだったからである。女子は黄色い声を上げてこの吉報を喜んだ。「如月君よりもかっこいい!」と女子は見定める。これからは『西條君ファンクラブ』の時代だろうか。逆に男子はとてもしらけていた。女子をみんな取られたからである。佐藤君、光聖君、そして西條君と来た。まだほかの男子に振り向く女子などいるのだろうか?
「西條君は前までヨーロッパのほうに住んでいたのだが、わけあってお父さんのいる日本に帰ってきた。慣れないところもあるだろうから皆、いろいろ手伝ってやってくれ。」
西條君は顎を引き軽く挨拶するとみんなの視線の中、机へと歩き出す。空いてる席は一番後ろの列。その中で彼は光聖君の後ろの席に腰を下ろした。
そして前へ身を乗り出し光聖君の耳元で囁く。
「久しぶりだな、迷い星。」
「っ!」
とっさに光聖君はがたっと腰を上げ、ありえないものを見るかのような目で西條君を見た。身体は心なしか震えている。
やっぱり、そうなんだ。彼は――西條君は――――
「リン……!」
鮮やかな金髪を風になびかせ、名前を呼ばれた彼は瞳をキラリと光らせた。
日常の中の平和なんて、そう簡単に戻ってくるもんじゃないな――――。
日常を掴んだ少女は、それがただの幻想にすぎなかったことを身に染みて感じた。