コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆      ( No.378 )
日時: 2011/07/16 18:52
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: clpFUwrj)
参照: リンさん嫌われちゃうかも……;

11章     77話「怒り」


 私の平和で静かな毎日――――には程遠い、非日常的な騒がしい毎日は、今日も続く。

「はぁ……」

 私はウンザリとため息をついた。今日も私の周りは一際暑苦しい。
 私は毎日光聖君と一緒に登校していた。最初は女子たちが光聖君目当てに群がっていたが、今ではすっかりそれもなくなっていた、その時。なんとリンさん――西條凛久君――も一緒に登校することになったのだ。迷い星を観察するためだそうだが、これを女子がほっておく訳がない。同時に光聖君とリンさん、二人を拝めるのだから。
 女子たちの声が騒音として――私には騒音としか考えられない――私の耳に入ってくる。何故私もこの中に巻き込まれているのだろう。
 しかし私は光聖君の横を離れなかった。
 と、一人の女子が私を強く推す。

「ちょっと、邪魔!」
「わっ……!」

 いきなり押されたのでどうこうもできない。不可抗力のために私はよろけ、転んでしまった。当たった部分がヒリヒリと痛い。
 なんで私がこんな目に――――
 そう思いながら立ち上がろうとした私の目の前が陰る。驚いて上を向くとリンさんが私に手を差し伸べていた。

「え……」

 私は一瞬戸惑った後、手を取った。ぐっと力強く引っ張られ、気が付くと私は地に立っていた。ほっと溜息をついて笑顔を作る。

「ありがと。」

 リンさんは私から顔を逸らし、女子の群れの間をかき分けるように前へと進んでいく。
 私は何もしなかった光聖君をキッと睨み付けた。
 女子がみんなリンさんについて行ったのを見届けたところで、恨みがましく話しかける。

「誰のせいでこうなったと思ってんの。」

 私が指差したのは転んだことで汚れてしまったスカート。地面が湿っていたため、誰が見ても転んだとわかるくらいの汚れようだ。
 それを見て光聖君は悪戯っぽい笑みを作った。



 変化に気づいたのは朝の朝礼が終わってからだった。
 みんなが教室へと歩き出す中、リンさんだけなぜか動こうとしない。
 私は不思議に思いリンさんに話しかけようと、した。

「西條く――――?」

 リンさんに隠れて見えなかったが、確かにリンさんの前に立っているのは女の子。顔はよく見えないけれど、震える彼女の手には一通の手紙があった。
 まさか……?
 女子の勘というものだろうか。私はその女の子の意図がすぐに読めた。
 ラブレターだ。
 私は近くの物陰に隠れ、様子を窺う。あのリンさんが彼女の気持ちを受け取るわけないと思うけど……。
 必死に手紙を渡そうとする女の子に対し、リンさんは冷たい眼差しで手紙を見据える。それを決して受け取ろうとしないリンさん。
 お願いだからひどい断り方をしないで――――!
 そんな私の願いは呆気なく散る。
 リンさんは溜息を一つしてしょうがなく封筒を受け取った。そしてその両端を掴むと勢いよく引き裂いたのだ。
 地に落ちるは原形すら保っていない紙切れ。その上に雫が光に反射し輝きながら、落ちる。
 ズタズタになったのは愛のこもった手紙だろうか。それとも彼女の心だろうか。
 ――――それはきっと両方だ。

 私は我を忘れ、教室へ何にもなかったように戻っていくリンさんを追った。
 やっと追いついた彼の肩へ手を置き、無理にこっちを向かせる。

「っ、リンさん!」
「何だ。」
「あ、あれはいくらなんでも、っ酷いんじゃ……」
「息を整えてから話せ。」

 リンさんの言葉に甘え、私は息を大きく吸い込んだ。いくら足の速さに自信があるといっても、息が切れるのはどうしようもない。
 じーっとその様子を見ているリンさん。どうもおかしいな、と私は思った。
 リンさんは情というより人間性がなかった。元『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』だったから、とかではなく素がこういう性格なのかもしれない。
 クールで一匹狼……そういう女子の言葉がやっとわかった気がした。
 やっと落ち着いた私は眉を顰めながら、リンさんに尋ねる。

「なんで、あんなことしたの?」

 リンさんは訳が分からないような面持ちで、一言、答える。

「受け取っても仕方がないだろう。」
「そうだけど……もっと違うやり方があったじゃない。」
「じゃあ優しく断ればよかったのか? どっちもつかない返事をして困るのはあっちだろう?」
「う……」

 そう言われると何とも言えない。
 確かに断れるのならバッサリと思い残しのないくらいに断ってくれたほうが気が楽なのだろうか。
 返答に困る私を見て、リンさんは鼻を鳴らした。

「そこまでお人よしだと、逆に迷惑だ。あの女はあいつなりに、今日の苦しみを乗り越える。お前が何をやったところでどうなる? 過去には帰れんのだぞ。」
「そうだけど……」
「あの女も馬鹿な奴だ。話したいことすらない男に告白して、了承が出るとでも? 笑わせる。」
「!?」

 リンさんの冷たい言葉に私は息を詰まらせた。
 思考が一瞬停止する。
 震える手を握り締め、糾弾の声を上げようとする衝動を必死で抑えた。
 挑発に乗っちゃだめだ……
 リンさんの言葉は決して挑発ではないと心の隅で思ったが、私はとにかく自分を抑えるのに必死だった。
 そんな私の気持ちを知りもせず、リンさんは言葉を続ける。

「愛とは愚かなものだ……。故に人はあらぬ方向へと走り、時に破滅する――――――」

 リンさんはまだ言葉を続けようとした。しかし、それは遮られた。
 私の、手で。
 気づけば私はリンさんに平手打ちを食らわせていた。

「リンさんは本気で人を愛したことなんて無いくせに!!」

 込みあがる怒りを思い切りぶつけ、私は一目散に教室へと走った。
 素直に平手打ちを食らったリンさんは、一人、廊下に立っていた。
 ある、一つの言葉を残して。