コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆  ※お知らせあり※  『キャラ人気投票』    ( No.410 )
日時: 2011/08/13 23:25
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3AvLviHa)

☆番外編☆     〜葵〜


 学校の終わりを告げる鐘が鳴り、私はいち早く席を立った。鞄の中に机の上に置いてあった物たちを全て、無造作に放り込む。
 最近、私は放課後に必ず行くところがあった。鞄は重いが足取りは軽く、私はあるところへ今日も向かった。
 大きな建物の中に入ると、丁度良い涼しげな風が吹いた。目の前は色々な本たちで囲まれている。
 そう、ここは図書館。私の好物で埋め尽くされている、本の聖地だ。
 私は迷わず奥へ進む。そして、目的の所で止まった。私が毎日通う場所は実はここ。推理小説コーナー。
 ここである人物が今日もまた新しい本を手に立っている。
 私は口で弧を描き、近寄った。

「望月先輩! お疲れ様です。」

 名前を呼ばれてやっとこっちを見る望月先輩。黒髪にスリムな体型、鋭い眼光を目に宿しどんな時でも片手には本がある、ミステリアス……というより、ちょっと変わった人だ。私が通う学校の中学3年生で、空ちゃんが所属する天文学部の副部長である。
 私は何も言わない望月先輩をよそに――無口な彼にはもう慣れた――鞄から一つの本を取り出した。

「この本とっても面白かったです! 探偵が犯人だったなんて、驚きました。斬新なアイデアですね。ずっとSF小説しか読んでなかったので……先輩に聞いてみて正解でした!」

 と、ニコニコしながらその本を再び鞄に入れる。後で返却しなければ……。
 彼をここで見つけたのはつい最近、2週間前だ。ちょっと新しい本に挑戦してみようとふらりと寄ったところ、学校では本好きで有名な――特に推理小説――望月先輩と出くわしたのだった。
 本の話となると急激に語調が強くなる私に視線を一瞬止め、先輩は本棚から一冊本を取る。

「それが気に入ったのなら、これも読めばいい。著者も同じだから読みやすいと思う。」
「わっ、ありがとうございます!」

 私は本を大切に受け取った。
 最近はいつも、これの繰り返し。図書館に来て、先輩に会って、本を紹介してもらって、ちょっと話した後に帰る。
 今日も私は本を借りた後、外へ出た。と、額に落ちるものがあり上を見ると、空が曇り今にも土砂降りが降りそうな勢いであった。現に、雨の量は増し、小雨といえる状況ではない。
 私は急いで鞄の中を見る。しかし、天気予報すら見ない私が傘を持ってきている筈がない。私は泣きそうな思いで空を見上げた。

(ここから家まで結構距離あるんだよね……びしょ濡れになるわけにいかないし……かと言ってここで雨宿りは嫌だなぁ。あ〜どうしよう……)

 と、一人で悶々と考えていると後ろから声がかかった。

「……帰らないのか?」
 
 見ると望月先輩が本を片手に、私に話しかけていた。
 「あ、いや……」と少し言うのを躊躇って、私は正直に白状する。

「ちょっと傘を忘れちゃって……」
「……俺持ってるけど。」

 照れ笑いを浮かべる私に、望月先輩は無表情で右手にあった傘を差し出した。紺の傘は大人二人は余裕で入るくらいの大きさで、傘をさしながら本を読むためだろうと、私は勝手に推測する。
 グイっと私に傘を突き出し歩き出そうとする彼を、私は必死で止める。

「先輩だめです! 濡れちゃいますよ!」
「俺はいい。」
「それに本も――」
「……」

 それを聞いてやっと止まった望月先輩は「じゃあ俺も入ろう」と傘の中に入る。「えっ……」と私は一瞬驚いたが傘に入らないわけにもいかないので、素直に彼の言葉に甘えるとした。
 なぜだか私が傘を持ち、望月先輩はその中に入って歩きながら本を読むという変な絵になる。遠目から見ればカップルに見えなくもない。
 無言で歩く望月先輩。だけど先輩の家はこっちの方角じゃないんじゃ……?
 そう考えて私は彼を呼びとめる。

「せ、先輩? 家の方角はこっちじゃないのでは……?」
「五十嵐の家はこっちだろう。」

 顔がほてるのを感じた。私はみっくん(佐藤統)一筋の筈なのに……。
 動悸が俄かに速くなる。私は急いで顔を背けた。一瞬の気の迷いを顔で表すわけにはいかない。

Re: ☆星の子☆  ※お知らせあり※  『キャラ人気投票』    ( No.411 )
日時: 2011/08/17 10:50
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: uRjlitq/)
参照: 望月先輩がカッコよすぎるっ……!!

 ――――と、眼の端に見慣れた人物が映り、私は顔をあげた。
 その人物は茶色の混ざった黒髪を雨に濡らし、心なしか潤んでいる瞳を揺らし、立っていた。
 私は一瞬、心臓が止まった思いだった。やっと言葉を繋ぎ話しかける。

「み……みっくん? どうしてここに……」
「……葵ちゃんがまだ帰ってきてなかったから、雨で困ってるかと思って――だけど、邪魔しちゃったかな。」

 家が近所のみっくんは私を心配してきてくれたようだった。傘をささずに、ここまで走ってきてくれたらしい。
 雨でぬれた顔をくしゃっと歪ませみっくんは精いっぱいの笑みを作った。しかし、その笑みが無理矢理作った偽物の仮面だと、私は一目でわかった。

「違うの、みっくん! これはそうじゃなくて……」
「無理しなくていいんだよ、葵ちゃん。言い訳なんかしないで――」

 そこまで言うと彼は今来た方向へと駆け出した。跳ねた泥のせいだろうか、視界が歪み何も見えない。
 私が追いかけようか迷っていると、横で口を挟まずに立っていた望月先輩が、私の持っていた傘を手に取った。無表情でたった一つ、言う。

「行け。」
「――っ、ありがとうございます! さよならっ。」

 そう言って私は彼を追う。
 望月先輩はとっても優しかった――――でも、私の心にあるのは……!
 ただ、私は彼を追う。自分が何をしたいのかも知らず、彼に辿り着いて何をするのかもわからない。
 ただ、体の動くままに追う。体が泥にまみれても、足が動かなくなっても。
 交差点についた。私がたとえ全力で走ってもあのみっくんに追いつく筈がない。完全に見失ってしまった。

「はぁ……」

 私は立ち止った。雨が私を叩く。水がぽたぽたと音を立て、落ちる。

「寒っ……」

 もう6月中旬なのに冷たい雨が私を濡らし、冷風が私の傍を通り過ぎる。
 足に力が入らなくなって、私はその場に座り込んだ。顔を膝にうずめて、しゃくり上げる。そして堪らずに自分の気持ちを吐き出す。

「私は、みっくんが好きなのにっ……!」

 後ろに人の気配を感じた。その人物はゆっくり私に近づき、聞き覚えのある声で問う。

「……それ本当?」
「!?」

 私は驚き咄嗟に立ちあがった。顔が上気して何も考えられない。
 後ろにいたのは、紛れもない、みっくんだった。

「ど、どうしてここに?」

 この質問は今日で二回目だ。それに彼は真面目に答える。

「歩いてたら葵ちゃんが僕を追い越して行ったから……」
「追い越した!?」
 
 信じられないことを聞いて、私は倒れそうになった。気が動転して馬鹿になってしまったのだろうか?
 そこまで考えて私はまた顔が赤面した。さっきの完全に聞かれたっ……!!
 私は必死にさっきのを言い繕うと、した。

「さ、さっきのはっ……――」
「――僕も好きだよ。」
「えっ……」
「葵ちゃんのこと。」

 そう言ってみっくんは微笑んだ。私は心臓に矢が突き刺さったように胸が苦しくなり、何も言えなくなった。
 と、嬉しさ半分驚き半分にふらついた私の手首をみっくんが掴む。
 そしてきらきらと輝く笑みを浮かべ、「帰ろうか」と一言彼は言う。

 私たちの上を跨ぐ七色の虹はキラキラと、輝いていた。
 この日は、私の中で最高の日となった。